その16 私の膝の秘密
当然のことですが、使わない足というものは急激に筋肉が落ちていきます。
そのため、切断後すぐに義足を作る、ということはできません。
切断したところがこれ以上形が大きく変わらない、というところまで筋肉を落としてから義足作成に入ります。
自然に筋肉が落ちていくのを待つわけにもいきませんので、包帯で締め付けるわけです。
膝の辺りからぐるぐる強く力を入れながら巻きつけて、断端部分まできたら折り返して再び強く巻きつけながら膝まで。そして膝で固定。これを終日。
これが痛いんです……。
自分でもやりますが、やっぱりどうしても加減してしまいます。
リハビリの先生にやってもらった後はもう、痛くて痛くてベッドに寝てられないので車椅子でお散歩して気を紛らわしてました。
膝に犬の顔書いてみたりね。
いや、包帯の端と端が耳にみえて犬っぽいなーって思ってたんですよ。
看護師さんに見せたら大爆笑。
そのあと、別の看護師さんが2人きました。
「ねぇねぇ。遠野さんの膝、面白いことになってるって聞いたんやけど」
「これかい?」
大爆笑2名様追加でーす。
足の形が安定するまで普段どおりリハビリ。
しかしある日異変が……。
化学療法を終えて、翌週3日目のことでした。
なんだかその日はやけに暑かったのです。
季節は冬なので暑いわけもなく、暖房効きすぎじゃないのかなぁって思ってました。
「あの、先生めちゃくちゃ暑いんですけど……」
「いや、今日はむしろ寒いくらいやで?」
暑すぎてだんだんのぼせてきました。
そこで窓際へ移動。
窓を開けてもらってマットの上でリハビリしてました。
それでも暑い。
だんだんのぼせがMAXになってきて吐き気までしてくるしまつ。
先生がバケツを持ってきてくれたので少し吐いたと・こ・ろ。
今度は猛烈な寒気がきました。歯の根が合わないくらいガタガタ震えて。
急遽リハビリを中断して部屋へ。
布団をかぶって、ひざ掛けを首に巻いてもらって震えていました。
熱を測ったところ、38度ちょい。
感染症(肺炎とか)の疑い、ってことでレントゲン室へ。
そうこうしていているうちに楽になってきました。
この騒動でお昼ご飯食べ損なったのでおなかペコペコです。
その日は母がきてくれていたので、売店に買出しをお願いしました。
しかし、めぼしいものがなかったらしくカップ麺。
ずるずるすすってたら先生がこられました。
「あれ、もう大丈夫なん?」
と先生。
そらさっきまで震えてた患者がカップ麺すすってたら驚きますわな。
「あ、はい大丈夫です」
「えーっと、レントゲンの結果、肺炎とかはないです」
「そうですかー」
「……変なものとか食べてないよね?」
「た、食べてないです」
恥ずかしいやら気まずいやら。
結局、化学療法後のリハビリはゆるやかにはじめる、ってことになりました。
いや、変なもの食ってないからね。本当に。
私に起こった現象を「悪寒戦慄」というようです。
すごい怖い名称ですが、簡単にいうと寒気がして体が震えるってことです。
原因としては肺炎もありますが、食中毒もあるみたい。
だから「変なもの食べてない」か聞かれたわけですね。
それにしても人体って複雑にできてるもんだ。
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