同年代のドラゴン達
俺が前世の記憶を取り戻してから数日経った。
俺が今いるのは天を衝く程高い天業竜山にあるドラゴンの里らしい。使命を果たしに行くドラゴン以外の天業竜はここに留まって、自分の出番が来るのを待つそうだ。
出番のないドラゴンは暇を持て余して、大抵は飯を食ったり、若者に講義をしたり、書物を読んだりして過ごしている。定年退職後の老人みたいに。
そして俺はここ数日、その暇を持て余している年上連中が開催する講義でこの世界の事を学んでいた。スキルや魔法、人間達の築く文化の事、この世界の成り立ちとか。
学ぶべき事は多かったが、それでも人間と比べてドラゴンというのは知能が高い。数日もあればほとんどを学びきってしまって、今はやる事が無くなってしまっているのだ。
頼みの綱の『天業合成』も、スキルを習得できないこの状況だとほとんど使い物にならない。
講義の後にここの長、オーラとかいう老いたドラゴンが『天業支配』とかいう自由にスキルを与えられるトンデモスキルで、授けられたスキルを一度合成したきりだ。
授けられた2つを合成して得られたのは『剣技』という剣の形をした武器の鋭さを上げ、剣を持った時に身体能力を向上させるというスキルだった。
しかしこの『剣技』、いかんせんドラゴンの体では手がないので剣を扱いづらい。形を変えて人間になる竜魔術も使えるけど、『剣技』の身体能力補正を入れてもこのドラゴンの体よりもパワーが落ちてしまう。
人間の体で『剣技』を使うよりも、ドラゴンの体で爪を振るった方がよく切れるし力も強いのだ。
そんな訳で、俺は『剣技』の活かし方をいまいち見つけられずにいた。
「よお、そんな所で何やってんだ? 落ちこぼれさんよ」
ちっ、嫌な奴が来た。
丁度いい感じの岩に乗っけていた顎を持ち上げ、視線を上げると岩のような鱗のデカい竜がいた。
ヴィデンタスだ。この前の講義で人の話を遮ってステータスが見たいと言い出していた奴が、同年代の取り巻き達を連れて俺に絡みに来たようだ。
「自分の才能のなさを嘆いていたのか? 気にすることはないぜ、俺と比べれば同年代のドラゴンなんて皆才能がないようなもんだからな」
ヴィデンタスは俺の前で鼻息荒くしている。
俺はこいつが好きじゃない。うるさいし、傲慢だし、横暴だし、何より俺にこうやった絡んでくる。
ただ、こいつの言ってる事は事実だ。
持っているユニークスキルは『天業模倣』。一度見たスキルをコピーして自分の物にできる。
コピーしたスキルは劣化するし、ユニークスキルはコピーできないという欠点はあるが、十分強力なスキルで、そのスキルでこの里のドラゴンの大半のスキルを既に得ている。
こいつは俺の『天業合成』と自分のスキルを比べて何かとマウントを取りたがる。若くてそういう年ごろなのだろうが、それでも腹立たしい。
「その通り! ヴィデンタス様は五龍王の1人になるお方! 産まれてわずか5年で進化もしたし、お前とは違うのだ!」
ヴィデンタスの後ろについていたドラゴン達が、何やらわめいている。
進化。それは生命が通常長い時と経験を得ると、上位の存在へと種族を変化させる事を言う。
ヴィデンタスは俺が産まれる少し前に【ロックドラゴン】から【メタルドラゴン】へと進化をしたらしい。若いドラゴンが進化をするのは珍しいそうで、この里でもヴィデンタスは優秀なドラゴンとして期待されているようだ。
そしてそんな期待されているドラゴンの元に、取り巻き達が集まってくる、と。
俺がこいつを嫌う理由の一番がこれだ。このヴィデンタスはこんな取り巻き達をいつも連れている。
ああ、本当にうるさい。
「君達何を騒いでいるんだ!」
ああ、騒ぎを聞きつけて委員長までやってきた。
青の鱗を持ったドラゴンが上から羽ばたき降りてくる。
「げ、ルルドピーンか。うるさい奴が来たな」
ヴィデンタスが顔をしかめた。
委員長は俺がつけたあだ名で、あいつはルルドピーンという。規則を守れとか風紀がどうとか伝統がとか、あまりにも委員長みたいな事ばかりを言うので勝手に心の中でそう呼んでいる。
そしてドラゴンだから全く分からなかったけど、あれはメスらしい。
「げ、とはなんだ! お前は少し騒ぎすぎる! もう少しドラゴンとしての矜持をだな……」
「それはお前もだろ! バーカ! そもそもドラゴンは強さと威厳が必要なんだ。人間の姿を取りたがるヒトゥリや俺より弱いお前に指図されたくねえよ」
「なんだと……!」
うーん。子供の喧嘩だな。精神年齢25歳の俺にはちょっとついていけそうにない。黙って空でも眺めておこう。
そうそう、ヴィデンタスがルルドピーンを「弱い」と言ったが、別にそんな事はない。
ルルドピーンは『天業創造』というスキルを作り出せる、かなりヤバいスキルと場や相手の行動原理や信念、癖を読み取れる『規範把握』というスキルの2つのユニークスキルを持っている。
正直俺はルルドピーンの方が強いと思っているんだが、若いドラゴンは進化を経験しているヴィデンタスの方が強いと思っているらしい。
そろそろ、うっとうしくなってきたし他の場所で『剣技』の有効的な使い方でも考えるか。
翼を広げてどこかへ飛んでいこうとした時巨大な影が俺達、幼竜達を覆った。
「何を争っている。我が子達よ」
白銀の鱗を持った巨大なドラゴンが俺達を見下ろしていた。
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