ギャルゲー主人公の義妹もわたしを好きだと言っています。これは両思いですね

二葉ベス

第1章 ガチ恋社畜勢が告白するまで

第1話:起きたらヒロインになってた

 意識が薄れていく。どうして。何故。

 理由は分かっている。


 社畜生活のつかの間の休日。

 以前から気になっていたギャルゲー『花の芽ふーふー』をプレイするべく、エナジードリンクをアホほど飲んで、画面の前に座り込む。

 コントローラーを手に取り、いざ!

 というときに限って、やってくるのは眠気なのだ。


「……ふあああぁ…………ねむ……」


 意識が薄れていく。嫌だ。寝たくない。

 惰眠をむさぼる休日はもったいない。


 こっくり、こっくり。

 時を刻む頭を無理やり起こして、何週目かのOPを目に入れる。

 ヒロインは二人。桃色の髪をしたお姉さんと、そして……。


「あぁ……幸芽ちゃんかわいいなぁ」


 かの愛しのエンジェル。夜桜幸芽。

 あの日、あの声を聴いて以来、ずーーーーーっとやりたかったこのゲームを、まぶたを擦りながらプレイする罪を神に懺悔する。

 本当なら眠くないときにやるべきなのだろうけど、眠くない日がないので、こうして徹夜を強行しているわけだ。


 眠い。眠たくない。眠すぎる。


 こくりこくりと秒針を刻んだ眠気は、ついに夢の中へと落ちていくのであった。


 ◇


 夢。将来の夢?

 Not.

 それはベッドの中の夢。


 眠るときに見る夢は、どうしてこうも自己投影型なのが多いのだろうか。

 例えば、何かを食べている夢。

 例えば、走る夢。

 例えば、誰かに恋をする夢。


『わたし、幸芽ちゃんが好き!』


 はえ?! 誰よこの女!

 わたしの幸芽ちゃんに告白しようだなんて、百億年早いんだよ!


 って、視点を改めて見れば、それはわたしから発した言葉だった。

 え? いいの?! 目の前にいるの幸芽ちゃんだよね!?

 あー、まさか幸芽ちゃんに告白する夢だなんて。まぁでも、わたしなんかの言葉なんてYESと言うわけが……。


『……いいですよ』

『へ?!』


 思わず声が出てしまった。

 夕日が沈む青空。オレンジ色に染まる屋上と、彼女の顔。

 照れているのか、それとも太陽に照らされているのか。紅色に染まる彼女の頬をどう読み取るべきか。


 それでも。これは夢の中なのだ。だから何をしたって許される。

 意識のわたしと夢のわたしの身体が同期する。

 これからは何をしたって許される。これからわたしが何をしようと勝手だ。

 だからわたしは小さくて可愛らしい両肩に手を添える。


『幸芽ちゃん……』


 っかー! このシチュいいなぁ!

 幸芽ちゃんの夢女子やっててよかったー! こういうのがあるから夢はたまらないんだ!


『……いいですよ、姉さん』


 姉さんだってー! 話には聞いていたけれど、まさか幼馴染のヒロインの呼び方で呼んでくれるとは!

 わずかに視界に入る桃色の線を視界に入れる。

 わたしの髪の毛ってこんなんじゃなかったけれど、そんな些細なことなんてどうでもいい!

 唇のその先を期待しながら、その可憐な顔にそっと顔を寄せる。

 一センチ。また一センチと顔を近づければ、吐息がかかる距離に。

 かわいい。抱きしめたい。目を閉じて震える唇を勇気で必死にこらえたそんな顔がとても!


 わたしも目を閉じて。そして……。


「……う、うんん…………」


 目が覚めるのが定番なのだ。

 それでも定番ではないのは目の前の景色だった。

 締め切って暗かった部屋の中はまるで昼間のように明るい。

 その割には遮られた白いカーテンが三方向を囲んでいて。

 それからわたしが眠る白いベッド。ギシギシと音を鳴らして、起き上がる。


「……見知らぬ場所だ」


 とあるアニメの主人公が言ったようなことを、わたしが本当に口にするとは思ってもみなかった。

 あれ、わたしギャルゲーやろうとして寝落ちしたんじゃなかったっけ?

 その割には綺麗な場所にいる気が……。


 その時だった。カーテンがシャーっとレールを流れる。

 思わずその音にびっくりして声を上げるが、それを気遣ってか男の子がわたしに声をかけた。


「花奈、びっくりさせてごめんな」


 花奈? わたしの名前はそんなのじゃなかったけど。

 ハテナを浮かべながら、その顔を見る。


「おい、目を覚ましたぞ!」

「本当ですか?!」


 混乱している中、わたしの耳に入ってきたのは愛しの声。

 何度も何度も何度も。聞いたその声は、わたしを支えてくれた、わたしがガチ恋している女の子。


「姉さん、大丈夫ですか?」

「……幸芽、ちゃん?」


 花奈、姉さん。そして幸芽ちゃん。この三つがたどり着く結論は未だに見えないけれど、唯一分かることがあるとすれば、それは……。


「……えっと、わたし。どうなったんだっけ?」

「覚えてないのか?! 頭にサッカーボールがぶつかって気を失ってたんだぞ!」

「あの時はヒヤッとしましたね」


 必死に考える頭で思考をぐるぐる回転させる。

 うつむいた際に、ふと視界の端に桃色の細い髪の毛が目に入る。

 そういえば、夢の中でもピンク色の髪の毛をしてたっけ。


 ……ひょっとして。


「誰か鏡持ってる?」

「あ、スマホなら」


 幸芽ちゃんがカメラモードを起動して、わたしの方に画面を向ける。

 そうしてようやく理解した。わたしを花奈と呼ぶ理由を。姉さんと呼ぶ訳を。


「これ、わたし……?」


 明るい色のピンク髪。目はたれ目の赤目で、雰囲気はお姉さんと言ってもいいだろう。

 そうだ。わたしはこんなお綺麗な見た目をしていない。

 それに、この見た目。どっからどう見ても。


「花奈、大丈夫か?」

「えっ? い、いや。あはは。大丈夫だよ!」


 『花の芽ふーふー』に登場するメインヒロイン、清木花奈その人なのだから。

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