第4話 真似っことハプニング

エレンは色んなことに興味を持ち、他の人の真似をするようになった。

デュランの仕事の様子を見たそうなエレンに


「その辺なら見てても良いぞ」


と言って作業を始める。カットした原石を回転盤に押し付け、ルーペで確認し、また回転盤で削る。これもまた気の遠くなる作業だが生き続けなければならない彼にとって、黙々と自分のペースで、長い時間をかけて作る宝石加工はまさにピッタリだった。作業する音だけが聞こえる部屋でエレンもまた黙ってデュランを眺めていた。


ひと区切りがつきデュランは軽く伸びる。エレンの視線に気づき


「どうした?」


と聞くと


「石を持つデュラン…きれいね」


と真っ直ぐ見つめて言うエレンの言葉に油断していたデュランは思わずドキッとして顔を赤くする。エレンはハッと何かに気付くと急いでこっちに向かってくる。(どうしたんだ?)と思っているとエレンは両手でデュランの頭をガシッと掴みそのまま頭突きしてきた。


「痛っ!何す…」


非難の声をあげようと目を開ける。するとキスできてしまいそうな位置にエレンの唇があり思わず固まるデュラン。


「デュラン…ねつ…ない」


そう呟くと頭を離すエレン。どうやら、顔を赤くしたデュランが熱があると思い、母親が小さい子供の熱を確認する時に、おでこ同士をくっつけるアレをしたつもりらしい。ただ勢いがあり過ぎて頭突きになってしまったのだ。誰にでもあんなことをしてはマズいと思ったデュランは


「エレン。顔が赤くなるのは病気だけじゃないからな。例えば暑かったり、さっきみたいに…まぁ色んな理由があるから心配しなくていい。あと、それをやっていいのは小さい子供にだけ。分かったか?」


と言うと黙って頷くエレンだった。



アイザックと息子達の仕事の様子も見たいと言うエレンにデュランは


「作業の邪魔しちゃダメだぞ」


と注意する。何となく近づいてはダメということが分かったらしいエレンは、ものすごく遠巻きに見ていた。二男のカーティスが優しく


「そこじゃ見えないでしょ?」


と、おいでおいでをしてくれる。ほんの少しずつ近づくエレンに


「もっと近くでも大丈夫だよ」


とニッコリしながらカーティスが言うと、エレンは一気に間合いをつめ頭がくっつきそうなぐらいに近づく。


(…いや、エレン。距離感。…困ってるよぉ、年頃の男の子がぁ)


カーティスは顔を赤くしながら慌てて


「あの、ごめん。近い近い。ぶつかると危ないから、この辺にいてね」


と場所を指定してあげる。エレンはジッとカーティスの顔を見ると


「ねつ…ない?」


と聞く。カーティスは苦笑いしながら


「ははっ。ないない…」


と手をパタパタ振ってみせた。しばらく邪魔にならないように、ちゃんと見ていたエレン。カーティスも作業がひと区切りつくとエレンはカーティスの頭にガっと手を置き


「カーティスうまいな。えらいえらい」


とガシガシ頭と撫でる。何となく自分に似た感じで言うエレンにモヤっとするデュラン。


(…なんで、そんなに上から目線なんだ?)


ツッコミたくなるが、カーティスも戸惑いながらも嬉しそうだった。これが今のエレンにとって精一杯の愛情表現なんだなと思う。そして、もう少し異性との距離感を覚えて欲しいと思うデュランだった。


***


デュランのところにいる美少女エレンの噂は街中に広まっていた。するとデュランのところに度々、貴族からエレンに会いたいというような手紙などが届くようになったので丁重に断っていた。


「クソッまたかよ。面倒くせぇなぁ」


何かの手紙を見ながら吐き捨てるように言うデュランに一緒に仕事をしていたアイザックが「どうしたぁ?」と聞く。


「ウォード公爵だ。最近、若くして爵位を継いだから結婚の話で持ち切りなんだろう。でもエレンを会わせられると思うか?下手したら不敬罪で打ち首だぞ」


2人は、どちらともなく上を向きエレンが公爵に会ったときのことを想像する…


『おまえ…めうえか?つまらない…あそぶ。めうえ鬼。エレンかくれる…』


普段の子供たちとの会話を思い出し頭をブンブカ振る2人…


「まぁ~無理だな」


と苦笑いをし冷や汗をかきながら言うアイザックに


「だろ?」


と、こめかみを抑えながら言うデュランだった。


***


そんなある日、デュランに仕事がくる。貴族の屋敷に出向き宝飾品を売りに行くという、いつもの仕事なのだが、エレンをアイザックの家に預かってもらうことにした。エレンに『家から出てはいけない』と言いつける。


しかし、デュランが出かけてしばらく後に予想外のことが起きてしまった。なんと例のウォード公爵が家まで直接来てしまったのだった。通常ではあり得ない。恐らく度重なる呼び出しに応えないので業を煮やしたのだろう。


アイザックはエレンに二階にいるように言いつけ、奥さん、ゲイル、カーティスと一緒に外に出て跪き公爵を出迎える。アイザックはエレンは会えないというようなことを話す。すると公爵が剣を抜きアイザックに向ける。二階の窓から見ていたエレンは外に飛び出していた。


突然、飛び出してきた人影に反射的に剣を抜きその胸に突き付ける護衛の騎士。しかし公爵とアイザックの間に飛び出し両手を広げたのは白銀の髪の美少女だった。噂以上の美しさに驚く公爵。エレンは公爵を睨みつけ


「アイザックいじめる悪いやつ。むこうへ行って!」


と言うと胸に剣を突き付けられていることを全く意識していないのか一歩前に出る。予想外の動きに、ほんの一瞬反応が遅れてしまう騎士。微かにエレンの左胸上あたりを剣でかすめてしまった。


「アイザックいじめる。ダメ…」


と言ってるエレンの胸の服が赤くにじみ出す。動揺する公爵。エレンは呆然と振り向き


「アイザック…コレ痛い」


と胸を指さした。奥さんは悲鳴を上げゲイル、カーティスは蒼ざめる。アイザックは血相を変えて傍に行こうとするが、その前に公爵がエレンを抱きかかえ胸を押さえ止血する。


「急ぎ屋敷で手当する!デュランに来るように伝えろ」


と言って立ち去ってしまう。残されたアイザックは不甲斐なさに顔を歪ませていた。









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