第5話 村の惨劇、二回目
「あ……。気が付かれましたか?」
目を開けた俺に言葉がかけられる。
最初はぼやけていたが、しばらくして見た光景に、俺は確信した。
戻ってる!
タイムリープ、成功だ!
場所は、【
俺が寝そべっているのは、質素なベッド。
目の前にいるのは、金髪の女の子、セロ。
可愛い顔で、困惑したようにまばたきを繰り返す。
生きてるセロだ……。
「あれ……。服が体に合ってなかったと思うんですけど……。それに、血……?」
俺の格好を見回したセロは、スンスンと鼻を鳴らす。
どうやら、タイムリープの魔法を使う時点で俺が身に着けていたものは、俺といっしょに時間を戻ってくるらしい。セロが驚くとおりで、俺の服はサイズが合ったものに変わっており、サルの返り血でひどく汚れていた。
セロからしてみれば、一瞬のうちにそうなったように見えただろう。
マズいと思い、服に染みこんだ返り血だけを【異空間】の魔法で消す。
掛け声をかけなくても、比較的簡単な魔法を使えるのはすでに確認済みだった。
【あの行動】をとる以前に戻ったのに、魔法が使えるのも嬉しい誤算だ。今、セロを目の前にしてあの「一発芸」はやりたくないからな。
「気が付かれたのでしたら、私は……」
立ち上がって去ろうとしたセロの腕を俺はつかむ。
「何か……?」
「『俺を好きになれ』」
振り向いたセロの顔に手を向けて、俺は【マインド】の魔法を使った。
直後、セロの俺を見る目がキラキラとしたものになる。
「あ、あの……。そういえば、その、名前を……聞いてなかったね」
「俺? 俺の名前?」
「そう。教えて……」
セロの態度、どこか他人行儀だったのが、フレンドリーになってる。
彼女、好きな相手にはこんな態度なのか。
【マインド】はしっかり効いてるようだ。
ハッキリ言って、俺は現実世界ではまったくモテなかった。
体型はふつうで頭も運動もふつう。嫌われる要素なんかなかったはずだが、きっと、微妙な顔に生んでくれた親のおかげだ。
だが、この異世界では違う。
前の時間で鏡を見たとき、俺の姿が子どもになってることは確認した。だがそれは、俺自身の子どもの頃の姿じゃない。転生の影響か、全くの別人だった。そして、顔のつくりは悪くない。そこらの子役にも負けないくらい、可愛らしい子どもが俺だった。
それでなくても、魔法を駆使すれば顔をいじれるだろうし、こんなふうに、【マインド】魔法で好きになってもらうのも簡単だ。
せっかく最強になっても、孤独じゃ意味がない。
この異世界で俺は
「シュン。俺の名前はシュンだ」
「シュン……」
つぶやいたセロは、頬を赤らめる。
もう、明らかに俺を好きなのが分かる態度。
ちょっと罪悪感があるな……。
見つめ合う俺とセロだったが、不意に地響きと悲鳴が聴こえてきた。
サルだ。
サルが襲ってくる時間になったんだ。
「あ、いけない!」
セロは赤らめていた顔を青ざめさせると、ドアを背に、立ちはだかるにして張り付いた。
「シュン。絶対、ここから出ないで。今、外は危険よ」
「知ってるよ」
俺はベッドから降りると、セロに歩み寄った。
面と向かって立つと、背の高さが合ってないのがみっともないな。それこそ、俺が子どもの頃の姉ちゃんを見てるようでイヤだな……。
「俺に任せて」
「シュン……?」
セロの手を取る。
ひんやりとした彼女の手は、絹のように触り心地がよかった。
「セロに魔法の力をあげる。【
俺の手が光り、セロの手も光る。
前の時間では試せていなかった、魔法を分け与える【授与】だ。
手を離すと、セロの手は俺の手の白い光とは別に、赤色に光っていた。
「さいこ……きねしす……?」
彼女にお手本を見せるつもりで、指先に、ロウソクくらいに小さな【念動力】の火を出す。
「こんなふうに火が出せる。【火を出す】って思い浮かべてみて」
セロもおずおずとながら、同じように火を
「こ、これは一体……」
「もっと大きい炎を思い浮かべれば、手から出すことができる。それでサルから身を守って」
与えられた魔法……、自分の身に起きていることに不思議がっているだけのセロ。
さっきまでは、俺を
ドアに手をかける。
戸惑っていたセロは、俺が外に出ようとしていることに気付くと、「シュン」と慌てて、抱きついてきた。
「外は危険です!」
「大丈夫。任せてくれよ」
俺はドアを開け放った。
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