神様の落とし物
オレンジ
エピローグ
1944年 東京
普段は大勢の観光客が入り乱れて活気あふれる花の都。東京。
しかし、この日ばかりは閑散としており人っ子一人居なかった。
その人の気配が消えた東京の大通りを僕ら水戸第一連隊第一中隊第五小隊が進む。
市民の姿はなく、完全武装の兵士が我が物顔で進む。帝都はさながらクーデターの様相を帯びていた。
普段ならクーデターは起こってほしくないが、今ならこう思う!(クーデターであってほしかったと!)。
先日まで続いていた晴天も今は消え失せ。どこまで雲が続く混沌した空は僕ら…いや、人類の苦難を暗示しているようであった。
次の瞬間!
体の芯に重く響く爆発音があたり一面に轟く!
皆とっさに身をかがめる!
その大きな音が鳴るたびに地面が揺れ、小石はダンスを踊り、電線はブランコのように揺れる!すると間髪入れずに次は土砂崩れの様な音が鳴り響く。
顔を上げて音の方向へ目を向けると。あったはずのビルがなくなっていた。
「うわぁぁぁぁ!」
「足がァァ!頼むゥ!おいて行かないでくれぇぇ!!」
「畜生!畜生!チクショョョョォォォォ!」
複数の断末魔が響き渡るがすぐに爆音でかき消される。
身をかがめている皆の顔が恐怖に染まっていくのが僕からも見えた。
皆察したのだ。早く隠れないと次は自分達がああなる番だと。
一通り味方を掃討し終わったのか、爆音が止んだ。
どうやら分隊長も僕らと同じことを察していたらしく、戦闘を避けるために自分達に「総員散開!物陰に退避!」と小声で指示を送る。皆それぞ隠れる場所を見つけ散り散りになっていった。。
僕こと日野友作も、上の階は吹き飛ばされていて、一階部分だけが無事なマンションに隠れる為に移動を始める。一度攻撃された後なら敵はもう攻撃しないとよんだからだ。
無事と言っても大通りに面した壁には大きな穴が開いていて、そこから部屋に入る。
部屋に入ると奥にダイニングキッチンが見えた。急いでダイニングキッチンの影に隠れる。
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日野→○┃ ┃
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僕に遅れてもう一つの影が部屋に入ってくる。
「勇(いさむ)!」
「よぉ!わりぃな!ここ借りるぜ!」
陽気な声の主は本堂勇(ほんどういさむ)
僕の同期だ。
「何で同じ場所に来るんだよ!」
「別にいいだろう?ここお前んちじゃないんだし。」
「それはそうだけどなぁ!」
屁理屈をこねてくる勇に言い返そうとすると
カラスが大きな鳴き声をあげながら羽ばたく。
すると、先の爆発音がした方向から大きな金属音が聞こえてくる。
頼む!こっちに来ないでくれ!。僕はアルマジロの様に丸まりながら祈る。
その祈りも虚しく、音はどんどん大きくなる。
死が近づいてくる。その恐怖で鼓動が早くなる。心臓が助骨を突き破って出てくるのではないかと思う程に。
パッタリと金属音がやんだ。
何処かに行ったのか?という希望的観測を仕掛けた。だがその淡い期待はすぐに打ち砕かれた。
鏡に部屋に入ってくるミミズのような3本の触手が写っていたからだ。
その先端は夏の青空の様な青色に光っていて、銀色の腕は滑らかに波打っていた。
もう駄目だ!すぐそこまで来ている!
僕が死を覚悟した。
しかし、天は吾を見捨てなかった!
東京湾の方向から「ピィィィ!ピィィィ!」とけたたましい音が鳴り響くのに反応して、触手は引っ込み、奴は音のなる方向に駆け出していった。
その際、触手が壁にぶつかり壁にかけてあったものを落として行った。
数分待って奴が帰ってこないのを確認すると
新たな奴が居ないか顔を上げてキョロキョロと索敵する。
物音はしない。どうやら居ないようだ。立ち上がり,壁から落ちた物を手に取る。
それは写真が入った額縁だった。家族写真だろうか。そこには、母親と父親と手を繋ぎながらヒマワリのような笑顔を浮かべる少女が写っていた。
「幸せそうな家族だな。可哀想に。奴が来なければ今頃キャンプに行けてたのに。」
勇は僕より一回り大きい身長を使って、後ろから写真を覗き込みながらそう呟いた。
「なんでそんなこと分かるんだ?」
僕が疑問をぶつけると
「ホレ」
勇は手に持っていたカレンダーをこちらに渡してきた。
そのカレンダーには、あの運命の日の前日の8月5日に丸がされていただくと。日付のすぐ下には、写真の少女が書いたのだろうか?拙い文字で「キャンプ♥」と書かれていた。
そうか。まだあの日から3日も経ってないのか。
体感時間と実際の時間の差に軽いめまいを覚えながら。
僕は天を仰ぎながらもう遥か彼方へ行ってしまった様なあの楽しい日々に思いを馳せる。
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