第20話 

 ようやく休みの日となった。


 朝から眠い身体を起こされてメイジーにそれはそれは可愛く仕立てて貰った。今日は王宮で殿下と会うんだったわ。お兄様と一緒に馬車で王宮へと向かった。


私は殿下の侍女に案内され別室へ向かい、兄は私を心配しながらも本日も執務室へと赴く。部屋に入るとライアン殿下の侍女達からワンピースへと着替えさせられ、商会長の娘風に変身させられた。


 えっと、王宮の一室で豪華な食事では無いのかしら?着替えも済んだ頃に丁度ライアン殿下も街人風な装いで現れた。けれど、王子様の美貌は装いで誤魔化す事は出来ないらしい。後光が差しているわ。 


「さぁ、リア嬢行こう」


馬車に乗せられ連れて行かれたのは城下町。


「リア、街に降りた事はあるかい?」


「ライアン殿下、無いです」


「今はライアンだよ?貴族では無いからね?」


ぐぬぬ。


これは私への褒美と称したただのデートでは無いだろうか。してやられたわ。


 因みに、リディアの時は準男爵だった頃は普通に街に住み、生活していたような記憶はある。この先、曲がった所に家があるはず。お父さん達は元気にしているのかな。少し寂しい気持ちになる。


「リア?大丈夫?」


「すみません、少し考え事をしていました」


私は笑顔をライアン殿下に向ける。


「リアは行きたい所はあるかな?」


「そうですね、学院生がよく行くと言っていた雑貨屋さんに行ってみたいです」


「ああ、それならこっちだよ」


ライアン殿下に手を引かれてやってきた雑貨屋。可愛い雑貨が沢山売られているわ。男の人は正直入りにくいと思うのだけれど、ライアン殿下はスタスタと入っていく。


「ライアンはここによく来るのですか?」


「えーっと、たまにね?」


あれ?何か聞いてはいけない雰囲気?ああ、ご令嬢と城下町デートをよくしているのね。納得。私は微笑んで深く突っ込まないよう雑貨に目を向ける。視線を向けた先に小さな白ウサギのペーパーウェイトを見つけてしまう。


・・・可愛い。


即買いね。でも、隣の茶ウサギも黒ウサギも気になるわ。よし、買ってしまおう。1人で3つは使わないからカルサル師団長とモーラ医務官に渡して使って貰うのが良いと思うの。私は3つ店員に渡して2つをプレゼント用に包んで貰った。


「リア、欲しいのが見つかったのかな?これは僕から君にプレゼントだよ」


「開けても良いですか?」


そう言ってライアン殿下から渡されたプレゼントを開けてみる。中身レース付きの子豚柄のリボンが入っていた。


・・・どうしよう。これはきっと普通の令嬢達は喜ぶ物なのよね。私はとても喜んでる風を装い、満面の笑みを浮かべる。


「ライアン、有難う!とっても嬉しいわ!次にお茶会があれば付けさせて貰うね!」


ライアン殿下は満足している様子。なんだかごめんなさい。このリボン、本当に私に似合うと思って買ってくれた、のよね?きっと私の趣味を知らないからライアン殿下の好みで選んでくれたに違いない。そう思う事にする。


 雑貨屋を出た後、ライアン殿下のお勧めのレストランへ案内された。店内は混んではいるものの庶民を装う貴族が多い様子。特に騒ぐ事なく、食事を楽しんでいるわ。私とライアン殿下は店員に案内され、奥の個室に案内される。店員からメニューを受け取り見てみるけれど、どれを選べば良いかよく分からないわ。


「店員さん、お勧めのメニューはどれですか?」


ここは素直に聞くのが一番ね。


「お勧めは、今朝仕入れたばかりのドラゴン肉のステーキです。私個人はデザートのプディングもお勧めですね」


「では、それを頂くわ」


「僕も同じ物を」


ドラゴン肉は初めてだわ。カルサル師団長は涙しながら食べるでしょうねきっと。しばらくするとステーキが運ばれ、ライアン殿下と食べ始める。ドラゴン肉は思っていたよりも柔らかく、脂の乗りもちょうどいい塩梅。


 2人で美味しいねと舌鼓を打っていると、外が騒がしい様子。何かあったのかしら?と2人で扉に目を向けると勢いよく扉が開かれる。


「やはりここに居ましたのね!ライ様。ここに来ていると思ったの。その女は誰ですか?私という者が居ながらまた違う令嬢を連れ込んで」


また?これはもしや、噂に聞く修羅場というやつかしら。恋愛小説で読んだ事があるわ。


本当に起きるものなのね。


そう思いながらドキドキしていると、キッとそのご令嬢は私を睨み、


「そこの貴方!名前はなんていうの?」


「私は、名乗る程の者ではございません。ライアンと食事をご一緒にさせて頂いているだけです」


「サラ嬢止めて欲しいな。勝手に個室に入ってきて。失礼だよ?」


優しく話す殿下と私が名前を名乗らなかった事が気持ちを逆撫でしたらしい。つかつかと私の前にきた。殿下を庇うようにいた護衛が令嬢を止めようと手を伸ばしたが間に合わず、私はテーブルに置いてあった水を令嬢に掛けられてしまった。


「ライアンが女を増やす事をこれ以上許せないの。ごめんなさいね。ああでも、一つ教えてあげる。ずっと私も我慢していたけれど、私が知っているだけでも過去5人は同じデートコースでしたわよ?雑貨や商会、ブティック店に寄って、ここで食事してから最後は公園で頬にキスするのが定番らしいですわ」


あぁ、濡れてしまったわ。そして判明した殿下の遊び人疑惑。しかもデートコースが決まっているのね。


「殿下、美味しいお食事有難う御座いました。何か事情があるようですね。私はこのようになってしまいましたし、一足先に帰らせて頂きますね。では失礼します」


これ以上ここに居るのはご迷惑のようね。さっと立ち上がり、店を出る。個室の外で護衛をしていた方が何度も頭を下げて馬車に乗せてくれ邸に着くように御者に指示を出していたわ。


 殿下より護衛の方の胃が心配ね。後日、胃薬をお届けしよう。そう思いながら邸に帰ると、メイジーがびっくりして駆け寄り話すものだから邸中大騒ぎとなった。


まぁ、行きと違う服装だし、頭から水を被っている状態だし当然かな。身体が冷えないうちにと急いで着替えさせられた。あの後、ライアン殿下はどうなったのかしら。


 私はメイジーに修羅場を見たの、と興奮冷めぬうちに話をしたらメイジーは何故か怒り狂っていたわ。


後日どうなったかお兄様に聞いてみようと思う。

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