第4話 ドラゴン

 右手からバチバチとスパークが起こる。




 カイトはニヤリと不敵に笑い、ひょいと屋根の上からドラゴンに向かって飛び降りた。空中でブーツ型のロスト ”歩み続けるモノ” を起動。




 ブーツのかかと部分につけられた排出口から多量の空気が吐き出され推進力を生む。その力を利用して空中を進み、ドラゴンの背中に着地したカイトは身軽な動きで背中を駆け抜けるとその頭頂部を右手の義手で鷲づかみにした。




「コレは挨拶代わりだ、受け取りな!」




 そして右肩にあるつまみをグリグリと動かした。




 右手から激しく電気が流れ出す。それはドラゴンの金属製の装甲を伝って全身に流れる・・・しかし。




「・・・・・・やっぱ届かねえか」




 カイトは無念そうに呟くと何事も無かったかのように暴れ出したドラゴンの背から飛び降りた。




 これだけの大型の機械獣だ。きっとその装甲も分厚いのだろう。表面から電気を流したくらいでは動力部に全く影響が出ない程に・・・。




「っと、やべぇ!!」




 暴れ出したドラゴンの巨大な前足がカイトめがけて振り下ろされる。




 数十トンもの重さの乗ったその一撃をまともに受けようものなら人間なんて一瞬でミンチに変わってしまうだろう。




 かかとを地面に打ち鳴らして ”歩み続けるモノ”を起動。




 ふわりと飛び上がってドラゴンの一撃を回避するとそのまま逃げるように走り出した。当然のようにカイトを追ってくるドラゴンを肩越しに一瞥してニヤリと笑うカイト。




 廃墟の入り口から外に出るとくるりと身体を反転させて懐から鉄球のような見た目をしたロストを取り出す。




 ”破壊の黒球”と呼ばれるそのロストをまだ中にドラゴンのいる廃墟の壁に向かって投げつける。




 ボロボロの壁に衝突したソレはその衝撃で内部の装置が起動。球から発生した衝撃波が風化した廃墟全体に伝わり、一瞬の静寂の後廃墟は一気に崩壊を始める。




 大きな音を立てて崩れ落ちる廃墟を油断の無い鋭い視線で見つめるカイト。




 中にいたドラゴンは当然崩壊の波に押しつぶされた事だろう。これで終わってくれれば上場、しかしそんなに上手くいくはずが無いとハンターとしての経験が告げていた。




 廃墟の崩壊が収まり、シンと夜闇に静寂が訪れる。




 一秒、二秒。




 緊張の中ゆっくりと額から冷や汗が伝い落ちるのを感じながらカイトはソレを待った。




「ギュルァアアア!!」




 咆哮。




 金属をこすり合わせたかのような非生物的な音を立てて瓦礫の山からドラゴンが姿を表した。




 装甲に多少のダメージは与えられたようだが、それでも動力部は無事だったらしい。瓦礫の衝突で変形したそのフォルムが以前のその姿よりグロテスクで、見るモノをより一層畏怖させるような見た目になっている。




 確かに仕留めきれなかった。




 しかし、カイトも無駄にわざわざこの場所まで移動した訳では無いのだ。




「カイト、どいて!」




 背後から聞こえるカナミの声。カイトは横っ飛びでその場から回避すると、連続する発砲音と供に先ほどまでカイトが立っている場所を無数の弾丸が通り過ぎていくのだった。






















「アーハッハッハ!! 気ん持ちいぃ!!」




 カナミが軽快な笑い声を上げながら派手に銃弾をばらまいている銃は、いわゆるガトリング砲と呼ばれる原始的な機関銃であった。




 多数の銃身を円形に並べ、外付けの人力クランクを回転させる事で給弾・装填・発射・排莢のサイクルを連続的に行う仕組み。




 人類の持っていた多くの技術を失った現代だが、生き残った人間の涙ぐましい技術によって拙いながらもいくつかの技術を復活させる事に成功している。




 この原始的なガトリング砲も、そんな努力の結果再生された技術の一つなのだ。




 確かに ”ロスト”に分類されている銃器と比べると不便な点が多い銃ではある。しかし、一人では運べぬ重量の本体と連続して打ち出される大型の銃弾の威力は侮って良い代物では無い。




 銃マニアのカナミにとって様々な銃をぶっ放す事は快感であり、今まで欲しくても手に入らなかった機関銃(大分原始的なモノとはいえ)を思う存分打ちまくれるこの状況は最高以外の形容詞が見つからなかった。




 豪快な音を立てながら一定の間隔で弾が打ち出され、空薬莢が排出されてゆく・・・その全ての弾が打ち尽くされた時には対象のドラゴンの周囲は土煙で何も見えなくなっていた。




「ふふふ、これならドラゴンでもひとたまりも無いでしょう!」




 満足げに胸を反らすカナミを、カイトは若干引いた眼で見つめた。




「・・・お前、前の仕事の時は俺にやり過ぎるなとか言ってなかった?」




「前は小型の機械獣だったしね。ドラゴン相手に手加減してたらこっちが死んじゃうでしょ?」




 シレッとそんな事を言うカナミだったが、カイトは先ほどのドラックでもキメたかのように奇声を発しながらガトリングを乱射していた姿を見ているので説得力など皆無だった。




 そんな時、土煙の向こう側から何か思いモノが地面を踏みしめるような音が聞こえる。




「・・・・・・え?」




 一筋の風が吹き、視界を遮っていた土煙が吹き飛ばされた。




 ガトリング砲の集中乱射を受けその見事な装甲は見るも無惨にボコボコとへこみ、場所によっては装甲が剥がれ落ちているモノもあった。




 しかしドラゴンは立っていた。




 ボロボロになった身体、しかしその立ち姿は堂々たるモノである。機械であるその獣にこんな言葉を使うのはどうかと思うのだが、月明かりに照らされたその巨体は何か神聖な雰囲気を醸し出している。




「ギュルォオ!!」




 咆哮。




 大気をビリビリと振るわせる。




 金属同士をこすり合わせたような耳障りな音が大音量で響き渡り、その迫力にカイトとカナミは一歩後ずさった。




「・・・なんで無事なんだよ?」




「・・・・・・知らないわよ、アイツに直接聞いたら?」




「いやいやいや、無茶言わないで下さいよカナミさん。どう見てもあの方激オコだよね? 下手しなくても今から殺しにくる勢いだよね!?」




「・・・・・・土下座したら許してくれるかしら?」




「それは良い考えだ。お前が土下座している間に俺は逃げさせてもらおう」




 恐怖のあまり軽口を叩きまくっている二人に、ドラゴンがもの凄い勢いで突進してきた。「「ギャァアアア!!」」




 二人は同時に叫び声をあげて脱兎のごとく逃げ出した。




 地獄のチェイスが、始まる。








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