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近所の親戚のおうちに遊びに行ったり、子どもたちと魔物たちで辺りを散歩することもありました。午後の暑い時間は、客間に寝っ転がって過ごします。昼寝をしたり本を読んだりするのです。
夜には花火もしました。星がきれいに出ていて、お父さんが星座をいくつか教えてくれました。宇宙の話もしてくれました。宇宙は広くて途方もなくて、謎と不思議がいっぱいで、ルルちゃんはめまいがするような気持ちになりました。
月日が過ぎていきます。帰る日も近づいてきます。ついに、明日が帰る日となりました。ルルちゃんは悲しくなります。
そのことをカイに言いました。カイはあっけらかんとルルちゃんに言います。
「ここは近いからいつでも来れるよ。それに夏がいいなら、また来年の夏に来ればいいじゃん」
そうです! まさにその通りです! ルルちゃんはたちまち元気を取り戻しました。
ちょうど、魔物たちだけで客間にいたときでした。ルルちゃんはその話をゴエモンとルベライトにしました。そして言いました。
「だからね、また来年の夏に会おうね」
「あら、それは無理なのよ」
あっさりとルベライトは言いました。「わたくしは来年の夏にはもうこの世界にはいないの。カリンはこの秋に18歳になるのよ。わたくし、魔界に帰らなくては」
ルルちゃんはだまりました。ゴエモンもだまりました。二匹の表情はくもりましたが、ルベライトだけはなにも変わりませんでした。いつものように、涼やかな顔をしていました。
「また魔界で会いましょうね」
ルベライトは二匹に言いました。
その日の夕方、ルルちゃんはおばあさんと一緒に居間にいました。夕ごはんのしたくはほとんどすんでいて、でも食べるのには少し早い、という時間でした。ほかの人びとはそれぞれの場所で、本を読んだりスマホを見たりおしゃべりしたりしているのでしょう。
夏なので日が暮れるのが遅く、まだあまり暗くはありませんでした。お日さまは、沈む前に力いっぱいという風に、あたりをぎらぎらと照らしていました。けれども少しすれば夕闇がやってきます。光りが弱まり、暑さがやわらぎ、山から冷たい風が吹いてくるでしょう。
ルルちゃんはおばあさんに、今日までの楽しかった出来事を一生懸命話していました。そして、来年もまた来るね、と言いました。
でも――。ルルちゃんはルベライトのことを思い出しました。ルベライトはいないのです。そのことを、ルルちゃんはおばあさんに打ち明けたいような気持ちになりましたが、けれども上手く話せないような気もしました。どう言ってよいのか、わからないのです。
「――でも……。今年の夏はもうおしまいなの」
ルルちゃんはつぶやきました。来年の夏は、また違う夏です。ルベライトのいない夏です。カリンちゃんはいるでしょうが、おばあさんの家に来るでしょうか。
おばあさんは言いました。
「そうね。今年の夏は一度きりよ。なんでもそうなの。時間は止まることも戻ることも繰り返すこともないから。すべては一度だけ」
「うん」
「この瞬間だって、たった一度だけ」
本当に、そうでした。夏の日の終わりに、おばあさんとこうして話しているこの時間も、ただ一度だけのものなのです。二度と同じ場面はやってこないのです。
ルルちゃんは今この瞬間を切り取って、かためて閉じ込めてしまいたいと思いました。でもそれは無理なことです。それならば精一杯、自分のからだの中に取り込んでおきたい、と思いました。
魔界に帰っても、そのかけらが、からだの中に残っているように。
――――
次の日になりました。みんなはおばあさんにお礼を言って、家を後にします。ルルちゃんは来たときと同じように、リュックとぼうし姿です。駅までの道を、みんなでてくてく歩きます。
カリンちゃんたちは、ルルちゃんたちと反対方向の電車に乗ります。駅に着き改札を出て、ルベライトがルルちゃんとゴエモンに言いました。
「ごきげんよう」
ゴエモンは短く「ああ」と言いました。ルルちゃんは迷いました。最初のときと同じように、やっぱりなんと返せばいいのかよくわかりません。迷ったすえにおじぎとともに言いました。
「ごきげんよう」
カリンちゃんが明るく、「またねー」と言います。みんなも明るくお別れしました。カリンちゃんたちが背を向けて、ホームへと向かいます。ルルちゃんたちもまた背を向けて、別のホームへと向かいました。
――――
楽しい夏休みのお話はこれでおしまいです。次は秋のお話になります。
この話は「ぼくのまもの」というタイトルなのですが、そのわりには「ぼく」の出番が、そう、カイの出番が少ないですね。ですので、次の話は、少しカイの出番を増やすつもりです。
カイのお友だちも出てきます。さて、どんな子でしょうか。次回もお楽しみに。
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