Mythosland:05 恋のキューピッド
教室に戻ると机にうつぶしているトモローに近寄り「起きてる?」わたしは声をかけた。
「うん」トモローは応えた。「ここしばらく原稿書いたり推敲や手直しやらで睡眠時間削ってるから、昼休みはお昼寝タイムなんだ」
目をこすりながらゆっくり顔をあげる。頬にしわができていた。歓迎祭で全校生徒に披露する劇の原稿を彼が書いていた。幼稚園から高等部まで出席するのだから責任重大。下手なものは書けない。
「悪いね、起こしちゃって」
「いいけど、何か用?」
「部活が終わったら、一緒に帰ろ。三人で?」
わたしはしゃがんで彼の顔を見上げた。
「いいよ」彼は視線をわたしから外し、「でも栗木部長との話あるから、遅くなるかも。キョウちゃんは会議?」また目を合わせてきた。
「まあね。毎年同じなんだから、会議なんかやらなくていいのに」
エスカレーター式の学校では周りの顔も代わり映えしない。どの子がしっかりしていて、頭がよくて、責任感があり、リーダー的か、ランク分けができている。クラス委員は決める前から結果がでているのだ。編入してきた子たちがここに食い込むのは難しい。よほど個性豊かなキャラクターか、独創的で実力のある人でなければ入り込む余地はない。クラス委員を毎年やらされる身としては、彼らに同情する。だがしかし、やりたくないと言うためには学校に通えなくなるほどの病気やけがをするしかないのだ。
「た、大変やね」
「そうよまったく、嫌になる。みんなから期待されるのは気持ちいいけど、自分は関係ありませんって感じで、いざってときは非協力的。わたしだって何もかも捨てて逃げ出したくなるときがあるって。わかる? みんなの代表なのに実はクラスのペットだって事に気づかされるあの瞬間、遠巻きにわたしを見る目とさりげなく声をかける『大変だね』『がんばってね』っていうあの言葉。がんばってという言葉はね、甘えなのよ。甘え。わかる? 『うちらには関係ないことなんで、同じ苦しみを味わいたくないの、せいぜいがんばってちょうだいね』って鼻で笑って陰できっと馬鹿にしてるのよ。あーっ、むかつく」
気がつくと、トモローに愚痴っていた。
こんなとき決まって彼は黙って聞いてくれる。
嫌な顔せず、時々うなずきながら。
「大変だね、でもキョウちゃんががんばってくれてるから行事とか、とどこおりなくできるんだと思うよ。ぼくは、がんばってるのを知ってる。だから、無理だけはしないでね」
こんなとき、自分をわかってくれる人が側にいるありがたさ。救われるというのだろう。これで頭をやさしく撫でられたらわたしは猫あつかいかな。
「ありがと。トモローは大丈夫? 大変でしょ、特に今は」
「今はね。でも今だけだから、大丈夫。心配してくれてありがとう」
トモローは笑った。
わたしも笑った。
笑いながら、カコがどうして彼のことを好きになったか、何となくわかった。
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