第62話 第三者視点3

「だ、誰だお前は!? な、なんでここに居る!?」


 クリフトファーに問い詰められたロバートが誰何する。それも当然で、引き籠っていたロバートは貴族の情報に疎い。


「ろ、ロバート様! こ、こちらはクリフトファー様です!」


 セバスチャンが慌てて補足する。公爵家の嫡男に失礼があってはならない。


「あぁ、あんたがアンリエットに求婚しているというクリフトファー様か」


「そうだ! 初めまして! それで!? アンリエットは何時頃この部屋を出たんだ!?」


「は、初めまして...そうだな...かれこれ30分は経ったと思うが...」


 クリフトファーの勢いに押されてぎこちなく挨拶を交わしながら、ちょっと考えた後にロバートはそう答えた。


「なんだと!? セバスチャン! アンリエットはアパートの玄関から出て来ては居ないんだな!?」


「は、はい! み、見ておりません!」


「ロバート殿! このアパートの非常口はどこだ!?」


「あ、あぁ、こっちだ。この部屋は5階だからな。非常階段が付いている」


 言いながらロバートは歩き出した。非常階段は階の端の方にあった。


「ここだ...なぁ、教えてくれないか!? アンリエットの身になにがあったんだ!?」


 非常階段に繋がるドアを開けながらロバートがクリフトファーに尋ねる。


「とち狂った女がアンリエットを狙っている可能性がある! 早く見付けないと!」


「な、なんだって!? そ、それは大変じゃないか!? ど、どうしてそんなことに!?」


 妹大好きなロバートが騒ぐが、それを無視してクリフトファーは膝を付いて非常階段を良く観察しながら、


「ここを通った形跡は無い! ホコリが積もったまま足跡も付いて無い!」


「ということは...」


「このアパートの中に居る可能性が高い! 部屋をしらみ潰しに当たる! アパートの大家はどこに居るんだ!?」


「アパートの隣に住んでいる。案内しよう」


 そう言ってロバートは先頭に立って歩き出した。



◇◇◇



 スカーレットに蹴り上げられたアンリエットは、一瞬息が止まって喘いだ。


「ハァ...ハァ...」


「あんたみたいな泥棒猫にクリフトファー様は相応しくないわ! 私のように真実の愛で結ばれた者こそがクリフトファー様に相応しいのよ!」


 恍惚とした表情を浮かべながら、そんな勝手なことをホザくスカーレットに、アンリエットは段々と腹が立って来た。


 幸い、足は縛り付けられていないので自由に動く。アンリエットは後ろ手に縛られた手を壁に押し付けながら、なんとか立ち上がった。まだ頭がズキズキと痛んで少しフラ付くが根性で耐える。


「笑わせてくれるわ。その真実の愛とやらは随分と安っぽいのね? じゃなきゃ他の男と駆け落ちなんかしないわよね?」


 挑発するようにアンリエットはそう言った。


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