Dream pilot:06 理不尽の妄想
エレベータを降りたカスミに抱きかかえられたまま、わたしは夜の街を見渡した。
建ち並ぶ住宅街の向こう、影絵のように乱立するビルには、夜ならばあるべきはずの明かりがひとつも見当たらない。輝いているのは、白い光をしずかに放つ大きな満月だけだった。
わたしは満月を見上げなら、どうしてと考える。
どうして、猫なのに翼が生えてるんだろう。
どうして、夢使いはわたしの前に現れたのだろう。
どうして、こんな目に合わねばならないのだろう……。
どうしてどうして、と積み重ねてばかりいると理不尽が育っていく。
現状を変えたいと願いつつ、挑むことなく状況に流されている自分に気づく瞬間、なにかを初めようとしても「うまくいくわけがない」「みっともないことをするのはやめなさい」「笑いものになるだけだから」といった無意識の声が耳鳴りのように聞こえて動き出せず、さらに理不尽が募っていく。
世界を変えられる力を持っているのに、その力を使おうとしないから、わたしは翼の生えた猫になってしまったのだ。
行こうと思えば、走ることも泳ぐことも、空だって飛べる能力がある。にもかかわらず、考えることすらやめて眠り続ける猫とおなじ生き方をしてきたのではなかったか?
「この世界を出るには、夢先案内人の力を借りないとね」
腕の中にいるわたしに、カスミはつぶやいた。
「あなたを助けてくれるから」
夢先案内人って?
そう言ったつもりなのに、やはりかわいらしい猫の啼き声が口から出た。
「そう、夢先案内人。どんな姿をしているのか知らないんだけどね」
カスミはにこりと笑った。
言葉が通じるのだろうか。
わたしは試しに、どうすれば元の姿に戻れるのか、を聞いてみた。
「ん、お腹でもすいた?」
だ、駄目だ……。
猫の言葉を理解して、彼女はしゃべっていたわけではなかったのだ。
「まあ、我慢して。夢先案内人を探すまでの辛抱さ。この世界から抜け出すためには、ガイドをしているそいつから出口の場所を聞かないと出られないから」
どこにいるんですか?
通じないとわかっていながら、懲りずに聞いてみた。
「知ってたら苦労しないんだけど。なんせ手がかりはシンが教えてくれた、オーマ・マーヤって名前だけだから。シンっていうのは、わたしの友達で夢魔導師をしてるんだけど……っていっても、わかんないよね」
あはは、とカスミはちいさく笑う。
ううん、ちがうの。
わたしは首を横に振った。
「まさか、シンを知ってる?」
ちがうちがう。
わたしは続けて首を横に振った。
彼女が告げた夢先案内人の名前に、わたしは聞きおぼえがあった。
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