第14話 探偵試験

 考えながらに歩いていると、大名行列はあっさり終わりを迎えた。


 おや、もう都に着いたってのかい。どれどれ、中はどんな様子でごじゃろうかな。大名のイメージがあやふやなまま、体育館のフローリングを踏みしめる。


 館内が広いからなのか、体育館の空気はヒンヤリとしていた。朝の挨拶はあちこちで交わされ、はやく並びなさいと先生達がせっついて賑やかしいものだ。


 一年生は入場を済ませて整列していた。僕ら二年生もガヤガヤとその輪に混ざる。おとなりさんの並びをひょいと覗き、先頭を確認してみた。


 そこにはやっぱり鬼柳みゆがいた。予想通りだとニヤけると、視線に気付いたわけでもなかろうに彼女が振り向く。


 慌てて列へと直る。そういえば、観察中から良く目があうな。背中に目でもあるのか? まさか、どこぞの殺し屋じゃあるまいし。あるいは探偵らしく、周囲を観察しているのだとか。


 偏る願望に、思わず苦笑い。


 まあ、いい。試せばすぐにわかる事さ。よし、決めた。当事者から外れてもらうとしよう。頭に血を上らせないようにしてないと。


 まわりの騒動に、自分じゃない他の誰かが関わる謎に、彼女はいったいどんな反応をみせてくれるだろう。


 否応なく期待が高まる。当たるも八卦、当たらぬも八卦と。さてさて、どんな謎を用意するとしようかな。


 にやけたほほをどうにか引き締めていると、後ろの方に並ぶ小林くんがこそこそと近寄っては耳打ちをしていく。


「気になる芸能人のあの噂は、またあとで教えてやるからな」


 笑いながら去る姿に空笑いで返事する。小林青年。知らない芸能人のスキャンダルに、ぼくはあんまり興味ないんだけどな。


 でも、噂話、ね。

  

 ふぅむ、とアゴに手をやる。そうだよ、今回は噂話を利用させてもらおうか。あくまでもぼくは楽しんでいたいから。


 矢面に立つ訳にはいかなかった。黒幕は暗躍してこそが華、というものだろう。


 挑んでもらう謎はどんなものが相応しいだろう。ああでもないし、こうでもないなと悶えていると、キィンというハウリング音で我に返った。


「──というわけでありまして。私も先生方もみなさんのことを応援していますよ。悔いの残らない一年間になるよう、皆さん精一杯がんばっていきましょう」


 マイクの調子を整え締めくくる。体育館はシンと静まり返っていた。


 朝礼と銘打つ校長によるワンマンライブが、開催中だった。残念ながらアンコールの声はあがりそうにない。


 壁時計で時間を確認する。


 いつものぼくなら、

「何をこう長々と話す事があるのだろう」

 と首を傾げていたけれど、今日は違う。


 考え事をしたら時間の流れは早かった。校長の話ひ短く、あっという間に感じた。有意義な時間の使い方だろう。


 でも、考えは上手く纏まらなかった。朝の早い時間で、脳がまだ寝ているのかもしれない。軽くあくびをすると、涙がでた。


 眠気覚ましの首の運動にでもと、ぐるりを見回してみる。


 カクリと首を揺らし、うつらうつら睡魔と格闘中の生徒。又は目を開けてはいるが視線は虚ろになり、魂の脱け殻と化している生徒が大半だった。


 朝礼に集中する生徒なんて、幽霊と同じようなものだった。この世に存在するのかどうか、怪しいものだ。


 マイクの電源が入り、寝ている生徒を起こさんとハウリング音がなる。

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