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わたしの肩まで伸ばした後ろ髪を、一つに纏めて束ねる。背後から首筋が見えるように。
吸血鬼が血を吸うために噛み付く部位と言えば、うなじから首筋が定番だろう。なぜかは知らないが映画や絵画などでよく使用されるカットだ。
牛肉がロースやサーロインなどに分かれているように、人間の血液にもこの部位から吸うのが美味しいというのがあるんだろうか。吸血鬼の好みは分からない。
いつもと違う髪型は少し恥ずかしいけれど、うなじを見せつけながら夜辺さんの前を歩いたり、態と横切ったりしてアピールをしてみる。吸血鬼に対して、どうアピールすれば狙われるのかは知らないので、とりあえず彼女の視界に入っておくことにした。
けれど、転校生の彼女は必死にアピールをするわたしに興味を示さず、いつものように平然としていた。
友人は「今日は落ち着かないね。どうしたの? あ、もしかして、髪型変えたのアピールしてた? もう、そんなのしなくても気がついてるよ。可愛い」とわたしの頭を撫で回した。
嬉しいけどさ。本当は夜辺さんに気がついて欲しいんだよ。
その後も、十字架のペンダントを机に置く。寝癖がついていると偽り手鏡を見せる。ホームセンターで木の杭と鎚も購入した。けれど、心臓を貫けば彼女が吸血鬼であろうと無かろうと死んでしまうのでこれは試せなかった。
作戦は全て効果なし。彼女はわたしを含め全てに無関心に、表情を変えず学校生活を送っている。
そう。彼女は全てのクラスメイトに無関心に見えた。転入してすぐは話しかけようとするクラスメイトも居た。目を引く容姿をした転校生だ。誰だって興味は持つだろう。
しかし、彼女は話しかけられても一言二言返すのみで、自分から関わり合いになることはしなかった。そのキレイで近寄りがたい容姿も仇になったのか、男子からは高嶺の花のように扱われ敬遠され、女子からはお高くとまっていると避けられた。徐々に彼女は孤立していった。
彼女の雰囲気から、孤高を楽しんでいるようにも見えた。でも、わたしには同時に寂しそうにも見えて、キレイなんだから自分から話しかければ良いのに。そうすれば、すぐに人なんて寄ってくるだろうに。吸血鬼は分からない。と勝手に心配していた。
♯♯♯
「なんだか最近、あの転校生にご執心だねえ」
友人の一言で、転校生の彼女を見つめていたわたしは、はっと我に返った。
「そ、そうかなあ」
「そうだよお。今も夜辺さんを見てたでしょう」
友人は拗ねたように唇を尖らせる。
「わたしと話してても、たまに上の空で夜辺さんを見てるんだもん」
「そうかなあ」
「そうだよ。嫉妬しちゃうなあ」
寂しそうに顔を背ける友人に、どう声をかけるべきかとわたしが困っていると「なんてね」と彼女はおどけてケラケラと笑った。からかわれたらしい。女優め。
「でも、どうして夜辺さんが気になるの?」
「どうしてって……」
少し辺りを見回してから、誰にも、特に本人には聞かれないように、友人に顔を近づけて声を潜めた。合わせて、友人も顔を近づけてくれる。
「わたしと違って、夜辺さんって大人っぽくてキレイでしょ。それに、クールで神秘的」
「何それ、褒め殺し?」
呆れた友人は肩を竦めて、大袈裟にため息を吐いた。指摘されると、自分の口に出した言葉が、同級生に向けるものではないように思えて、恥ずかしくなってくる。
「でも、咲希だって十分可愛いけどなあ」
「へ?」
突然の告白に、驚いたわたしの口からは甲高い声が出ていた。
「冗談、だよね?」
「冗談でも嘘でもないよ。だって、たまーに咲希に対してドキッとする時があるもの。何でだかは分かんないけど」
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