第39話 愛ですよ!
「……驚いたぜ」
神様驚く。
「俺の方がビビってるよ」
和也だって負けじと驚いた。
彼らが驚いていた原因は、何を隠そう邪なる瞳の王にある。
彼女は和也の持つ魔王の能力により、見事復活を遂げた。
心臓が止まり、脳が機能を停止し、それどころか骨の髄までコンガリウェルダンに焼き上げられた彼女は、駄目元で力を使った和也がドン引きするまでに完璧な復活を遂げたのだ、遂げちゃったのだ。
どのくらい完璧かというと。
まず体長が3mくらいになった。
それだけじゃないぜ。
全身から灰色の羽毛が突き出る様に生えて、背中からはその羽毛を無理矢理蝋で固めたような歪な翼が形成された。
異形要素が角と黄金の瞳くらいだった邪なる瞳の王は、歪な鳥類を想起させるニューフォルムへと進化を遂げたのだ。
遂げちゃったのだ。
随分異形指数が上がったが、和也的にはまだまだいける。
何がとは言わないが。
「どうするだこれ。俺は知らねぇぜ」
「いやいや俺だって! まさかこんなパーフェクトフォルムに進化するとか思わねえじゃんか! 」
朱禍獣命がつーーーん、と知らねって顔をしてそっぽ向いた。
口しか顔のパーツが無いのに、よく表現出来たものだ。
和也らが騒いでいると、復活した邪なる瞳の王が目を覚ます。
眠そうに瞬きを繰り返した後、辺りを見渡し、自分を見て、黄金の瞳を真ん丸にする。
「こ、れは? なんだ、僕は死んだはず」
状況を理解し切れず、大きくなった身体でオロオロと狼狽する姿は少し可愛らしい。
「よぉ、起きたな」
「和也!? ぶ、ぶじで」
「無事な訳ないだろ」
言い切って、邪なる瞳の王に詰め寄った。
かなり体格差があるが、和也が詰め寄ると雛の様に縮こまって怯えてしまう。
「邪なる瞳の王。俺の記憶を元に戻すんだ、誤魔化すなんてしたら怒るぞ」
めってするぞ、と拳を振り上げて威嚇する。
その仕草だけで、邪なる瞳の王は更に小さくなって、うんうんと激しく頷いた。
「よし、さっさとやってくれよ。そんでその後におれれれれれれれれれれれれ」
「うおっ、バクったのか」
ズブリ、と邪なる瞳の王の指先が和也の額に沈み込む。
脳を弄り倒された分復元には弄る箇所も多い、数分間にも及ぶ脳みそハッキングの末にようやく和也は解放された。
「……」
取り戻した、正確には思い出した記憶が脳内を駆け巡った。
城から拉致された事、洞窟に連れ込まれて目を抉られた事、その後手や足やら耳やら舌やらを切断した事。
記憶を弄り、感情を操作した事。
和也はその場に嘔吐する。
「か、和也大丈夫かい? 」
顔を寄せた邪なる瞳の王。
待ってましたとばかりに、和也はその顔面を思いっきり殴った。
グーだ、容赦なんてない。
しかし硬い。
元々の肉体も強いが、和也により超強化された身体は和也のひ弱な拳なんて無かったかのように弾き飛ばす。
全く効いていないはずのパンチを受けて、邪なる瞳の王は涙を零して顔を伏せた。
「お前馬鹿じゃないの!!?? なんでこんな事しちゃうんだ! 好きな子にイタズラするってレベルじゃねえぞ! 」
お前って奴は! と和也はとにかく怒って叱って殴って、泣いた。
1時間以上にも及ぶ説教を終えた頃には、邪なる瞳の王は目を赤く泣き腫らして大きな体をなるべく小さくして震えているしか出来ないようになっていた。
「はぁ……はぁ……分かったか! 」
「うん、うん……ごめん、ごめん」
溜息をついて、和也は放置していた神様に向き直る。
「よし、じゃあこの事態なんとかしなさい。多分、今の君なら出来るでしょう」
邪なる瞳の王は鼻をすすりながら和也と朱禍獣命の間に進み出ようとして、止められる。
「おいおいおい、なんの茶番だよ。見てられねぇぜ」
「はあ? もう丸く収まりそうになってるんだから大人しくしてて下さいよ」
神様は口をへの字に曲げて、不機嫌そうに邪なる瞳の王を指差す。
「馬鹿言うなよ、なんで収まるんだ? こいつに何されたか思い出したんだろ、なんで説教して謝ったら許してやるんだ」
「言っとくけど許した訳じゃない。と言うか多分一生許さねえよ……おい! 君が人間を虐めてたのって何年くらい? 」
きゅっ、と邪なる瞳の王が頭を身体に埋めて震える。
骨格がどうなってるかはまるで不明だが、キモかわいい。
「……1000年くらい」
「長……じゃあ2000年人の為に尽くせ」
「お、おいおい! そんな、単純な話ぎゃないだろ! それで終わらすのかって聞いてんだ! 」
丸く収まりそうな雰囲気を察知して朱禍獣命がまたツッコミを入れた。
せっかく顕現出来たんだ、完全に受肉したいと思うのは当然だろう。
「なあ、和也。長い付き合いだ、お前の事はよく分かる。こいつが憎いだろ、俺とお前ならこいつに復讐出来るぜ。そうだ、同じ事してやればいい、手足と目鼻口耳を削いで1000年苦しめてやればいい」
「急に早口になるじゃんおもしろ」
「和也ァ! 俺はマジで言ってんだぜ! お前はそんな出来た人間じゃねえ、復讐する権利も力もあるならする人間だろう! 」
事実、進藤和也はそれ程出来た人間じゃない。
ムカついたら怒るし、悲しかったら無く普通の人間だ。
むしろ子どもっぽい分、感情で動くので悪い人間に分類されてしまうかもしれない。
でもそれは、此処に来るまでの話だ。
生まれてから何十年も幽閉されて、学校にも行かず友達も居ない。
話し相手は妹の愛歌くらいで、擦れた価値観を持ち始めていた和也なら嬉々として復讐に勤しんだだろう。
「神様……俺、好きな奴が出来たんです。そいつも、この悪魔に負けないくらい馬鹿で拗れた奴なんですけど……」
「はぁ? 」
「そいつを叱る時に、ちゃんとした良い人でありたい。難しい話は止めましょうよ、俺、実はこいつも結構好きなんです」
朱禍獣命は押し黙り、腕を組んだ。
言い返す事はないらしい。
「和也、お前の思ってる以上にお前の周りはややこしくなってる。不安の種は早めに取り除いた方が良い……俺を鎮めれば済む問題じゃなくなってるんだぜ、これはマジでガチの……忠告だ」
最後に少し、和也の気のせいかもしれないが本当に少し、真面目な雰囲気を出して神様が言う。
「その時はその時ですね」
「もう知らねえぜ! 勝手にしろ! 」
「あざーす! てな訳で、上手いこと頼むぞ邪なる瞳ののののののののののののの」
「うおびっくりした! やるなら言え! 」
ズブリ、と邪なる瞳の王の指先が再度和也の額に沈められた。
あっあっ、と和也は恍惚そうな顔をしているが、対照的に邪なる瞳の王の表情は優れない。
「色々と絡んで面倒臭い事になってるだろ。俺は知らねえぜ、俺はやってねえ」
「関係無いね。和也がやれって言ったんだ、やってみせる……さ」
愛だねえ、なんてしみじみと呟いて神様は己の真っ黒な手を見詰める。
「見事なもんだ、俺がまた和也の中に収まりつつある。でもな、さっきも言ったがこれで終わらないぜ」
「上等だよ。そうなれば、僕は命を賭して彼を助ける」
「馬鹿な奴だ、なんでそうまでする。悪魔だっけ、お前らの種族からすれば人間なんて玩具だろう」
朱禍獣命の調整も大詰めに入る。
滝のような汗を流しながら、邪なる瞳の王は一切のミスをせず、速度を緩めず和也の脳を調整していく。
「愛だよ、君だってさっきそう言ったじゃないか」
なんで好きになったかは邪なる瞳の王自身にも、和也にも分からない。
愛ってそういうもんじゃない?
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