第35話

「リア、アイラ元公爵夫人の罪の決定と処刑日が決まった。そして陛下から当事者であるリアは呼ばれている。ニール君と2人で王宮へ向かいなさい」


「はい。お父様」


 お父様は眉間に眉を寄せたまま王家の書類に目を通していた。




 私達は王宮へ向かうと謁見室とは異なった部屋へと通された。その部屋には既に陛下とラストール公爵が座っていた。  


「ニール・フォロー伯爵、リア夫人。改めて結婚おめでとう。これからも共に王宮魔導師として励んで欲しい」


陛下からの祝いの言葉に2人で礼を取るとラストール公爵と向かいのソファへ座るように促され、座る。


因みに私達は結婚したので公爵家から出て新たに陛下からフォローの名を爵位と一緒に頂いたの。苗字は自分達で決める事は出来なかった。


「早速で悪いが、リア夫人、アイラ元公爵夫人の処刑は明日に決まった。罪名は侯爵令嬢への暴行、公爵夫人位の簒奪及び娘を使った王妃位の簒奪未遂だ。そして当の本人なのだが、不思議な事を言っているのだ。リア夫人はリディス・サルタン令嬢だと」


 陛下は面白そうな話を期待するような顔をしている。そういう所はアラン殿下そっくりだなぁと思ってしまった。


私はニール様の顔を見ると心配そうな顔をしているわ。私はニール様の手を取り、微笑んだ。


「陛下、ラストール公爵。私達だけの内密な話として貰いたいのですが、宜しいですか?」


「分かった。では他の者も下がらせよう」


そう言って陛下は従者や護衛を下がらせた。


「陛下は覚えていると思いますが、私が光属性の魔法に目覚めたのは2年前です。きっかけは侯爵子息の魔力暴走に巻き込まれた事です。


半月程意識は無く眠った状態の私はリディス様に会ったのです。リディス様の大体の記憶と意思を引き継ぐ事により光属性魔法が使えるようになりました。


アイラ元公爵夫人に言ったのはリディス様の中にあった記憶の話をしたまでですわ。まぁ、記憶なので証拠にもなりませんけれど」


嘘は言っていない。


前世だとは言っていないだけで。生まれ変わったと言ってしまえば根掘り葉掘り聞かれて後々面倒な事が起こるわ。


「リディス嬢の意思とは?」


陛下が私に尋ねる。フィアンも真剣に聞いている様子。


「リディス様は誰からも愛されず、辛い思いをした。だから私には結婚するなら夫婦で信頼し、愛し合い、温かな家庭を築くように。という感じでしょうか。


私が目覚めてからすぐにライアン殿下との婚約の打診があったようですが、リディス様の意志もありライアン殿下の妃になるのは最初から選択肢に無かったのです。


庇護はされますが王族では自由も無いですし、側妃を取らなければならないですからね。ラストール公爵様が愛人を作ろうとなさってリディス様が自害なされた。


私自身も好きな人を共有できるほど器は大きく無いです。きも、生理的に受け付けません」


これ以上は不味いと口を閉じる。気持ち悪いって言いかけたわ。


陛下はふむ。と納得したのかは分からないがそれ以上は聞いて来なかった。


「リア嬢、聞いてもいいだろうか?」


フィアン公爵が代わりに口を開く。沈痛な面持ちをしながら。


「私に分かる事であれば」


「リディスはアイラの子がキール子爵の子だと知っていたのかい?」


「さぁ?私の見た記憶ではリディス様は仕事で街を歩いている時にアイラ元公爵夫人とキール子爵が仲睦まじく、愛を確かめ合う建物へ入って行く所を見ていました。その3ヶ月後にラストール公爵様が真実の愛を見つけた。子どももいると言われたのです。光属性に目覚めてから学院に入学してマリーナ様に会った時、リディス様が抱いた疑惑を私が確信したのは言うまでもありませんわ」


「何故、リディスは言わなかったんだ!教えてくれ!」


フィアンは掴み掛かりそうな勢いで声を荒げている。


「さぁ?私が言うのも可笑しな話ですが、リディス様が言った所で聴く耳を持ったのでしょうか。結婚式の直前まで会う事も叶わなかったという記憶があるのですが」


「っ!・・・そうだな。すまん」


私が言った言葉がショックだったのかフィアンは落ち着きを取り戻したようだ。


「リア伯爵夫人。君の記憶にリディス嬢の記憶がある事は確認した。確かに確証は得られないが嘘を吐いている様子もない。


ラストール公爵とのやり取りを見て信じるには値する。面白い話だな。でも、何故マリーナの事を誰にも言わなかったのだ?」


「陛下、私が入学した時点で既にマリーナさんはライアン殿下の王子妃候補筆頭でした。証拠は無いですし、告げた事で私が消される可能性もありましたから言わなかったのです」


「ふむ。そうだな。私からは以上だ。帰っても良い」


私とニール様は礼をして部屋を出る。2人で仲良く帰ろうとしていた時に声がかかる。


「伯爵夫人、最後に一つ良いだろうか?」


私は振り向き答える。


「構わないですよ」


「リディスは、私の事を、ずっと恨んでいただろうか・・・?」


「恨んではいませんわ。・・・ただ、政略結婚とはいえ、慕う人に冷たい仕打ちを受けて辛く悲しかった、と思います。では、失礼します」


 私は鎮痛な面持ちのフィアンに礼をして立ち去る。




ニール様は馬車に乗り込むと聞いてきた。これで良かったのかと。


「ニール様。私の前世の記憶は既に過去の事なのです。リアはニール様と共に歩む未来しか見えていません」


「そうだね。愛しているよ、リア。早く新居が完成すると良いな。誰の目も気にせずリアを愛する事が出来る」


「もう、ニール様っ。まだ日は高いです」そうして仲良く邸に帰った。

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