第33話ーレイルVS龍弦


龍弦はレイルの成長を自分の事のように

喜んでいた。

本来なら自分に手足を使わせたら充分だと思っていたのだが咄嗟に金剛まで使ってしまった。


(まだ荒削りじゃが、スピード、技、力どれを取っても申し分ないの。

順調に行けば数年後には儂に迫る実力が付くかもしれんのう。



……ん?なんじゃ…?

レイルの闘気の質が変わっていく?)



パリ…パリパリっ。

……バチバチバチッ。

レイルの纏っている闘気が白から徐々に蒼色に染まり、稲妻を纏っていく。


これを見た龍弦は首筋に薄ら寒いモノを感じた。


(これは……闘気ではないのう…

…いや、正確には

闘気をベースにしたナニカ、か。)


「弦爺…コレはまだ未完成だけど、

今の僕の全力だよ。ちゃんと見ててね。」


「…ほっほ。遠慮なくかかって来なさい。」


「じゃあ、行くよ…」



レイルが一歩踏み出す毎に

地面がビシィ…とひび割れた。

そして、次の瞬間…ドォンッ!と何がぶつかった衝撃音が聞こえたと思えば、

地面が隆起しその中心には、

くっきりと足跡がついていた。

それと同時に龍弦の目の前にレイルが迫っていた。


「はぁっ!龍拳!」


稲妻を纏った拳が顔面目掛けて放たれる。

そしてそれを、顔を捻りながら避ける龍弦。


「ぬぉっ?!こりゃ、たまげたわいっ!」


「まだまだぁ!フィジカルブーストォ!

からのっ、瞬歩!」


目の前で拳を放ったレイルは、

いつの間にか背後に居た。


「ほんに、とんでもない奴じゃのぅ!」


また一段レイルの速度が上がり、既に一般人では目では追えない速度までに達していた。

しかし、まだ身体が出来ていないレイルには

負荷が強すぎる為に身体のあちこちで悲鳴が起きていた。


(ぐっ…。やっぱり身体に負荷がかかりすぎる…

コレはあんまり持たない…かも。

…でも、それでも一撃は入れたい!)


「っ…はぁぁっ!紅蓮乱撃!!」


少しずつではあるが

龍弦の反応が遅れはじめ次第に拳が掠るようになってきた頃…


ブチブチっ!と嫌な音が聞こえて来た。


「……はぁはぁっ…っつ!そろそろヤバいかも…」


既にレイルの体力も身体も限界だった。


「レイルや…次で最後じゃ。これ以上はお主の身体が持たんでの…」


(くそぉ…もう少し、もう少しで弦爺に入れられるのにっ!…諦めてたまるか!)


「はぁはぁ…わかった。次が…最後にする…」


何かを決めたような眼をしていた。

それを見た龍弦は何を思ったのか、

レイルに対して初めて構えを取った。


(弦爺が大きくなった…?……いや、

弦爺の圧力が凄くて大きく見えてるだけなんだ。)



「行きます…。

すぅーはぁー…」


レイルは目を閉じ集中する。

次第に周りの音が聞こえなくなり、

自分の呼吸と心臓の音だけが聞こえてくる。


(…弦爺には遠距離の魔術は当たらないし、

出来るのは魔力と闘気の融合…そして身体能力底上げの魔術と武術くらいか。

いや、後1つ、何故か僕の中にある不思議な力の源がある。

それを魔力と闘気…魔闘気と融合出来れば……

違う!出来ればじゃない!やるんだ!

……行くぞっ!)


レイルは龍弦が居ないこの2週間、

ダンジョンに篭り、

魔力も闘気も無くなるほど鍛えていた。

その時に神眼で自分の中にある、

暖かく包み込んでくれるようなエネルギーの塊…

もう一つの力の存在に気付けたのだった。


そして今……

レイルが纏う、蒼く光り稲妻が走る魔闘気が

変わっていく。

蒼から翠、翠から黄色に

そして、次第に美しい輝きを放つ

銀色へとなっていく。


静寂の中にありながら凝縮された圧倒的な気配に

龍弦は内心焦りまくっていた。


(こ、こりゃあまずいのう!レイルめっ!

こんな隠し玉まで用意しとったのか!)


そして、龍弦が瞬きをした刹那、

レイルの姿が消え…直後に腹部へ衝撃が走る。


「ぬぉぉ!なんて威力じゃ!久々に痛いわい!」


「くぅっ!硬ったぁ!これでも全然か!

もう…持たないから

これで……さ、い、ご、だぁっ!」



(いかんっ!レイルが壊れてしまう!

これ以上はやむを得んかっ!)


最後の一撃を放ち、龍弦に届くその瞬間…

首に衝撃が伝わりレイルはそのまま気絶した。



「…すまんの、レイル。

お主の成長が嬉しくて、

つい止めるのが遅れてしもうた。

身体は…大丈夫そうじゃの。」



「…貴方。」


いつの間にか背後に千夜が立っていた。


「…ん?なんじゃ、千夜さんか。

どこから見られてたのかの?」


「レイルちゃんが蒼い闘気を出したあたりからですよ。

…それにしても大人気なかったですね?」


「うっ…そ、それは、アレじゃ!レイルが儂の想像を超えてきよるから仕方なくじゃな…」


「はいはい、そんな言い訳はいいです。

とりあえずレイルちゃんを部屋に運びましょうか。

お説教はその後です。」


「…はい。ごめんなさいじゃ。」


龍弦はレイルを背負いシュンとしながら

シェルターを後にした。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る