第16話 ケンカの後の平和な午後


俺は今、チビっ子にケンカを売られている。


 サイズで侮ってはいけない。相手は多分強い。


 どうせなら八に先に戦わせて相手の強さを知る・・・・・・という卑怯な戦法ができればいいのだが、あいにく奴はこの場にいない。






 「いや~人違いだと思いますよ・・・・・・俺そんな強くないと思いますし・・・・・・」






 と、言い訳して戦闘を回避しようとするが、チビっ子はそんなことお構いなしにずんずん近づいてきて、その分俺は後ずさる。




 「往生際が悪いぞ。 勝負っつったら勝負だ!!」




 いきなりパンチをかましてくる。


 そのスピードは凄まじく速く、並の動体視力では捉えられない程だ。


 俺は間一髪手の平で突きを受けた。


 じ~んとしそうだが、次いでくる蹴りを受けるために痛さを感じている暇はない。






 このチビっ子・・・・・・強い!!


 漫画に出てきたという記憶はないから、この人物のことは全くわからない。


 少し狡いと自覚しているが、漫画に出てきた相手だったなら相手の戦い方の特徴を知っているから戦いやすい。だがこの相手は初見で、しかも並の強さではない。   


 相手に攻撃する暇を持たせず、俺も攻撃を避けるか受けるだけで精一杯だ。


 正直ずっと神経をとがらせることに疲れてきた。


 なんせ、攻撃を目で追うのさえ難儀なのだ。




 これは・・・・・・今日家に帰ったら目に当ててリラックスできるホットなアイマスクみたいなのしなきゃな。








 他ごとを考えていて少し動きが鈍ったこともあり、ちびっ子の拳が頬をかすった。


 一瞬遅れて、ちりっとした痛みを感じる。




 次に繰り出される攻撃に身構えると、相手の動きはピタリと止まった。




 「・・・・・・?」








 疑問に思って相手の様子を窺っていると、


 チビっ子はふぅと一息ため息を吐き手をブラブラ振りながらこう言った。








 「お前、弱いわ。




    避けてばっかでつまんねぇし」
















    ハァァアアアア!?


 イラァときた。




 少なくとも今さっきこのチビにやられた相手よりは強いし、少しくらい褒めてくれたっていーだろ!?




 てか、このやられた奴が弱いのか? そして、俺も弱いのか!?


 いやこの10数年『俺ってそこそこ強くね?』とか思ってたのが恥ずかしい!! っつーか俺がこんなに弱いんじゃチヒロの顔に泥塗ることになるんじゃ・・・・・・


 ハッ! 俺はNO.2という肩書きを取り消さなければならない。こんなに弱いんだから・・・・・・






 憤慨しその後意気消沈していると、チビは屋上から出ていこうとする。


 俺はすかさず






 「いきなり襲ってきてその言い草は何なんだよ! このっ・・・・・・おチビめ!!」




  と大声で叫んだ。






  突然対面させられた自分の弱さに狼狽え、その原因を作ったチビにめっちゃ子どもっぽいことを言ってしまったが、ストレス解消じゃこんにゃろぅ!!




 すると相手は勢いよく振り返って、真っ赤な顔で




 「・・・・・・俺は3年の和馬かずまだ! 覚えとけやこの野郎。


     それと俺のことチビとか言うな!! 次言ったらぶっ殺すぞクソアマ!!! 」




 と叫んで走って行った。






 く、クソアマだと・・・・・・? アマじゃねーよっ!


 しかも、3年生だと・・・・・・!? 信じられん!! 








 俺はふんすか鼻息を荒くしながら弁当を置いてある所まで戻り、どすんと座る。


 そのとき屋上の扉が再び開き、またあの至極失礼なチビめが来たのかと思って嫌みったらしく振り返った。




 「なんだ忘れ物かよ、チビっ子先輩?」




 「あ、真希くー  ん?チビ??」




 「あーーーー!!違う違う寝ぼけてただけ! ほらここ風気持ちいーじゃん?さっき寝ちゃっててさ。  それより! 遅いぞみんな!!!!」






 入ってきたのはあのムカつくチビっ子、ではなくチヒロたちで俺は大いに慌てた。


つーかマジ遅かった! 3人で一体何やってたんだよ。俺だけ仲間はずれかよっ・・・・・・ぷぅっ!


特に八!! お前いて欲しいときに限っていねぇんだから!!




 「ごめんなさい真希くん。ちょっと先生に頼まれごとされてたの思い出して。


黒原くんと猿里八くんも手伝ってくれたんですよ」




 「悪ぃなマキ。 メールすればよかったな」




 「待てなんでマキのアドレス知ってんだお前」






 ここ一二日でユウキはかなりチヒロと八と打ち解けた。本当に見た目によらずぐいぐい来る。




 ほんとはこんな最初からこんなに喋る仲じゃないのになぁ俺たち。


 なんだか不思議な気分だ・・・・・・ユウキって意外とコミュニケーション能力高いよな。




 「うわぁーー本当ここ風が気持ちいいですねーーって真希くん!!




