第55話 クリフトファー視点
僕は女性不信に陥っていた。
婚約者を他のヤツに寝取られた憐れな男。そんなレッテルが貼られたような気がして滅入っていた。
もちろん公爵家としてそんな醜聞はご法度だから、婚約者を不慮の事故で亡くしたということにして悲劇の主人公を演じていたが、お悔やみを言われる度に心の中はささくれ立って行った。
公爵家を継ぐ者としては、いつまでも落ち込んでばかりでは居られない。新しいお相手を早く見付ける必要がある。
分かってはいるんだが、やはりまだすり寄って来る女どもを見ると嫌悪感しか湧いて来ない。
その日は我が家主宰の舞踏会が開催されていた。傷心の僕の心を射止めようと虎視眈々と狙って来る令嬢達を軽くあしらいながら、壁の方に避難した時だった。
壁の花になっていたある令嬢が、何故か扇子で顔を隠しながらそっと目薬を注しているのだ。
(あれは確か妹の友人のアンリエット嬢。どうしたんだ? 目の病気なのかな?)
気になってずっと見ていたら、全然違った。
「ううん、いいの。私に魅力が無いのがいけないのだから。ギルバートが他の娘に目移りしちゃうのも当然だわ。私さえ身を引けば...ヨヨヨ...」
泣き真似をしていた。しかもヨヨヨて。そんなことを口にする人を初めて見た。興味を惹かれた僕は、気が付けば彼女に声を掛けていた。
そしてダンスに誘った。女性とダンスを踊るのは随分久し振りだが、不思議なことに彼女とは息がピッタリ合った。
ダンスの最中、僕は泣き真似の真相を聞きたくなって彼女を質問攻めにした。観念したのか、彼女は全てを語ってくれた。
「なるほどねぇ。そんな面白いことになってたのかぁ」
「あ、あの、クリフトファー様...このことは誰にも言わないで頂けると助かります...」
そんな彼女を見ていたら、何故だろう? 僕も彼女になら全てを話しても良いんじゃないかと思ってしまった。
そして気が付けば、公爵家の醜聞たり得る事の顛末を全て話していた。今思えばずっと誰かに聞いて欲しかったのかも知れない。
全てを書き終えた後、彼女はこう言ったんだ。
「なんですかそれ...ハァッ...良く分からない理屈ですが、秘密だってことは理解しました。誰にも口外しませんからご安心を」
そう、まるで僕を窘めるように。悪戯を咎めるような優しい口調で。
僕はこの瞬間から彼女に恋したのかも知れない。
「アンリの次の作戦は?」
そして僕は彼女の共犯者? 協力者? になったのだった。
面白くなりそうだ。僕は期待に胸を膨らませた。
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