『私はあなたのとりこ』

そう願いながら……


ジョージ様はにこにことその様子を見ながら、挿し込まれた花を見つめると数秒思案するように目をパチパチと瞬いていらっしゃいました。


…やはり花言葉など知らなかったのね…分かっていたことじゃない……


そう心の中でつぶやくと鼻がツンとなり、涙がこぼれてしまいそうになります。



必死に涙をこらえている私の耳にかすかな呟きが聞こえてきました。


「……ニア?」



かすかに呟きは聞こえましたが、今顔を上げてしまうと絶対に涙がこぼれてしまいます。

そう思っているのに


「シャロン嬢!」



その意外にも大きな声に驚き、顔を上げてしまった瞬間頬に涙が垂れてしまいました。


「え?シャロン嬢?どうして?」


その様子にジョージ様が驚いてしまっています。

それはそうですよね。花をポケットに入れられたと思ったら次には泣いているだなんて。



「す、すみません。す、砂が目に入ってしまったようで」


苦しいとは思いましたが他にいい理由は思い当たりませんでした。そんなことを言いながらハンカチで涙を拭うとジョージ様が私の椅子をずらし、その正面に跪いていらっしゃいます。


「ジョージ様?」


「シャロン嬢、…そ、その……花言葉ってしってる?」


花言葉?知っています…知っていらっしゃらないのはジョージ様でしょう……


「花言葉…ですか?」


「そう、花言葉……やっぱり知らない?」


そうおっしゃるジョージ様はどこか自信なさげでいつものジョージ様とは別人のようですわ。


「しっているものもありますわ…どの花の花言葉でしょう?」


「え?あっ、じゃ、じゃあ…ブーゲンビリア」


「ブーゲンビリアは確か『あなたしか見えない』でしたか?」


私が答えると、驚いたようにこちらを見つめてらっしゃいます。


「じゃ、じゃあ…ネムノキ…」


そう小さい声でつぶやいたのです…まるで隠し事を話すような声の大きさではありましたが、その声はまるでなにかを乞うているようでした。

でも、その花が出てきた瞬間、私は私の勘違いを話さなければいけないような恥ずかしさに襲われ顔が熱くなってしまいます。


「ネムノキは…………『胸のときめき』…でしょうか」


これはなにかの罰ゲームなのでしょうか。

恥ずかしさに顔を背けたいのに私の足元に跪いていらっしゃるジョージ様はぱぁっと明るいお顔になりました。


「じゃ、じゃあ、カリンは?」


「カリンは…………『唯一の恋』…でしょうか」


だめですね…私、お顔が真っ赤になっている自信があります。それなのにジョージ様は先ほどよりも嬉しそうなお顔をされております。なんだかむかつきますわ。



「ジョージ様こそご存じなのですか?花言葉」


「知っているよ。知っているんだ。モモは『私はあなたのとりこ』……『僕はきみのとりこ』だよ」

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