冤罪

 あの日、赤いコートの少女が来店したことを覚えている。その子があまりに純粋でいい子であったため、バイト仲間に「可愛いね」とこぼしたことも覚えている。

 だけど、それだけだ。死亡推定時刻に出歩いた記憶はない。女の子の家の場所だって記憶にない。

 ただ、一人暮らしで両親も早くに亡くし、自分にはアリバイとなる人はいなかった。このご時世だからこそ、いつものように飲みに行くということもなかったから、少女が店を去った直後退勤時間を迎えた自分の同行なんて、誰が知るだろうか。

 いなかったから、自分はここにいる。何年も訴えたが、決定的な証拠はない。疑わしきは罰せずというが、何かが決定打となったらしい。しかし自分はそれすらも知らされないままその階段をのぼるのだ。

 悔しい、諦め切れない、だが逃げられない。

 自分の顔は、覆面の中で般若の如く恐ろしい形相だったに違いない。

 しかし、その意を汲んでくれるものはいないのだ。

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