第27話

 そんなある日の週末、お母様から言われる。


「リア、忘れていない?」


「お母様、何がでしょうか?」


「明日はデビュタントなのよ?ドレスはもう届いているわ」


 あぁ、忙しくて忘れていたわ。明日はニール師団長が迎えに来てくれるらしい。職場では一言もそんな会話が無かったのに。空気を読んだのかメイジーがドレスを持ってきてくれた。白を基調としているのだけれど、所々にワンポイントでニール様の色が入っている。お母様もメイジーも流石公爵家とドレスにうっとりしている。


確かに可愛い。


ニール様が選んだのかしら。


 翌日は朝から邸の侍女総出で私のデビュタントの準備に取り掛かってくれている。今日のデビュタント会場に向かうのはお父様とお母様と私。


そしてエスコート役のニール様となっている。お兄様はライアン殿下にこれ以上虫が付かないようにと、側近として勤務するらしい。


メイジーと他の侍女達はお風呂、マッサージ、お化粧とワイワイ、キャーキャーいいながら私を令嬢に仕立て上げる。『甘く柔らかい雰囲気を醸し出しながらも凛とした大人の香りをまとう令嬢』というテーマらしい。


・・・可愛い。可愛いわ。


自分じゃないみたい。浮かれて玄関ホールでクルリとターンをして遊んでいると、迎えに来たニール様と目が合う。


「リア、やはり美しい。女神のようだ。どうぞ女神の手を取るお許しを下さいませんか?」


ニール様はそう言って手を差し出してくれた。私達はニール様の馬車で会場に向かった。ドキドキして多弁になってしまったせいかお母様にふふと微笑まれた。




 私達は侯爵家だから入場はいつも後ろの方なのだけれど、今日は公爵のニール様のエスコートなので1番最後に入場する。


 案内の声と共に会場中の視線が一同に集まる。そして一瞬のうちに静まりかえり、またざわざわと聞こえはじめる。光属性のあの子よね?的な注目のされ方なのよ、ね?


ドキドキしているとニール様がそっと耳元で囁いた。


「会場中がリアの可愛さに騒然としているね。アークドラゴンのようなリアの可愛さが広まってしまった。私としては今からでも隠してしまいたいよ」


 私は耳元で囁かれたせいか、甘い言葉のせいか、両方か分からないけれど顔は真っ赤になっているに違いない。


 因みにアークドラゴンはニール様の好きなドラゴンベスト3に入る最小ドラゴンらしい。ドラゴンを絡めてきたのは緊張を解そうとしてくれたのか、私とイメージが被って可愛いと言ったのかは謎。


「さあ、陛下達に挨拶しますよ」


お母様の声でハッと意識を戻す。


 今回我が家は一番初めの挨拶。お父様が長々と挨拶を述べている。毎回思うけれど、必要なのかしらと思うのよね。後ろの人からは略しても良いらしいけれど。


「やあ、リア嬢。スタンピードでの活躍ご苦労だったね。息子達からも色々聞いてるよ。だが、ニール・カルサル君が婚約者では諦めるしか無いな。今後とも国の発展の為に宜しく頼む」


お父様もお母様もニール様も微笑み礼をしているわ。えっと、婚約者?


「さぁ、リア。ファーストダンスが始まりますよ。向かいましょう。ダンスは踊れますか?」


「一応、令嬢の端くれではありますので」


「では私の女神、この手をお取り下さい」


私はニール様の手を取りダンスホールの中央へ向かう。そして煌びやかなダンスホールの中央に辿り着き、音楽と共に踊り始める。


「リア、とても上手ですよ」


 今日のニール様はいつもに増して輝いている。見目麗しく、高長身、公爵家子息、王宮魔導師。


なんて素敵な肩書きなのでしょう。


令嬢が山のように来るはずよね。


ニール様に選んで貰えるご令嬢は羨ましい。ん?羨ましい?私、もしかして私、ニール様の事が。


「リア?どうした?」


「いえ、ニール様に選ばれるご令嬢を羨ましいと思っただけです」


「ようやく、君は、私の事を考えてくれるようになったんですね。私の婚約者殿」


「えっ?やはり婚約者なのですか?私達」


「ええ。そうですよ。まだ仮の、と言う段階でしたが。熱烈なプロポーズをしてくれたのに素っ気ないので、リアがこうして私にしっかりと言ってくれるまで待っていたんだよ?私もリアの家族も」


えっ!?


なんという事でしょう。気付かぬは本人ばかり。驚きと嬉しさと混乱が頭の中がグルグルと渦巻く。気づけば2曲目も踊っていたわ。


「ニール様。いつから、なのですか?」


「え?リアは忘れているのですか?あんなに大きな出来事だったのに?」


ニール様が驚いて目を見開くようにこちらを見つめているが、私としてもいつからか分からない。ニール様の言葉で今度は私が目を見開き更に驚く。


「リアが先に私にプロポーズをしてきたのですよ?私の手にそっと包んでくれたドラゴンハート。今でも忘れません。どんなに感動に打ち震えた事か」


「ドラゴンハートを渡すと何故プロポーズになるのですか?」


「ドラゴンハートは太古の高位貴族達が使ったとされる最高の求婚アイテムだと知らなかったのですか?その貴重さから贈られた者は生涯幸せになると言い伝えがあるのですよ。


今更返せと言われても絶対返しませんし、リアは誰にも渡しませんが」


そんな重い物だったのか。


 そして本人の気付かぬうちに外堀が埋められていたわ。というか自分でせっせと埋めていたらしい。はははと笑うしか無いわね。


「詳しくは後で話しましょう」


私は3曲目を踊り終えて家族の元へ向かう。


「リア、ニール様と3曲踊ったのね。ついに決心したのね。ふふふ。周りを見てご覧なさい。2人とも沢山の人に狙われていたのよ?悔しそうね」


お母様は何だかとても楽しそう。すると、ライアン殿下が私の元へやってきた。



「私と1曲踊ってくれませんか?」

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