第26話

「そうだな。それじゃスキル【模倣】を実際使って証明してみせるよ。」


あぶなー。勇者ポンコツ過ぎるだろ。ショートカットが言わなけりゃ証拠を見せてやるよとか言って無駄な駆け引きしないといけない所だった。


「ギルドカードは持っているか?」

勇者たちの気が変わらないうちに、話をすすめなければ。


「あ〜、最初にスキル確認のために作ったのがあるぜ」


正人が何の疑いもなくギルドカードを見せてくれる。

少しは警戒したらどうかと思うが、今はそのポンコツ具合が助かる。


正人が見せてくれたギルドカードに記載されている内容を確認する。


五十棲 正人

冒険者ランクE

スキル【勇者Lv.4】【属性魔法:光Lv.5】【異世界の知識】


【勇者】は常時発現スキルだな。しかし【勇者】を発現するのは1人と決まってるみたいだから模倣は無理かもな。【異世界の知識】も常時発現スキルか?やはり他のやつと一緒でレベルが表示されないのは、これ以上レベルが上がらないからか?模倣して見せるのにわかりやすいのは【属性魔法:光】か。


「それじゃ、【属性魔法:光】を見せてくれ。」


すると正人は素直に魔法発現の準備をする。


「いいぜ〜。見てなこれが俺の光魔法!光矢!」


すると正人の手元に人の腕ほどの光の矢が発現する。

光の矢は3本に増え、結構なスピードで岩に突き刺さる。そして岩に穴を穿ってそのまま消える。


「どうどう〜?俺の光魔法は〜?」


とりあえずドヤ顔している勇者は無視して、模倣スキルの条件であるスキル名を言わせる。


「それじゃ、持ってるスキルの名前を言ってくれ。」


「へ?俺のスキルは【勇者】【属性魔法:光】【異世界の知識】だぜ!勇者っぽい、いい感じのスキルだろ〜。」


(ピコーンッ)


『模倣スキルを発現しました。スキル【勇者】【属性魔法:光】【異世界の知識】を模倣しました』


『模倣スキルのレベルが上がりました。レベル制限により模倣できないスキルをストック出来るようになりました。』


『スキル【勇者】は現在のスキルレベルでは模倣できません。レベルによる開放までストックとして補完します。』


う〜む。なんてこったい。

【勇者】は1人しか発現しないらしいので模倣は無理と思ってたのだが‥

しかしレベルが足りないからストックってのに補完されたって事ね‥

面倒な事になりそうな気しかしないので、出来ればこのまま死蔵になってくれると助かるけど。

【属性魔法:光】はアキーエの【属性魔法:火】を模倣した時と同じだな。頭の中に発現方法が浮かんでくる。

しかし‥【異世界の知識】これは凄いな。

異世界の事が頭に入ってくる。魔法はないが科学?が発展している世界で、この世界にない物作られてない物など色々な知識が入ってくる。

はっきりいって情報過多で頭が痛い‥

しかし人に対しての暴力や生死がここまで法律?なんてものに守られているのであれば、勇者御一行のお花畑な頭も理解できる。

しかしこんな世界から来た人族が魔王を倒せるのか?まあ現時点で魔王がいるかどうかもわからないが、たとえ魔王ではなく魔族であったとしても殺す事にここまで禁忌があるようであれば、見込みは薄いのではないだろうか?


「おい?どうした?大丈夫か?」


正人が心配して声をかけてくる。

俺がこのまま剣を抜いて首を斬れば、勇者は簡単に命を落とすだろう。

それくらい警戒心も見当たらないし、そんな事をされるなんて露ほど思っていないんだろう。

今日初めて会った相手に、ここまで警戒心を持たない種族はいないだろう。

まあ俺には関係のない事だし、その辺はウルスートがどうにかするんだろう。出来なかったら死ぬだけだしな。


「何でもない。それじゃ、見ててくれ。」


俺は岩に向かって右手を掲げる。


「光矢!」


すると俺の右手の前に正人の放った光矢より一回り細い光の矢が1本現れる。

そのまま光の矢は岩に向かい突き刺さる。


「どうだ?これが俺の秘密だ。」


「お〜!すげーじゃん。俺の光矢を模倣したって事か〜。」


「まあ威力はレベル1相当だからな。そっちの光矢に比べると威力は微々たるもんだ。」


「それでも、模倣したら全ての魔法使えるんだろ?そりゃすげーし、反則だわ。」


「まあな。だから俺のスキルは秘密にしている。」


すると正人は納得したような表情になる。


「確かにそんだけの秘密なら知られたくないわな。おけ、じゃあお互いの秘密しったからバラしなしな〜。これでいいかあやめ?」


すると少し離れたところで険しい顔をしていたショートカットのあやめも納得する。


「わかったわ。あなたを信用するわ。」


う〜む、チョロいん‥


うっ、ショートカットに凄い目で睨まれた。


「何か不快な気持ちになったんだけど?」


「気のせいだ。要件が終わったんなら俺は帰るぞ。」


踵を返そうとすると、後ろからショートカットが声をかけてくる。


「私達はもう少し王都で訓練するから、今度私と恵の観光に付き合いなさいよねっ!」


はい?ツンデレはアキーエさんだけでいいんです。もうお腹いっぱいです。


「暇があったらな。」


そう返事をして、アキーエに脛を蹴られながら王都に戻るのだった。

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