第69話 第三者視点10

「とにかくあの狂女を二度と世の中に出すな! こちらから要求するのはそれだけだ! 分かったな!?」


 クリフトファーは吐き捨てるようにそう言った。


「も、もちろんでございます...私の命に懸けましても...」


 モリシャン侯爵は平身低頭しながら囁くように言った。


「そ、それであの...フィンレイ伯爵令嬢に対しましての慰謝料に関しましては...」


「アンリエットは伯爵令嬢ではない。女伯爵だ。間違えるな。慰謝料だと!? 金で解決する問題ではないが用意したいなら勝手にしろ。もっともアンリエットが受け取るとは思えないがな。もう貴様らとは関わりたくないだろうから」


 その中にはきっと自分も入っていることだろう。クリフトファーは自虐気味にそう感じていた。


「話は済んだな? さっさと帰れ」


 そう言ってクリフトファーはモリシャン侯爵の返事を待たずに席を立った。



◇◇◇



「エリザベート様、本当に公言しないと約束して下さいまし...私がロバート様に叱られてしまいます...」


「分かってるわよ。今はそんなことよりアンリエットの体の方が心配だわ」


「それとロバート様がお会いになりたくないとおっしゃったら、諦めて帰って下さいましね?」


「分かったってば! それより急ぎなさいよ!」


 今、セバスチャンはエリザベートと一緒に馬車に乗っている。アンリエットが怪我をした経緯を洗いざらい白状させられて、ロバートの住むアパートへ戻る馬車に強引に乗り込んで来たからだ。ちなみにアンリエット付きの侍女サンドラも同乗している。アンリエットの着替えなどを手に抱えている。


「エリザベート様はここで少々お待ち下さい。サンドラは一緒に来てくれ」


 アパートに着いたセバスチャンは、エリザベートを馬車に置いてロバートの部屋に向かった。


「ロバート様、ただいま戻りました。アンリエットお嬢様は?」


「まだ眠ってる」


「そうですか...あの実はエリザベート様が...」


 セバスチャンは申し訳無さそうにエリザベートとの一件を報告した。


「そうか...エリザベート嬢なら構わない。連れて来てくれ」


「よろしいのですか!? その...エリザベート様は...」


「アンリエットはエリザベート嬢のことを親友だと嬉しそうに語っていたからな。側に居てくれたら安心することだろう」


「...分かりました」


 セバスチャンは馬車に戻るために部屋を出た。


「どうだった!?」


「どわぁっ!?」


 馬車に居ろと言っておいたはずのエリザベートが部屋の手前に来ていたのだ。


「お、驚かせないで下さいまし! 馬車に居て下さいとお願いしたでしょう!」


「男が細かいこと気にすんじゃないわよ! それで!? どうなのよ!?」


「...どうぞお入り下さい...」


 セバスチャンは色々と諦めた。

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