第169話 あっさりとした2人

グリーが転生していってから5年。

マリーも隊長の仕事に慣れてきて毎日慌ただしく過ごしていた。

そんな日々の中、しばらくぶりで母から連絡が来た。

「もしもし、どうしたの?」

「マリー久しぶり〜。あのねえ、今度転生する事にしたの!」

と、いつもながら突然決定したことを告げる母アレサ。

「そう、分かった。じゃあ」

電話を切ろうとするマリーをアレサは慌てて止める。

「待って待って! 私の話はまだ途中だから!」

しょうがない、という表情でマリーは続きを聞く。

「実は〜、譲り葉さんのご両親とあなたの弟と4人で一緒に転生するのよ」

随分前にあのショッピングモールで出会って以来、譲り葉の母と意気投合したアレサ。

度々会って遊んでいたらしい。

「なんか波長が合いそうだとは見た瞬間思ってたけど⋯」

そう言いながらタブレットで譲り葉のご両親の転生日を検索する。

「じゃあ、再来週に転生するのか。ホントに急だね」

「まあ、こっちの生活にも飽きてきたし、そろそろ次のステージに進んでもいいかなあ、って。あ、あのシチューのレシピいる?」

「ノーサンキュー!」

レシピ通りに作って、見た目は普通なのに味がしないシチューが得意なアレサ。どうしてそうなるのか未だに謎である。

「ひどい! イケズ!」

「どこから覚えたのよそのセリフ⋯」

アレサの反応に呆れているマリー。

「それはともかく、ご両親との最後の別れだから、譲り葉さんにもその日を知らせておくね」

「号泣してもいいわよ!」

「そんなのいちいちしてたら涙がもたないよ⋯」

それじゃ、とマリーは電話を切った。


「転生⋯ですか⋯」

生きもの係の飼育室で猫を撫でながら譲り葉はマリーの話を聞く。

「うん。譲り葉さんのお父様が刑期を終えて転生するから、お母様も一緒に転生するんだって。お見送りも出来るけどどうする?」

少し考えた後、

「あまり会って話を出来なかったので、お見送りに行きます。教えてくださりありがとうございます」

そう言いながらマリーにペコリとお辞儀じぎをした。

「お礼はいいけど、とりあえず猫を降ろしてからお辞儀しようか」

抱っこされたままの猫が不機嫌そうなしかめっ面をしていた。

「すっ、すいません!」

慌てて譲り葉は猫を降ろす。

着地を決めた猫はスタスタとお気に入りの鍋の置いてある場所へ移動して行った。

「じゃあ前日までに転生の時間を教えるね」

「何から何までありがとうございます!」

改めてお礼を言う譲り葉。

「いやいや、当然の事だから」

謙遜けんそんしながらマリーは生きもの係を出ていった。

その際、モンスターお世話室から、

「髪の毛かじるなー!」

と、ビーストテイマーの新人隊員が叫んでいたが、いつもの事だったのでマリーは、

「これも修行だ⋯」

と、無視をした。


そして転生当日。

当番のため転生の門へ来ていたマリー。

譲り葉も藤堂と一緒にお別れに来ていた。

「ハンカチ何枚か持ってきている? 一枚じゃ足りないかもよ」

「大丈夫です。足りなくなったら文也さんのハンカチも借りますので!」

自信ありげに譲り葉は喋る。

「俺、一枚しか持ってきてないんだけど⋯」

少し申し訳なさそうに藤堂が呟く。

そうこうしている間に、転生する者が続々とやって来た。

「マリー、私が転生して寂しくない?」

「全然」

アレサの言葉にあっさりとした対応のマリー。

「これが塩対応という奴なのね⋯」

本気なのかは分からないが、ショックを隠せないアレサ。

「はいはい。次がつかえているから早くくぐっていって」

罪人もここの転生の門をくぐるため、手間がかかる者も少なからずいる。そういうやからから罪のない転生者を守るのもマリー達の仕事だった。

その日も何事も無く仕事をこなす⋯はずだったが果たして?!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る