畏れも穢れも分け合えば

矢引シン

最恐の聖地

 ある年の夏、私は高校の同級生二人ととある場所を訪れていました。

 きっかけとなったのは高校の頃。学年投票の結果、その県とは反対側に修学旅行が決まってしまったのです。

 そのため三人とも今回は、いつか行きたいと熱望した末の旅行でした。

 行き先を決めた時からその場所はコースには含まれていて、旅行雑誌にも、『最強のパワースポット』という見出しで特集が組まれているほどでした。


 到着してみると、他の観光客で既に賑わっていました。駐車場などは不便でしたが、周りに合わせて停めれば問題ありませんでした。

 入り口もわかりやすいように整備されていて、人の流れに沿うように私たちも観光を進めて行ったのです。

 ただ、スタート地点で一つだけ気になることがありました。


「〇〇県〇〇市××町○ー△ー×から来ました、佐藤コウジロウです」


 小さな男の子が、お父さんに付き添われながら、スタートの目の前にある大岩に、挨拶をしていたのです。

 私たちは、こんな大勢の前で個人情報かと違和感を覚えましたが、小さな子の遊び心だろうと大して気にせずに先を急ぎました。

 整備されていない道を抜けると、神秘的な三角の岩を見つけました。大きな三角形に切り開かれた道は、通ってくださいと言わんばかりの、圧巻の光景だったのを記憶しています。


「すごーい!」


 私たちはテンションが上がってしまい、岩の狭間で色々なポーズで写真を撮りました。

その合間で岩の側面に手を触れると、何か偉大なパワーが流れているように感じて、パワースポットの恩恵をもっと受けたいとさらに奥へ進んで行ったのです。

 奥は、海を一望できるようになっていて、崖の上から遠くの島を見つけることができました。


「ここ登ったら、いい感じだよ!」


 ミキが崖や塀のように盛り上がった土のさらに手前に、ブロック塀のような石を見つけて私たちに声をかけました。

 既にその上に乗っていて、そのまま海に背を向けてカメラを向くと、ちょうど自分達と背景の海のバランスがちょうどよく映えたのでした。


「ここで自撮りして帰ろ!」


 私たちはそこでも何枚か写真を撮りました。

 パワースポットというに相応しい場所で、私たちは大満足でホテルに戻りました。


 2泊3日の旅は、その後何事もなく終了し、私たちは家に帰りました。

 3日後、私たちは信じがたいニュースを目にしたのです。


「斎藤ミキさん二十歳が、×県××市の海岸で、遺体として見つかりました」


 あそこから帰ったばかりだというのに、ミキはあの場所の近くで見つかったそうなのです。

 警察はそれを自殺と断定しましたが、ミキに何か思い詰めているような素振りはありませんでした。

 原因であろうものは、はっきりしています。あの場所です。

 しかも、ミキだけが何かしたという記憶はありません。

 私たちがあそこで何をしたというのでしょうか。


 あれから1ヶ月、私は今でも、目に見えない恐怖に怯えながら過ごす毎日です。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る