2度目のスキル合成

 里を出て、あのレッサードラゴンと出会い、それから数日経った。

 洞窟で起きて、獣を狩り、樹海を見て回り、レッサードラゴンの話を聞く。俺の生活のルーチンも定まってきていた。

 今日も、俺は空を飛んで地にいる獣を襲っていた。


「獲物は……イノシシの魔物がいるな。アレでいいか」


 翼で空を撫で、空気の層を使い滑る様に地上へ落ちる。

 突然の外敵の襲来にイノシシ達は驚いて逃げ出すが、迫る木々の間を縫ってイノシシの1匹に狙いを定める。

 大きく開いた顎に並ぶ牙が、獲物の胴に突き刺さった。


「プギイイイイ……!」


 耳に響く心地良い悲鳴を楽しみながら、俺は再び翼で風を捕らえ空に昇った。

 洞窟の前に戻った所で、俺は先程の狩りを思い出し、若干の違和感を覚えた。

 さっきの滑空、何だかいつもより上手くなかったか?

 まさかと思い、ステータス画面を開くとやはり『滑空』のスキルを獲得していた。そしてその上『跳躍』も。

 なるほど、こんな生活の一部でもスキルを獲得する事はできるのか。なら不安が1つ解消できたな。

 俺はステータス画面を消し、口の中で放せと暴れるイノシシを胃に納めた。

 楽しい異世界生活の時間が来るぞ。

 そう、『天業合成』てんごうごうせいを使う――スキルの合成だ。


 俺の『天業合成』は2つのスキルを消費し、合成して新たなスキルを1つ手に入れるスキルだ。

 つまり、21。それが俺のスキルの特徴だ。 

 無から生み出せるわけでも、得られるスキルを選べるわけでもない。ルルドピーンの創造スキルとは程遠いこのスキルには、懸念していた事があった。

 それは、一度失ったスキルはもう二度と手に入れられないのかもしれない、という点だ。


 スキルの獲得には2つの条件どちらかを満たす必要がある。

 1つは、特殊な行動をして選ばれる事。これは今は関係ない。何か世界の運行とか仕組みとかそういう話が関係していたようだが、俺には当分縁のない話だ。

 もう1つの条件は、俺にとって重要で、スキルに対応した行動を繰り返し経験を積む事。

 要はゲームでいう「行動の経験値を貯めたらレベルアップしてスキルとして獲得されますよ」というシステムだ。

 問題はこのシステムが『天業合成』でスキルを失った時に、経験値をリセットしてもう一度スキルを獲得できるようにしてくれるのか、それともリセットせずにもう二度とスキルを獲得できなくなるのか、という点だった。

 結果は前者だった。

 『滑空』『跳躍』はどちらも、俺がオーラから貰って合成の素材にしたスキルだ。それらをもう一度獲得する事ができた。

 これで合成の素材に困る事は無くなったというわけだ。


「それじゃあ始めるか。『天業合成』!」


 俺は、合成を始めた。

 素材にするのは『滑空』そして『跳躍』。

 素材を指定しスキルを発動すると、俺の体から何かが抜けていった。最初に『天業合成』をした時と同じ感覚だ。

 直後、微小な力が宿った。

 急いでステータス画面を開いて確認する。

 そこには『魔工』という新たなスキルがあった。

 魔工……? あー、老竜の中に持っていた奴がいたな。作った道具に魔法の効果を宿らせるスキルだな

 うーん。今の俺にはあまり役に立たないスキルだ。なにせ、文明的な生活からはかけ離れた生活をしているわけだし。

 ただ、これで分かったぞ。『天業合成』はランダムにスキルを獲得できる事が。

 里にいた時にオーラから貰った『滑空』と『跳躍』を合成して、できたのは『剣技』スキルだった。それが今回は同じ素材を使ったのに『魔工』を獲得できた。

 合成で獲得できるスキルは素材に依存した物ではない。ランダムなのだ。

 これからは日課の狩りの中で、『滑空』『跳躍』を手に入れて合成する事にしよう。


「ヒトゥリ様ー! 遊びに来たっス~」


 上空からレッサードラゴンが降りてきた。ドラゴンの表情は分からないが、こいつはいつ見ても笑ってる気がするな。それに話もしない俺の所によく来る……。そんなに、ドラゴンに憧れているんだろうか。

 ……そうだ。


「レッサードラゴン。お前火を吹けるか?」


「えっ、吹けないっス。竜魔術は学んでないし、スキルも持ってないので」


 そうか。なら丁度いいな。

 俺は人間形態になり、先程食べたイノシシの骨を拾い、石で削り始める。


「ヒトゥリ様? 急に何を……」


「少し待っててくれ」


 『魔工』のおかげか、どこを削り出せばいいのか手に取るように解る粗方削り終え。ナイフの形に近づけた骨に、最後の仕上げに刃の片面に爪で紋様を描く。

 完成したそれを、レッサードラゴンに渡す。


「えっと、なんスか? これ」


「『魔工』で作った道具だ。魔力を込めて握ってみろ」


 レッサードラゴンが言われた通りにすると、紋様から細長い火が噴き出し、空へ伸びた。

 揺らめく事もなく、ごうごうとただ空気を燃やしているそれを、レッサードラゴンが間の抜けた顔で見つめている。


「な、なんスかコレー! 骨が火を吹いてる! 私ですら吹けないのにー!」


「イノシシの骨に『魔工』で『竜魔術』の火を吹く魔法を付与したんだ。成功だな。それはお前にやる。俺は自前で吹けるし」


「えっ、いいんスか! やったー!」


 初めてやった『魔工』だが、上手くいって良かった。どうやら『魔工』は魔法の効果を組み込むだけでなく、その前の道具を加工する部分もある程度は技術を向上させてくれるらしい。

 前世も転生してからも俺は不器用で、ナイフを作るなんてできないはずだからな。

 1人でわいわい騒ぐレッサードラゴンを尻目に、俺はその場を去り開けた場所でドラゴンに戻った。

 大地を蹴り空に跳ぶ。そして鬱蒼とした木々を見下ろすと、 翼を広げ空気に乗り適当な所に着地する。

 この行動を何度も繰り返す。そう、『跳躍』『滑空』スキルの獲得のためだ。

 他にスキルを得る方法を探すのも考えたが、やめておいた。

 せっかく『天業合成』を有効活用する方法を思いついたのだ。できる限り使いたいじゃないか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る