『剣技』
産まれた日に与えられた洞穴のような家から5分程羽ばたき、見晴らしのいい岩壁の上に降り立つ。
今の俺は鼻歌を歌って上機嫌だ。何故ならようやく『剣技』の活かし方を思いついたのだから!
手が無ければ剣を持てず、人間形態になればパワーが落ちるので剣を持つ意味がない。
その狭間で葛藤していた俺は、このどちらも解決できる妙案を今朝思い付き、それを試すためにここに来た。
下界の森林を見て、目当ての物を探す。
さあ、丁度良い大きさの木はないか。
……見つけた。
俺は岩壁から飛び降り、滑空し見つけた木の元へと急降下した。
そして口で木に噛みつき、引き抜く。
「オラァッ!」
引き抜いた勢いをそのままに、上空へと木を放り投げ準備は完了した。
勘の良い人なら俺が何をしているか既に分かっているだろう。
手のないドラゴンが剣(に見立てた木)を扱うなら、どうすればいいのか。
その答えがこれだッ――!
「グルルルルアアアアアア!」
気合を入れ空高く放り投げられた木、目掛けて飛び立つ。
木に追い着くと空中で咥え、そのまま今度は下の森林目掛けて飛び降りる。加速する視界がやがて大地へと迫っていく。
そう、これは木を剣に見立て口で剣を咥え飛ぶ事で剣を振るうという『剣技』の発動条件を強引に満たす技。
「
轟音と共に、土埃が巻き起こった。
――どうやら地に激突して気を失っていたようだ。
未だ口に咥えたままだった木を放り出して、辺りを見回す。
なんということでしょう。
あんなにも鬱蒼としていた森の一部が、荒涼とした土剥き出しの大地へと変わっているではありませんか。
ふふふふ、ハーハッハッハ! 見たか! コレだよ! 俺がやりたかったのは!
自分で考えた使い方や戦略が上手くハマって普通以上のパフォーマンスを発揮する。
それが一番楽しい。ああ、こんなに楽しい物だったか。ゲーマーとしての喜びは。
さて喜ぶのはこのくらいにしておいて、実際スキルがどの程度の効力なのか検証するか。
人間形態になって、放り出した木を再度持ち上げて振るう。『剣技』のスキルは意図的に発動させずに、ドラゴンの俺と同じくらいの大きさの岩に当てる。
木は岩にぶつかってそのまま止められてしまった。
これが『剣技』を発動しなかった時の、素の人間形態の破壊力。
もう一度、木を持ち直し岩に向けて振るう。
今度は『剣技』を発動させる。先程の人間形態よりも動きが向上しているを感じる。
しかし、それでも岩にヒビを入れただけで止まってしまった。
これが『剣技』を発動させた時の、俺の人間形態の破壊力。
最後に、一瞬だけドラゴン形態に戻って腕を振るって近くにあった他の岩を破壊する。
やはり、これくらいか。
ドラゴンの俺ならば素手でこの岩を壊せる。人間形態だとスキルを使っても、ヒビを入れるのが精一杯。スキルを使わなかったらヒビすら入らない。
だが、ドラゴンの俺が『剣技』スキルを使えば大地を抉る程の破壊力を得る!
どう考えても、元の能力が高いほどスキルの恩恵が増えている。空中から勢いをつけたとはいえ、スキルによる破壊力の向上が同じとは思えない。
どうやら、スキルの持つ身体能力向上の効果は元の身体能力に比例しているようだ。
やはり、人間の姿でスキルを使うよりもドラゴンの姿でスキルを使う方法を模索していった方が良さそうだ。
よし、満足したし方針が決まった所で帰るか。
俺が後ろを振り向くと、いつの間にか2頭のドラゴンが立っていた。
「また人間の姿でスキルの検証なんてしてるのかヒトゥリ、お前本当に変わってんな」
ヴィデンタスとルルドピーンだ。この2人は先日のオーラの演説から仲直りしたようで、たまに2人でいるのを見かける。
彼ら以外のドラゴンも仲を深めているらしく、 俺以外の同世代達は2人をヴィド、ルルと呼んでいるらしい。
別に寂しくはない。なぜなら2人は、俺もその中に入れようとこうやって絡んでくる。その度に人間の姿でいる俺を変な目で見てくるのだから、むしろ居心地が悪いのだ。
良い機会かもな。この2人……他のドラゴンと俺との違いを再確認しよう。
「2人とも。何か夢はあるか?」
「ヒ、ヒトゥリ。お前が自分から喋るなんて珍しいじゃねえか!」
「やめなさいヴィド。なんでこんな事を聞くのか分からないけど……私の夢は知っての通り、オーラ様のような他のドラゴンを導く偉大なドラゴンになる事だ」
「へ、まあいいけどよ。俺の夢は知ってんだろ? 各地を治めてる五龍王の1人になるんだよ」
ルルドピーンがヴィデンタスをたしなめ、俺の質問に答えるとヴィデンタスもそれに続いた。
「そうか……」
やはりそうだ。この2人だけではない。俺以外のドラゴンは何か夢を持っている。そうでなければドラゴンとしての使命感だとか義務だとか、そういう高い志を持っている。
過去ブラックに勤め束縛から抜け出そうとしている元人間の俺と、世界の管理なんていう大役に目を輝かせている純粋なドラゴンの彼らとでは絶対に合わない。
もしかしたら、俺がこの里を抜け出すのに手を貸してくれるようなドラゴンがいるかもしれないと考えたが、やめておこう。
善意から連れ戻すに決まっている。
「で? どうしたんだよ。こんな変な質問して」
「いや、何でもない。ありがとう」
俺は2人から離れて、ねぐらへと戻る。
後ろの方から俺を「変な奴だな」と言うヴィデンタスと、それをたしなめるルルドピーンの話が聞こえた。
理解されなくてもいい。俺は自分のロマンを追い求めるだけだ。
スキルについての大体の検証は終わった。外の世界についても学び終えた。
明日、俺はこの里を出る。
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