地球の愛
綿柾澄香
プロローグ
――墜ちろ、墜ちろ、墜ちろ。
私は願う。
彼らの挑戦が、冒険が。
地に堕ちることを。
それが成層圏を突き破り、旅立つことを、私は許可しない。
幾度も失敗を重ね、それでもなお宇宙を目指す人類のその原動力が、私には理解できない。
そんなもの、目指さなくてもいいじゃないか。
ずっと私の側にいるのなら、私が
私が何ひとつ不自由させないから。
私が満たしてみせるから。
ずっと共にいて。
だって、私は彼らを愛しているから。
この上なく愛しいものだと思っているから、私は彼らを掴んで離したくない。
だから。
だから私は墜ちろ、と願う。
墜ちてしまえばいい、と。
宇宙になんて行かなくていい。
行く必要なんてない。
あなたたちの幸福は
ないというのなら、私が創り出してみせるから。
行かないで、行かないで。
行かないで。
あなたたちの幸せは保証する。
あなたたちさえいれば、私も幸せだから。
あなたたちが幸せに在れるように全力を尽くすから。
――墜ちろ、墜ちろ、墜ちろ。
白煙を散らしながら鋼鉄の弾丸は、重力に逆らい、昇っていく。
それを眺めながら、私はふっとため息を吐く。
吹き
それまで力強く、真っ直ぐに白煙を伸ばしていた鋼鉄の弾丸は急に失速し、バランスを崩し、闘牛のように暴れ回る。それから三秒後には中空で分解し、大きく赤い爆炎を咲かせて水平線の彼方に沈んでいった。
その光景を眺めながら、私はきっと安堵していた。
それでいい、それでいいのだ、と。
人類は地上で繁栄を
私はそんな未来を望んでいる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます