新・学園の六不思議
担任のしょうもない話を聞き流し、委員長の号令で起立・礼をし終わって、クラスで一番のお調子者の陽キャが大声で「ありがとうございました!」と言うと教室が一気に騒がしくなる。ちっともありがたくねーよと思いながら刑期八時間を終えた解放感に伸びをして椅子に座り直してバッグに教科書類を流し込んでいると、「やっほー」と遠山がやってきて、白くてむちむちの太ももをアピールするように俺の机に腰を下ろした。
うっとおしいから校則ギリギリを攻めずに大人しくひざ丈のスカートを履けよと心の中で文句を言う。そういうことを口にするとクラスのほとんどの男子と一部の女子を敵に回しかねないので見ない振りして黙っているのが一番だ。
「……今度は何?」
「むっ、何よその態度ー せっかくお昼のお礼をしにきたってのにぃ」
「あー、お礼とか別によかったのに。大したことじゃないし」
元々があの傍若無人のロリケモノ妖怪三人娘のせいだしな。
「まぁま、そう言わずに。私がオカケンのために情報集めてきてあげたんだから。ありがたく聞きなさいよ」
「は? 情報?」
「うん、お昼休憩中に聞いたお稲荷さんの話をみんなにしたらさー なんか夏休み明けてからそういう変な怪奇現象的なヤツが多発してるみたいでそういう話がいっぱい集まってねー もうすぐ学祭だし、オカ研的にそういうのネタになるっしょ」
「夏休み明けから……」
「そ。夏休み明けから」
嫌な予感しかしね―な!
「……うん、聞かせてくれる?」
「おっ、なんかよくわかんないけど聞く気になったじゃん。んーと、それじゃ、何から話そうかな?」
「は? そんなに何個もあんの?」
「これだけで七不思議が作れるかもかも」
奴等め……
そんな俺の気持ちはつゆ知らず、きししと悪戯っぽく笑い首を左右に傾げる遠山はスマホをポケットから出して楽しそうに操作しだす。
「うん、じゃあまずはお稲荷さんの話からしよっか?」
「それなら解決しただろ?」
「それがさー、その話を拡散したら、みんな幸運のお守りになるならこの葉っぱ欲しいって言い出しちゃってねー それで、お稲荷さんをお弁当に詰めとけば代わりに貰えるかもよって返したら、それがプチバズっちゃって。みんな明日お弁当に稲荷寿司入れてくるって張り切ってるよ」
「……そうか、そりゃ裏の社のお稲荷さまも大喜びだな」
「だからまた明日お稲荷さん消失事件が起きたら報告するね」
「あー、うん、ありがとう」
別にありがたくもねーし報告とかもいらないけど。
てか
「それじゃ、次の話なんだけど、学食の入り口のところに狸の置物あるっしょ。陶器でできたでっかいたんたんタヌキの奴」
「たんたんタヌキの金玉の奴ね」
「そこまで言うなし。んで、そのたんたんタヌキが夏休み明けたらフンドシ履いてたんだって。赤いの。動かしたような痕跡もなくて、学食のおばちゃん達も誰がやったか知らないらしいし、第一にあんなでっかくて重いタヌキに痕跡も残さずフンドシを履かせることができるのか?って話になって……」
「なるほど、それが不思議ってわけか」
うん、たぶん
「じゃ次、最近廊下や階段歩いてたらよく黒猫の影みたいなのが横切るって話。最初は私も野良猫ちゃんが学校に入り込んでるだけなのかと思ったんだけど、目撃証言が多いわりに実際に猫を見たって子が居なくて。何人かの猫好きの子はあたりを探し回ってみたそうなんだけど、誰も見つけられなかったんだって」
「実態のない黒猫の影ねぇ……」
絶対
「あとは、部活休みで使ってないはずの音楽室からピアノの音がして童謡を歌ってる声が聴こえるって話。窓からこっそり覗いてみたけど中に誰も居なくて、それを見た子は慌てて逃げて何事もなかったんだけど、それからは音楽室に近づくのも怖がっちゃって」
「確かにそれは不気味だな」
「それとは別に、放課後の校舎裏で女の子たちが鞠つきで遊ぶ笑い声が聴こえるって話もあるね」
「うーん……」
うん、奴らの仕業だな。
ってか、やりたい放題じゃねーか!
「最後にもう一つ、逆こっくりさんの話」
「ん? 逆?」
今まで明らかにロリケモノ妖怪三人娘の悪戯だったが、唐突に放り込まれたその言葉に想像力が及ばず、はっと顔を上げて言葉の主である遠山を見上げる。
「そ、逆。逆こっくりさん。 ……なんかオカケン、今まであんま興味なさそうだったのに、唐突に真剣になったね」
机の上に座る遠山は足を組み直し、俺を見下ろしてにやりと笑う。
「今の、カッコよかった。オカケンのくせに」
「良いから聞かせろ」
「はいはい、それじゃ話すよ。逆こっくりさんっていうのはね……」
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