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「──レクリエーションゲームうう?」

 広報の松島が大きな声を上げた。

 放課後の生徒会室。

 今日の議題はそのレクリエーションゲームだ。

「なにが悲しくて今どきコーコーセーにもなってそんなことしなきゃなんねえのよ」

「いや、それがウチの高校の恒例行事だし」

「えっ、おれ知らないよ?」

「あー…」

 そうだった。こいつは去年の夏の終わりに転校してきたやつだった。

「そっかあ松島未経験か」

「え、その言い方なんかヤダ」

 議録を取っていた平田が目を向けると、松島は心底嫌そうな顔をした。

 まあとにかく。

「松島広報なんだから、周知とか事前連絡とかそういうの頼むよ。あと、なんかいい案あったら出して。明後日までな」

「あさってえ? えー急すぎ! 大体それいつやんだよ」

「5月の終わり」

「えっ遅くない? もう一ヶ月なくない?」

「まあね」

 黙って聞いていた会計の薮内が深いため息とともに言った。

「毎年校内レクだけど、去年は評判悪くてブーイング凄くて、もうなくなったってみんな思ってたんだよ。何も言わないし。それが昨日言い出して来たんだ」

「昨日?」

 そう昨日、と俺は頷いた。

 事情を知る平田が苦笑する。

「今年はさあ、ほら、和田だから」

 和田だから。

 それだけでここに来てまだ一年経っていない松島が、ああー、と納得したような声を出した。

「そりゃしょうがねえか」

 後方支援の生徒会顧問がぐうたらな和田では、どうしようもないことだとその場にいた全員が共通認識するなんてある意味凄い。

「はーん、なるほどね」

 半分同情のこもった目で松島は俺を見た。

 生徒会長は大変だね、とでも言いたそうだ。

 それで、と松島は辺りを見回した。

「フクカイチョ―は? どこ行ったの?」

「休み」

 ぶっきらぼうに俺が言うと、全員が八の字に曲げた眉をして、俺を見た。

「…嫌われてんね」

「強引に入れるから」

「そりゃあねー」

「うるさいよ」

 ったく、どいつもこいつも。



 じゃあ今日はこれで、と俺が言うと、全員が立ち上がり帰り支度を始めた。話はほとんど進まなかったが、まあしないよりはましと言ったところだ。

 明後日までには内容を決めてとりあえず承認なんなりをしてもらわなきゃならない。あー忙しい。

「風間、じゃあお先な」

「おうお疲れ」

 じゃあな、と言って松島と薮内が生徒会室を出て行く。平田と俺だけになり、がさがさと前の資料を漁っていた平田も立ち上がった。

「じゃあ俺も帰るかな」

「ん、お疲れ」

「帰らないのか?」

「あーそうだな…」

 正直もう少し案をいくつか出して検討したいところだ。

 このままもうちょっと残って資料でも見ておくかな。

「あ、能田先生」

 鞄を肩に担ぎながら、平田が窓の外を見て言った。

「え?」

「ほら──、ん?」

 平田が向けている視線の先を俺は見下ろした。正面の第二棟との間にある中庭の松の木の陰に、白衣の背中があった。先生の前に生徒がひとり立っている。知らないやつだ。

 あんなとこで…何話してんだろう?

「あー…、先生も大変だな」

 そう言って平田は窓から離れた。

「え、大変って…」

「あれ、告白じゃない?」

「は?」

 生徒会室の扉を開けながら、平田は眼鏡を押し上げて振り返った。

「先生かわいいからさ。そういうの多いらしいって噂。男子校あるあるってやつ?」

 じゃな、と、ぴしゃん、と扉が閉まる。

 俺は窓の外を見た。

 ふたりはまだ何か話している。

 話の途中で先生が生徒に背を向けた。生徒はこっちに歩いて来ようとした能田先生の腕を掴もうと手を伸ばす。俺は窓を全開にした。

「せーんせーえ」

 大きな声で呼ぶと、先生がきょろきょろと辺りを見回した。生徒は一瞬俺を見上げてから、さっと第二棟の中に入って行った。

 今睨まれたな。

「こーっち、上だよ」

 ひらひらと手を振ると、気がついた先生が上を向く。ああ、と唇が動いた。

「風間くん」

 そう言って俺に向ける笑った顔に、なぜかほっとした。

「そこで何してんの?」

「ちょっとね。生徒会、まだ帰らないの?」

「もう帰るとこ」

「そう」

 もうちょっと話したいな。

 気がつけば、俺は咄嗟に言っていた。

「ね、のんちゃん、そこにいてよ。俺すぐ行くから」

「え?」

「そこにいて」

 きょとんと見上げる顔に念を押して、俺は大急ぎで戸締りをして生徒会室を飛び出した。

 何を話そうか──なんでもいいかと、階段を下りながら考えていた。



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