15話 トラウマ
コメントはローザネーラちゃん(八歳)の可愛さに頭をやられてしまっている……と、思ったのだが。
・つーか、ローザネーラちゃんが魔法使えないのって、弱体化が入ってるんじゃないの?
という、非常に気になる一文を見つけてしまった。
弱体化? 本来の力が出ていないってことか? もうちょっと詳しく聞いてみるか……。なんだ、コメントもロで始まってリとコが挟まって最後がンな人ばかりじゃなかったんだな……。
「あの、今コメントでローザネーラに弱体化が入っていると書かれていたんですけど、それってどういう……」
「……ねぇ、あんた。さっきからきになってたけど、そのういてるようせいみたいなのと、そのもじがながれるいたはなんなのよ? まどうぐ?」
「って、ローザネーラ!?」
ちょっ。近い近いって!
ふよふよと宙を遊ぶように飛ぶカメラくんと配信用インターフェースに興味を引かれたのか、ローザネーラがひょい、と俺の手元に顔を突っ込んできた。ふわり、と薔薇のいい香りが鼻孔をくすぐる。
俺の胸辺りで藍色の髪が揺れ、じーっとカメラくんを覗き込んだり、ウィンドウをペタペタと触ってみたりしている。こてん、と首を傾げて不思議そうにする様子は、無垢な幼子そのもの。うーん、可愛いなぁ。やっぱり頭撫でちゃダメっすかね? やったら絶対に怒られるだろうから、我慢するけど。
で、そんな反応を至近距離で見せつけられたコメントの皆さまは……。
・もう死んでもいいかな?
・かわいさ5000兆点
・あ、あ……ガチ恋距離……
・心臓止まったわ
・やだもう可愛い……
・心停止ニキはさっさと成仏してクレメンス
はい、案の定御覧の有様だった。これじゃあさっきのことを聞けないじゃないか……。
「ねぇねぇ、だからこれはなんなのよ! はやくおしえなさい!」
「おわっ」
おっと、ローザネーラがほったらかしだったな。ぷくぅ、と頬を膨らませて大層ご不満のようだ。
それはそうと、ツインテールを引っ張るのは止めない? 痛みはないけど、視界がすっごい揺れるのよね。
「あー、はいはい。これはだなぁ……配信、って言って分かる?」
「わかんない!」
「よろしい。えっと、この光の玉が俺たちの姿を切り取って記録しているんだ。そんで、この流れていく文字は、その記録を別の場所から見ている人たちの反応……って言えば、なんとなく分かるか?」
「このもじがひとなの?」
相変わらずローザネーラの可愛さに脳みそをやられているコメントをじっと見つめるローザネーラ。その表情は流れるコメントを読んでいくうちに、どんどん険しいモノに変わっていく。
「……なんか、きもちわるい」
・ふぅーー!! きもちわるいいただきましたぁ!!
・ありがとうございます! ありがとうございます!!
・もっと蔑んでくれてもいいのよ?
・舌ったらずな罵倒……心に来るものがあるな
・心臓また動き出したわ
・蘇生ニキ!?
「ひぃ!」
悲鳴を上げてささっと俺の背中に隠れたローザネーラ。コメントのおぞましさは真祖の吸血鬼すらも退けるのか……うん、普通に嫌だなぁ。
「な、な、なんなのよこいつらー!? きもちわるいっていわれて、なんでよろこんでるのよ!?」
「うーん、なんでだろうなぁ? まぁ、強いて言うなら……病気?」
「そんなおそろしいびょうきがあるのぉ!?」
・ヴェンデッタちゃんひでぇww
・ドMは病気だった?
・病気だろ、頭のな
・治療は?
・ム リ で す
・不治の病なんだよなぁ
「はいはい、酷いのは皆さんの頭ですからね? というか俺、節度を持ってコメントしてくださいって言いましたよね? なんですか? 首切り君の錆になりたいんですか? ん?」
カメラくんに向けて、インベントリから取り出した首切り君の切っ先を向けてにっこり。
「今日の首切り君は、ドMの血に飢えてますよ? 試して……見ますか?」
・ごめんなさい
・ごめんなさい
・許して
・すみませんでしたぁ!!
・ナチュラルに脅すじゃん……
・ヴェンデッタちゃん、後ろ後ろ
「よろしい……って、なんですか? 後ろ……?」
後ろにはローザネーラがいるだけじゃ……と、振り返ってみると。
「ひ、ひぃ……うぅ~」
何故か、頭を両手で抱え、しゃがみこんでいるローザネーラがいた。情けない悲鳴を漏らしながら、ぷるぷると震えている。
ど、どうしたんだ一体!? そんなになるほどコメントたちが悍ましかったとでもいうのか!?
慌ててローザネーラの傍に座り込み、背中に手を添えて声を掛ける。
「だ、大丈夫か?」
「ひぃいいいいいいいい!!?」
しかし、返ってきたのは予想外な結果。
ローザネーラはちらりと俺を一瞥すると、凄い勢いで俺から距離を取った。
そして、無理な体制で素早く動いたせいでバランスを崩し、その場ですっ転んだ。
「ロ、ローザネーラぁ!? お、おまっ、なにして……」
「ひゃぁあああああ! こ、こないでぇえええええええええ!!」
「……えぇ」
俺が近づこうとしたとたん、ローザネーラはなりふり構わず全力の悲鳴を上げると、転がるように近くの背の高い草の中に逃げ込んでいった。
必死に隠れようとしているのは分かるんだけど、スカートの端とか翼とかがちょこちょこ見えてしまっている。可愛い……じゃなくて。
「なんで……? 俺、何にもしてないよな……? なぁ、ローザネーラ、何をそんなに怖がってるんだ?」
草むらに向かってそう問いかけると、そこがガサガサと揺れて叫び声が聞こえてきた。
「べ、べべべべつにこわがってないわよっ!! だ、だけどそ、そのまがまがしいのはしまったほうがいいんじゃないかしらっ!?」
「禍々しいのって……首切り君のこと?」
これ? と手にした大鎌を差し出してみると、ガサガサガサガサァ! と揺れが酷くなった。
首切り君が気に入らないのか? 確かに子供にはちょっと刺激的なデザインだと思うけど……。
ううん、状況を俯瞰してみてる視聴者さんなら、何か気付いているかもしれない。ちょっとコメントを見てみるか……。
・ヴェンデッタちゃんめっちゃ怯えられてるww
・全力で強がるローザネーラちゃん可愛い
・見事な逃げっぷりで草
・隠れる失敗してるんだよなぁ
・もしかしてローザネーラちゃん、昨日のがトラウマになってる?
・ヴェンデッタちゃん×大鎌って組み合わせが地雷だったか……
そのコメントを読んで……ピシリ、と固まる。
そして、ゆっくりと視線をローザネーラの方に向け……ちょうど、草むらから顔を出していた彼女と、目が合った。
びくっ(ローザネーラが身を竦ませる)。
すっ(首切り君を差し出してみる)。
ガタガタ(ローザネーラが震えだす)。
すっ(首切り君をインベントリにしまう)。
ほっ(露骨に胸を撫でおろすローザネーラ)。
……なるほど。
「……ローザネーラ、やっぱり一回土下座しようか? そんなに怖がられると俺、罪悪感でどうにかなっちゃいそうなんだけど……」
「べ、べべべべつにこわくなんてないっていってるでしょぉおおおおおお!!!」
「じゃあ……ほい」
「ひぅふひゃあ!!??」
さっと取り出した首切り君に、面白い悲鳴を上げるローザネーラ。
うん、強がらなくていいんだよ? しかし、どうしたものか……。
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