いつかのどこかで

「あーあ、咲良の前では格好つけていたかったのに……」


 二人で咲良の家までの道のりをのんびり歩きながらぼやく。


「格好悪くなんてなかったよ。一生懸命に伝えてくれる菜瑠美、すごく格好良かった」


 咲良にそう言われただけで、照れてしまう。なんとなく悟られたくなくて咲良とは逆方向に顔を向ける。そういえば、前もこんな時があった気がする。

 咲良は表情に出ない分、思ったことを率直に伝えてくれるから、誰に何を言われるよりも咲良の言葉は心にまっすぐ届く。


「そうやって照れる菜瑠美は、可愛い」


「……咲良には格好良い自分だけ見てほしいのに」


「私は、格好良い菜瑠美も可愛い菜瑠美も、大好き」


 そう言って腕を組んでくる咲良は最強に可愛い。

 二人でくっついて歩きながら、やがて私達が出会った河川敷にさしかかった。橋の下を眺めながら、感慨深げにつぶやく。


「私と咲良が出会えたのも、たろまるのおかげなんだよね」


「うん……たろまるがいなかったら、雨ですぐ帰っちゃってた」


「私も、たろまるが鳴いてくれてなかったら、咲良達を見つけてなかったかも」


 あの日あの場所で咲良と出会えていなかったら、今になっても誰かを好きになる気持ちを知らないままだったかもしれない。そんな奇跡みたいな出会いも、やっぱりたろまるのおかげだ。

 立ち止まって、二人で出会った場所に身体を向ける。しばらくそうしていたら、たろまるの鳴き声が聞こえてきたような気がした。


「たろまるーありがとうーーーー!」


 人通りがないことを良いことに、思いっきり叫んだ。

 そこにたろまるはいないし、たろまるの本当の家とは違う方向かもしれない。でも、初めて出会ったこの場所だったら……もしかしたら伝わるかもしれないと思った。

 少しして、咲良も静かなトーンでつぶやく。


「たろまる、ありがと」


 その横顔は、懐かしむようにも寂しそうにも見えて、思わず尋ねてしまう。


「たろまるいないの、寂しい……?」


 分かりきっていることなのに聞いてしまったのは、もしかしたら自分もそう思っていたからなのかもしれない。会っていたのは咲良の家に行ったときだけだったけど、咲良と出会ったときも、咲良への好きを確信したときも、たろまるは見守ってくれていたから。


「ううん。たろまるが帰っちゃって寂しいけど、私には、菜瑠美がいるから」


 微笑まれて、胸がきゅっとなる感覚がした。何も言わずに抱きしめると、咲良は不思議そうにしながらも抱きしめ返してくれる。


「どうしたの、菜瑠美」


「何もないよ……ただ、咲良のことがすごく好きだなって思っただけ」


「私も、大好き」


 咲良の温もりを感じながら、大袈裟かもしれないけど、これからもずっと咲良の側にいて、咲良という存在を守りたいと強く思った。何の濁りもない、まっすぐな気持ちで。

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