ドラゴンとCランク冒険者の実力

 思わず叫んだ俺を、皆が見る。


「どうしたんですヒトゥリさん! あいつに見覚えでもあるってんですか!?」


「ごめん、何でもないんだ。ただ昔本で読んだ何かに似ていてちょっと驚いただけだから、気にしないでくれ!」


 最前列からのラット叫びになんとか誤魔化して、ロボ……ゴーレムの姿をよく見る。

 俺がやるべきなのは偶然出会ったロボットみたいなゴーレムに見惚れる事でなく、観察して自分の番に活かす事だろう。


 ゴーレムは敵であるラットを捕らえようと、ゴーレムは剣を振り回している。

 しかし、その振りは大雑把でいかに相手を一撃で倒せる両刃剣といえど、当たらなければ脅威にすらなっていなかった。


「詠唱完了! スニック、前に出て! 『属性魔法・火の腕力エンチャント・ファイアブースト』」


 ヴェウェックがそう叫ぶと、スニックの腕が赤く発光していく。

 『属性魔法』での腕力強化か。

 純粋な魔力による強化よりも汎用性は落ちるが、その分効率は良い。

 シャルロが使っていたのは多分『精霊魔法』だから、『属性魔法』は初めて見るな。


「うおおおお! どけっラット!」


 雄叫びを上げながらスニックが大斧を振り下ろし、ゴーレムの脳天にめり込ませた。

 鉄のひしゃげる大きな音と共に、ゴーレムの兜が鎧に埋まった……というよりも大斧が鎧の腹の部分までを切断している。

 魔法での支援があるとはいえ、それなりの剛力だ。


「っととと……全く危ないったらありゃしない。斬りかかるもっと前に注意してくれよな……。あーあ、こんなにめり込ませちゃって、魔石は大丈夫かねえ」


「うるせえ、一発で仕留めたんだこれ以上ない仕事だろうが。文句あんのか?」


 猛るスニックを無視してラットはひしゃげた鎧の中から、青い石を取り出した。

 光を反射して宝石のように輝いているが、それからは魔力が漂っている。

 あれが魔石なのか。

 俺の中にもあれと同じ物が入っていると考えると、何とも言えない気分になるが、あれが俺達冒険者の収入源というわけだ。


 ところであの鎧、中身が空なのでやはりロボットではなさそうだ。

 ロボットなら頭が壊れても動力源と回路が残ってたら動くだろうしな……。

 知っている物に重ねて見てしまっただけか。


「へへへ、これなら銀貨5枚程度にはなるかな」


 ラットが取り出した魔石を掲げながらにやけている。

 ……もしかして俺って魔道具作ってた方が金を稼げるんじゃ。

 いや、俺はここに経験を積みに来たんだ。

 金を稼ぎに来たんじゃない。

 それを忘れないようにしよう……じゃないと一日中魔道具作りをする生活になりそうだ。


「鎧は後で回収されるから放っておいてと、さあ次はあんたらの番ですぜ。実力を見せてくださいよ」


 そう言ってラットが指さす先には同じゴーレムが鎮座していた。

 ジョンをちらりと見ると頷いて、ハンマーを取る。

 俺はジョンの戦い方を見たことがないが、おそらく今のスニックと同じような戦い方だろう。


「俺が前に出る。ジョンは隙を見て一撃叩きこんでくれ」


「任せろ! ゴーレムの攻撃は大振りだが重いぞ、気をつけろよ」


 薙刀の穂先を地面すれすれに構え突撃する。

 さて、これを握るのも久々だな。


「敵……検知。アタッカー2……速攻戦闘開始」


 感知圏内に入った事で、ゴーレムの目が光り剣が抜かれる。

 ここまでは先程と同じだった。

 ここからは異なっていた。

 狂ったようなモーターの異音を発して、ゴーレムが剣を構え突撃してくる。


 咄嗟に斜め前に飛び込むと、俺がいた空間を突き出された剣が貫いていた。

 そして息をつく間もなく、俺に向かって上段から剣が振り下ろされる。

 バックステップを踏んでかわすも、それにすら対応して突きが繰り出される。


「おい! どうなってる? さっきと戦い方が全然違うぞ!」


「ゴーレムは戦い方を変える事がある! 俺達の間だと常識なんで言い忘れてたぜ、すまん!」


 アタッカーが2人だと、標的2つに同時に対応するために素早くなるのか……。

 ジョンが近寄りつつ叫ぶが、このゴーレムの素早い動きのせいで中々隙をつけられずにいるようだ。

 相手の戦術が俺達の戦術に上手く刺さっているようだ。

 ならこういう時の対応の仕方はゲームと同じだ。

 相手の考えている役割と違う動きをすればいい。


「ジョン! 俺が奴の攻撃を受け止める! その間に攻撃しろ!」

「おう! じゃねえ待て! ゴーレムの攻撃は重いって言ったばかり……」


 ジョンの声が届く頃には俺は既に実行に移していた。

 上から振り下ろされるゴーレムの剣に対して、下からの振り上げで弾きあるいは抑える。

 それを狙っていたはずなのだ。


 だが、しかし。

 俺はやり過ぎてしまった。

 そもそも薙刀なんて使うのは久しぶりだったし、ほどほどに対応しないといけない相手なんていなかった。

 セルティミアは全力を出すべき強者で、盗賊達は羽虫を叩くみたいに力を抜かないといけなかった。

 だから俺は力加減を間違ったのだ。


「すげえ……ゴーレムの腕と頭が真っ二つだ……」


 ゴーレムに隠れて見えないが、ラットの驚嘆の声が聞こえてくる。

 どんな顔をしているのか想像はつくが、顔を見せないわけにもいかないだろう。

 

 自重を支えきれずに崩れ落ちるゴーレムの裏から、まずハンマーを構えたまま固まっているジョンが見えた。

 そして、その奥に口を開けて突っ立っている3人衆。

 俺は持っていた薙刀を背に戻して、ゴーレムの落ちた腕を拾い上げた。


「あー、なんか。経年劣化、してたみたいだな?」


「そんなわけねえだろ……」


 そうして俺の渾身のすっとぼけには、ジョンのドン引きした声だけが返ってきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る