第18話
後ろから包まれるようなエスコートで手を引いてホールの中央まで来た相手は、カルサル師団長。
「カ、カルサル師団長。びっくりしました」
「今夜はニールと呼びなさい」
カルサル師団長は普段は魔法オタク、ドラゴンマニアと言っても過言ではなく、明けても暮れても魔法研究に勤しみボサボサの髪で過ごしているのだが、今日はしっかりと整えられている。そして普段見ない素顔は殿下達に負けず劣らず見目麗しいのだった。
「ニ、ニール様。み、密着し過ぎで近いです」
あわわ。師団長、眩しすぎる。
こんなに見目麗しい方だったとは。
至近距離で目が合うと魂持っていかれそう。顔を真っ赤にしていると、カルサル師団長はふふっと微笑む。
「意識してくれて何よりです。ほらっ、殿下が悔しそうに見ている。楽しいですね」
「カルサル師「ニールです。呼ばなければこのまま3曲踊り続ける事になりますよ?」」
「ニール様。ずるいです」
「こうでもしないと貴方は私を眼中にも入れないでしょうからね」
確か師団長は公爵子息だったはず。王族と並ぶと言われる程の魔力を持ち、持ち前の魔法オタクさで王宮魔導師に歴代最速でなった人。今年23歳だったかな?将来有望でこの見た目、明日から公爵家にわんさかと釣書が届くと思うわ。
「リア君、今度5日間の休みとなっていますが、1日私の為に空けておいて下さいね」
「ニール様。何かご用事があるのですか?」
「ええ。ちょうど今、博物館で特別展をしているそうなんです」
「ああ。今『ドラゴンの赤い糸』特別展をやっていましたね。赤い糸に因んで恋人か夫婦しか入れないと話題の特別展ですよね」
「知っているなら早いですね。私はその特別展に行きたいと思っています。是非同伴して下さいね」
拒否権は無いのね。でも特別展は私も気になる。
「分かりました。お兄様に許可を貰ったらお知らせしますね」
ダンスも終わり、カルサル師団長のエスコートでお兄様の元へ向かおうとするが、スッと私の前に男の人が現れて手を差し出される。
「リア・ノーツ侯爵令嬢、私と一曲踊って頂けませんか?」
カルサル師団長のエスコートのためカルサル師団長に視線を向けるとカルサル師団長は耳元で囁く。
「彼がウェスター・ラストールですよ」
微笑みながら手を差し出すその姿はまさに王子様の如く。世の中には何故こんなに見目麗しい人達が存在するんでしょうね。不思議だわ。けれど、ラストール家だものね。これ以上近づきたくはないわ。
そして彼はこの祝賀会に参加しているって事は騎士か関係者よね。なんとなくダンスが断り辛い。1曲だけなら大丈夫。手を乗せダンスを始める。彼は緊張しているのかどことなくぎこちない。
「こんな事なら普段からもっと練習しておけば良かったよ。リア嬢。君に会いたくて何度も面会を申し入れていたのに侯爵家も王宮も魔導師棟にも拒否されてしまって困っていたんだ。
これも義父とマリーナのせいだね。俺は今はラストール公爵家の跡取りだけど、跡取りになる前はブランカ子爵家の次男だったんだ。覚えているかな?昔、君に会った事があるのを」
「私に会った事が、あるのですか?」
「王太子の成婚パレードを覚えているかい?あの時に君に迷子になるからお父さんとお母さんと手を繋がないといけないんだよって注意されたんだよね。そしてお祝いとして配られた花を一輪胸に挿していたけど、お父さん、お母さんの元にちゃんと帰れますようにって胸元の花をそっと俺に挿してくれたよね。
俺の方がかなり年上なのに。可愛い子だなって思ってたらまさか数年後に騎士団の魔導師兼治療師として配属される程優秀だなんて思っても見なかったよ。君に声を掛けたくてもマリーナの事で次期公爵になってしまって声も掛けられず。
デートに誘いたい所だが、少々訳ありの我が家ではデート一つ誘えないのが残念だ。今日もダンスだけになってしまった。相談事があったらいつでも相談にのるからね」
「有難う御座います」
曲もちょうど終わり、私は礼をしてからお兄様の元へ向かう。ふぅ。ドキドキしたけれど、何事も無くて良かった。私以上に周りはラストール公爵子息とのダンスにドキドキ、ハラハラしていたと思う。
よし、挨拶もダンスも終えたわ。
「お兄様、挨拶もダンスもしてきました」
だから、に、肉を!目を輝かせてお兄様を見つめると、お兄様も分かったと言わんばかりにオードブルが並べられている一角へエスコートで向かう。
・・・肉が無いわ。
キッとお兄様を睨む。やはり男が多いためにすぐに無くなったらしい。残っている食事も僅か。殿下!一杯食事を用意してくれたのでは無いのですか!?あぅあぅ。悔しくて涙が出そう。遠回しに殿下に肉を所望したのに。
がっくりと膝を突いてしまいそうになる。
「お兄様、もう、帰りたいです」
「・・・あぁ。帰ろうか。リア、なんかごめんね。家に帰ったらリアの好きな物を作って貰おうね」
私は空腹と共に意気消沈し家に帰ると疲れていたのかそのままベッドで寝てしまい、気づけば朝になっていた。私が寝てしまった後、お兄様はお母様とメイジーに小言を盛大に言われたようで朝からぴったりとくっ付いて出勤するまでの間甲斐甲斐しく私のお世話係になっていた。
メイジーの小言が余程効いたのね。
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