   その傷、一体どうしたんですか!!?」




 「ん?傷?・・・・・・ってマキ!!?なんだその白くてすべすべした超絶姫肌ぷるるんほっぺにある許されない傷はぁ!!!?」




 八がコワイ。なんか言っていることが全然わからなくてコワイ。




 ユウキはわたわたし、八はあわあわし、チヒロは目を見開いて固まっている。






 「・・・マキ、 それ誰にやられた」








 マキ、八、ユウキは一瞬それがチヒロから出ている声だとわからなかった。


 自分たち以外に屋上に誰もいないにも関わらず。




 それほど普段聞くものとはかけ離れた低さと凄みを持っていた。


 それはマキでさえ聞いたことがないものだった。








 俺はビクつきながら正直にさっきの出来事を話した。


 すると、ユウキの目は輝き、八は苦い顔をし、チヒロは・・・・・・めちゃくちゃ落ち込んだ。




 ・・・・・・ん? なんかこの人たちのリアクションおかしくね・・・・・・?






 そしておもむろに動き出す3人。


 「「マキ、今すぐ俺と保険室に――


 「真希くん、そこ痛いでしょ。  ちょっとしみるけど・・・我慢してね」




 ユウキが俺のほっぺに除菌ウェットティッシュを当てようとした。




 「え・・・いいよ」




 なんかチヒロと八がぐぬぬってしてるような・・・




 「だめです! 消毒してすぐ絆創膏貼るから動かないでくださいね!!」








 ユウキ・・・・・・敬語じゃなくていいけど可愛いからいいや・・・・・・


 絶対素顔めっさ可愛いやろ、この子。目とかくりっくりでさ、中に星があるのかってくらいキラキラしてそう。


 あー、この眼鏡の下にはどんな可愛い顔が隠れているのか見てみたい。




 俺はう~と言いながら、ウェットティッシュで傷を拭われるピリリとした痛みを我慢した。


 そしてユウキがポケットから絆創膏を取り出し貼れるように紙を剥がす。


 ふとその絆創膏を見ると、柄がくまさんだった――。それにバックの色ピンク――!ちょっ、ピンクて。可愛すぎない!?






 「ちょっと待って。 ユウキ、せっかくだけど俺その柄やだよ!!」




 そう訴えるとユウキはこてんと首を傾げて


 「どうして? すっごく可愛いと思うんだけど・・・・・・真希くんに似合うと思うし」




 その仕草かわいー!! けど絶対似合わない!可愛すぎて浮く!!


 前にチヒロに貰ったリストバンドも柄くまさんで、似合わんと思いつつ今もずっと付けているけど!!


 つか何!?俺ってくまさんのイメージなの!!?




 「ほら動かない~! それっ」




 「うあっ!」




 身をよじって避けようとしたが失敗して貼られた。


 むむうとしながらユウキの背後を見ると、2人がさっきより落ち込んでいる。なんでだろう??


 様子を窺ってみると、




 「くそぉ、嫁のピンチに来れねぇなんて、未来の旦那失格だろ・・・・・・。しかも遅くなった理由がアホすぎるし・・・・・・。さらに傷の手当てさえ新人に越されるなんて・・・・・・ まだまだ修行が足りないのかっ!!」


 八はなんか意味わからんこと言ってるし・・・




 「・・・・・・」(どよ――ん)


 チヒロはすっごい落ち込んでいる・・・






 「ユウキありがと。


 (この空気をどうしたらよいのかわからんが、)ま、まぁ、3人とも用事終わったんならよかったよ。お疲れ様。  もう時間ないし、早速食べねぇ?」




 「僕、真希くんの手作りお弁当すっごく楽しみにしてたんです! 早く食べたい!!


 あ、遅くなったお詫びにさっきジュース買ってきたのでどうぞ。 いちごミルク嫌いじゃないですか?」




 「え、ありがとう! 大好き!!(いちごミルク)」






 なんか今の会話を聞いて、後ろの2人がさらに凹んだのがわかった。


 よくわからんけど、いらないなら食べちゃうぞ!




 「うわぁ~おいしそう~!! ね、どれでもいいんですよね? これもらおうっと




 ん~~!!!おいしい!!」




 「よかった」




 ユウキのはち切れんばかりに膨らんだ頬や、おいしそうな食べ方、キラッキラな笑顔に心から嬉しくなる。よかった。喜んでもらえて。 


 それにしても、2人は本当にいらないのか?




 「2人は食べないのか・・・?  せっかく作ったのに・・・・・・」






 本心からそう呟いたら2人はハッとし


 「「食うっっ!!!!」」




 と揃って言い放ち、サンドイッチを掴むとバクバク食べ出した。




 八は『うんめーうんめ-』と言っていたし、チヒロは無言で食べ続けていたが表情でおいしく食べていることはわかる。


 チヒロは基本感情を顔に出さないが、ず~っと一緒にいたおかげか俺には表情筋の微々たる動きで何を感じているかがわかるのだ。


 チヒロの感情感知マスターと名乗っても過言ではない!








 さっきの件を面倒くさいと思っていたけど、チヒロやユウキ、八と関わらせなくてよかったかもなと思えてきた。




 だってあいつらに面倒ごとが振ってきて欲しくない。俺が処理すればこいつらはこいつらの時間をたっぷり過ごすことができるだろ?








 八ももちろん、俺はチヒロとユウキの時間を大切に守りたい。








 まあ、まだ2人の進展は全く見られてないんだけどね・・・・・・


 おっかしいな~・・・・・・














 こうして、初の高校での昼休みは無事(?)に終わったのだった。








 ちなみにユウキに貼ってもらった絆創膏の柄が、作中でユウキが八に貼った物だと気づいたのは午後の授業中だった――。










 














 


































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