2
ルルちゃんはウララちゃんの本を開けました。かぎを差し込みます。このかぎは水着のかぎなのです。
ウララちゃんのまわりに砂浜の映像が浮かび上がりました。こちらにもビーチパラソルと、あと寝そべることのできるビーチチェアもあります。ウララちゃんも水着に着替えました。
青色の、パレオのついた水着です。髪はアップして、白い花を飾っていました。まぶしくなるようなきれいさでした。ウララちゃんはチェアに座ります。
「ウララちゃん、これが海だよ。広いねえ」
ルルちゃんはわくわくしながら言いました。海なら見たことはあります。家のロフトからも見えるのです。けれどもこんなに近くで見るのは初めてでした。
「ほんとね」
ウララちゃんが目を細めて海を見やりました。
「ルルは海で泳ぐの初めてだけど、ウララちゃんはそうじゃないんだよね」
ルルちゃんが言いました。前に海で泳いだことがあるかときいたところ、何度かあると答えが返ってきたのです。ウララちゃんも泳ぐのが得意なようです。ウララちゃんが本から出られず、この海――今、目の前に広がっている海――で泳ぐことができないのを、ルルちゃんは残念に思いました。
「ええ、何度か海に行ったことがあるわ。そう、大事な思い出もあるの――」
「なになに?」
どうやらルルちゃんの知らないお話のようです。ウララちゃんはちょっと黙り、そして遠くを見つめながら語り始めました。
ある日、ウララちゃんは家族で海水浴に出かけました。けれども、ウララちゃんは波に流されてしまいます。あわてているところを小舟に乗った人が通りかかり、助けてもらいました。小舟に乗っていたのは若い男性でした。背が高く、ハンサムな男性です。
小舟にはなぜかカメも一緒に乗っていました。男性はなんとおどろくべきことに、海の王様だったのです! 小舟はたちまち丸い形の屋根のついた乗り物に変わります。乗り物は海の中へと入っていきます。魚たちが集まって、乗り物を、海の奥へ奥へと引っ張っていきました。
やがてすばらしい御殿が見えました。サンゴと真珠で飾られた御殿です。ウララちゃんは乗り物の外に出ましたが、不思議なことに息をすることができました。王様に連れられて、ウララちゃんは御殿の中に入ります。
中も、それはすばらしいものでした! ウララちゃんはそこでしばらく楽しい日々を過ごしました。王様はハンサムなだけでなく、とてもやさしかったのです。けれどもウララちゃんは陸の人間でした。そのうち元気がなくなっていきます。
王様は、ウララちゃんと別れたくはありませんでしたが、ウララちゃんを陸に帰すことにしました。ウララちゃんも王様と別れたくありませんでした。けれども仕方のないことでした。二人は悲しみながらお別れとなりました。
「でも――」ウララちゃんが言います。「王様と約束したの。月のきれいな夜に浜辺で会いましょう、って」
語り終えたウララちゃんは目をふせて、そっと小さくため息をつきました。ルルちゃんは言いました。
「ふうん」
ウララちゃんはまた遠くを見つめ、ささやくような声で言いました。
「今日はきれいな月が出るかしら」
「雨じゃない?」
ルルちゃんは空を見ながら素っ気なく言いました。とても晴れて雲一つない天気でした。でも、ルルちゃんはそう言いました。ウララちゃんも空を見ました。けれども何も言いませんでした。
「ルルも泳いでくるね」
ルルちゃんはそう言って、海に向かいました。心がもやもやしていました。いえ、もやもやどころか、もっとよろしくないもので満たされていました。
ルルちゃんは海の中に入りながら思いました。海の王様だって。背が高くてハンサムな王様だって! そりゃルルはそんなに大きくないし、ハンサムというのとはちょっと違うかもしれないけど……。でもやさしさなら、ルルにだってあるんじゃない?
ルルちゃんは泳ぎました。なるほどたしかに、海はプールとは違いました。しょっぱいですし、不思議な流れがあります。その流れに気をつけながら、ルルちゃんは泳ぎました。
お魚になりたいな、とルルちゃんは思いました。そうすれば海の王様の御殿に行けるかもしれません。お魚に変身しようかしらと思いました。けれどもルルちゃんは変身が得意ではありませんし、とても疲れてしまいます。それにお魚に変身しても海の中で呼吸はできないでしょう。御殿にはたどりつけそうにありません。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます