第13話 追放サイド:没落への道(その3)

「ラウダ小隊長、お待ち下さい! 危険です!」


「やかましい! 一刻も早くSSS級ドラゴンを手に入れるんだ。とっと来い!」


 俺様、ラウダ・ゴードン率いる帝国第七小隊はSSS級ドラゴンである「グングニル」が眠ると言われるダンジョンへとやって来ていた。


 陛下から手紙を受け取ってから、早三日。洞窟内で俺様は文面を思い出す。


「くそ! なんなんだ、あの忌々しい内容は」


 手紙には荷物持ちのジン・カミクラがSSS級ランカーであり、褒章授与式にはジンも連れてくるようにと指示があった。ふざけやがって! 俺様は怒りのあまり、部下の頭を殴りつけた。


「な、なにをするのですか!」


「ああん!? 何か文句があるのかあ!?」


「い、いえ。なんでも、ありません……」


 ち。いちいち反論するんじゃねえよ。雑魚部下の分際で! だが――まあいい。要するに陛下はSSSが欲しいだけだ。何もジン・カミクラが必要なわけではない。


 ならば話は簡単だ。俺様がSSSになればいい! 最上位ドラゴンと契約をし、俺様自身が最強となれば、陛下も文句はないはずだ。


 くくく。相変わらず、俺様は頭が冴える――はずだった。


「うおっ!? お前ら、これはどうなってんだ!」


「も、もう限界です! 引き返しましょう……」


 急激に辺りが凍りついていく! 本来、グングニルの眠るこのダンジョンは全てが氷で覆われている。それを魔法使いたちの火属性魔法で溶かしながら、進んでいた。


「おい、もっとファイアを唱えろ! 寒いだろうが!」


「無理です……全員、もう魔力切れです」


「ふざけんなっ!」


 寝言をぬかす部下を蹴りつけると、遠くのほうで何かの声が聞こえた。全員が静まり返る。この声は――氷雪地域に現れるアイススパイダーだ。


 やたらと馬鹿でかい蜘蛛だが、以前も戦ったことがある。というか向こうから俺様に恐れをなして逃げていった程度の敵だ。余裕で屠れる相手。そういえば、あの時もジン・カミクラは何の役にも立たなかった。


 あんなクズがSSSのはずがない。


 俺様はロングソードを抜き、小隊に号令をかけた。


「総員! 陣形をとれ。なあにただの雑魚モンスターだ。体を温めるのにちょうどいい運動になる」


 そう思っていた。


 ――だが。


 ひゅん!


 風切り音が洞窟に響くと、部下の一人が派手に吹っ飛んだ。


「何っ!?」


「た、隊長! 助けてえ!」


 見ると、飛ばされた部下は糸の玉のようなもので壁に貼り付けられていた。逃れようと暴れるほどに糸が身体中に絡んでいく。


「小隊長、来ます!」


 視線を前方に戻すと、牛の二倍ほどの体躯をしたアイススパイダーが俺様に突進してきた。


「ぐっ!!」


 衝撃が走る。ものすごい力だ! 俺様はどうにか、蜘蛛の牙を剣で防ぐ。だが相手は八本の脚を使って、こちらを拘束しようとしていた。


「おまえらっ! なんとかしろおっ!」


「りょ、了解!」


 副長がバトルアックスを振るい、牽制を試みた。ガキンと火花が散り、蜘蛛の硬い脚に弾かれる。だが、その間にどうにか距離を取ることに成功した。


「ど、どういうことだあっ! な、何故、雑魚モンスターのくせにこんなに強いんだ!?」


 そこで、俺様ははっとした。以前、部下が言っていた言葉を思い返す。


 ――ジン・カミクラがいなくなってから、高ランクドラゴンやモンスターたちに狙われるようになった、と。


 それから部下はジンが、牽制魔法か、魔除けの香などを使っていたのではないか、とも言っていた。まさか。まさか……。


「ああ、めんどうだ! 竜化で一気に片付けるぞ!」


「了解!」


 部下たちがそれぞれフュージョンしていく。こいつらはFやEランク程度ばかりで部分的な武装竜化しかできない。


 だが俺様は違う。見せてやろうA級ランクの竜化というものを!


「来いライトニング! ドラグ・フュージョン」


 ……何も起こらない。


 何? どういうことだ。俺様はもう一度、契約したA級ドラゴンであるライトニングを呼ぶ。やはり何も起こらない。


「な、なんだ! おいライトニング! 何故、来ない! お前は俺様の下僕だろうがああ! とっとと来やがれ、能無しドラゴンがあっ!」


 それでもライトニングは来なかった。な、何故だ!? 何故!


「ラウダ隊長! 来ます!」


 部下の叫びに顔を上げた。アイススパイダーが糸を撒き散らし、赤い瞳を光らせている。


「う……うわあああああ! お前ら、俺が逃げるまで時間を稼げっ!」


 俺様は敵に背中を向けて、洞窟の出口へと向かって全力で走った。後ろから部下たちの声が聞こえるが、全て無視して走り続けた。


 こんな、こんなことがあってたまるか! 今日は自分でも気づかないうちに体調を崩していたのに違いない! そうでなければ、そうでなければ説明がつかない。


 俺様は涙と鼻水を垂らしながら、出口を目指して走り続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る