こっくりちゃん
炎天下の昼休み、相変わらずのクソ暑苦しい部室の不快指数を更に高めているのが稲荷寿司を仲良く頬張っているロリケモノ三人娘だ。
「うむうむ! やはりあの
長い銀髪から伸びる黄金色のとんがり耳にもふもふ尻尾、真紅の瞳を持つ巫女服の幼女が自称神の使いの稲荷狐の
「うん! 美味しいね。コマちゃん、くろちゃん」
栗色のおさげから覗く茶色の丸い耳にふさふさ尻尾、金色の瞳を持つ浴衣の幼女が化け狸の
「にゃふにゃふ」
黒髪のショートカットから生える真っ黒な三角耳に細長い尻尾、翡翠の瞳を持つワンピースの幼女が黒猫のくろ。
こうして大人しく三人並んで両手に余る稲荷寿司を機嫌良く食べている姿は、まぁ、絵本に出てくるどうぶつ幼稚園みたいで可愛いとも言えなくもないが、その本性は極悪妖怪そのものである。
「馳走になったの」
「ごちそうさまです」
「にゃーん」
「はいはい。それは良うござんした」
三人が食べている間に家から持ってきた弁当を食べ終え、遠山からもらった稲荷寿司に手を伸ばす。
これはコマリが言ったとおり、絶妙のバランスで甘辛く煮られたお揚げはジューシーであり、中に詰められている酢飯の塩梅と香ばしい胡麻の香りが絶妙にマッチする逸品で、そのへんのコンビニやスーパーで買うものよりも遥かに美味しいのは認めざるを得ない。
「たしかに美味いな。この稲荷寿司」
「そうなの! 美味しいの!」
「にゃすにゃす」
そう言って顔を上げると、リリは目を輝かせて、くろはジトッと睨み、二つ目に手を伸ばそうとする俺を見つめてきて手が止まる。
正直こいつらに恵んでやる義理なんてなにもないし、残りの二つも美味しくいただきたいところだけど、あとで協力してもらわなきゃいけないこともあるし仕方がない。
「……ほら、やるよ」
「お兄ちゃんありがとうなの!」
「にゃ!」
「感謝しろよ」
コマリはそんな俺たちを愉快気に眺めているだけだ。そういえばこいつは噂を聞いた女子たちが持ってきた稲荷寿司を食べてるんだったか。
そうして昼飯を早々に終えて、偽装工作の準備も整え、後はこいつらに協力を仰ぐだけだが……
あれ? いないな。
振り向いてみるとさっきまでそこにいたはずの三人の姿は消えて以前の誰もいない平和な部室がしんと静まり返っているだけだ。
どこ行ったんだよあいつら。
腹ごしらえも済んで大人しくしてるのかと思いきや、肝心な時になると途端にいなくなる。静かに勉強したい時や集中して作業してる時なんかは必ずというほど邪魔してくるのに。
「おーい、コマリー、リリー、くろー」
と呼んでも大人しく言うことを聞くような奴らではない。
……が、俺に取り憑いていることを利用して呼び出す方法はある。
どういう方法でどうやって思い付いたかはいたって単純で、要はひとりこっくりさんをやって奴らが自称する「こっくりちゃん」を呼び出せば良いという、それだけだ。
普段出てきて欲しい場面はないんだけど、悪戯に文句を言ったり注意したりする時とかにはたまに使っている。
というわけで、例の紙を机の上に広げて十円玉を鳥居に置いて指を乗せて……
「こっくりちゃん、こっくりちゃん、おいでください」
と唱えた途端に、生暖かい風が吹いてきて鳥居と十円玉の隙間から墨が滲むように闇が広がり、背筋に悪寒が走る感覚と共に幽世への扉が開く。そして――
「ふあぁ、なんじゃ? 良い気持ちで昼寝しておったというに」
「んん、お兄ちゃん? むにゃむにゃ、まだおねむなのー」
「すやぁ……」
教室を満たす闇が鳥居に吸い込まれ、部室の床に川の字になって寝てるロリケモノ三人娘が残された。
どうぶつ幼稚園かな?
「ほら、昨日言ってたお前らがやらかした事件を誤魔化すのにお前らの協力が要るから、とりあえず起きろ」
と口にした瞬間、三人が不機嫌そうに目を光らせて俺を睨んでくる。
いったいどうしろって言うんだよ……
その後、稲荷寿司の恩を着せたりご機嫌を取ったりして協力を得て目的を達成した時には昼休空けの予鈴が鳴り響いた。
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