第518話

「此処では泊まらず真っ直ぐに聖都を目指す。すぐにでも魔道具を聖王様に献上する必要があるからな。イコルは雇われたのだからへばらずについて来るのだぞ。」


「わかってますよ。任せてもらって大丈夫ですぜ。体力にだけは自信があるんすよ!」


「おおそうか。それは頼もしいな。それだけの荷物を持って我らについて来れるのなら本気で俺が雇ってやっていいぞ。頑張るんだな。」


体力には自信があります!

使う体力ないんですけど!


「ありがとうございます!」


「ふふん。お前にいい事を教えてやろう。神聖国で素晴らしい生活を送りたいなら、俺のような素晴らしい騎士に雇われる事だ。一般信者よりも格上の生活を送る事が出来るだろう。」


「はい!」


う〜ん、一般信者って‥

信者を階級制にでもしてるのかね?


貴方に付いていけば、俺は上級信者みたいな。


俺は特定の宗教に入ってるわけじゃないんで詳しくはわからないけど、宗教って聖職位はあるんだろうけど、同じ信者に階級があるのはおかしいだろ。


生活水準が変わるほどの違いが出るのは、宗教国家の正しい形と言えるのか?


考え出すとキリがないな。


とりあえず今回の目的は勇者の救出と召喚術の確認だ。


俺の手はそんなに大きくない。

自分の手で掬える物を掬うとしよう。





まあ掬うのが1回とは限らないけどな!






途中で食事の休憩を挟みながら進む。


食事休憩をしながら思ったのだが、人形に意識を移すと食事が食べれない‥

食べる必要もないのだが、怪しまれるといけないので無理矢理口の中に入れたが、味がしない。

もちろんそんな機能なんてつけてないので当たり前なのだが、今まで普通に感じていたものがなくなると戸惑うな。

目や耳が特に問題がないから失念してた。

同じように見る聞くの気管はないはずだけど、そちらの方は出来ている。

この辺はスキル【アバター】の能力と思って良さそうだ。

俺の意識に直接届いているってところなのかな‥?

喋る事については六腕ピエロの下地があったのでそれを取り付けている。


しかし味覚だけはどうしようもなかった。

それで何が言いたいかと言うと‥

食事を作りたいと思わないのだ。


これでは勇者たちの胃袋を掴むのは戻ってからになりそうだな。

それにこの状態だとミミウの料理も美味しく作れないかもしれない。

やっぱり美味しい料理を作るには生身の身体がいいのだろうな。


でも単純作業なんかは任せてもいいかも。

撹拌なんかはゴーレムでいいと思うから、帰ったら撹拌用のゴーレムの腕を作ってもいいかもしれない。

そしたら俺の腕も半死くらいで済むかも。



しかしこの無理矢理口の中に入れた食べ物って、放って置いたら『影法師』の中で腐りそうだな‥

聖都についたらどうにかして取り出さないと、もし神殿に忍び込む必要があったときに臭いでバレそうだ。



「イコル!見えるか?あれが聖王様が御座す聖都だ!」


突然イルケルが誰かに向けて声をかけた。

イコル‥?

そんな名前の騎士がいたかな‥?

するとあやめが俺の脇を肘で突く。


「イコル。感動しないで返事しなさい。」


そうだった!

イコルは俺の名前じゃないかっ!


「は、はい!おお!凄いです!生きているうちに聖都を見る事が出来て感慨無量です!」


人形だから生きてないんですけど。


しかしびっくりした。

そういえば、名前をイコルって名乗ってたんだった。


「すまない‥」


俺は小声であやめに礼を言う。


「貸しひとつね。」


心配するな。

後でまとめて返してやるからな。






街道の奥には神聖国の中心に位置する聖都が見えてきた。


さて聖都にはどんな腹黒さんが住んでいるのやら‥

できれば奥の手を使わずに済ませたいものだけどな。


まあこればかりは入ってみないと何とも言えないところだ。


聖都の中央に聳え立つ大神殿を見ながらそう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る