王都への旅立ち
第11話
この大陸にはいつくかの伝承がある。そのほとんどが魔王と勇者の戦いについてだった。
魔王とは魔族と呼ばれる種族の王であり、世襲制ではなく突然現れると言われている。一説ではスキル【魔王】が発現するのではないかと言われているが定かではない。
魔族はいくつかの小さな国を持っていて魔族側から他の種族に対して敵対はしてこないが、魔王が出現した場合には突然交戦的となる。魔王のスキルによってある程度思考誘導がなされていると思われるが、これも定かとはなっていない。
薄暗い部屋に2人の男がいる。1人はしっかりとした作りの椅子に腰掛けており、片肘をついている。側に仕える男が座っている男に声をかける。
「人族の国が勇者を召喚したもようです。」
「そうか。ふははははっ!やはりな。思った通りだったな。これで女神の世界構築システムから私は逸脱したわけだ。」
「御意。」
「これで全ての準備は整ったな。」
男の言葉は闇に響き、静かに消えていった。
マルコイはスキル統合での新たな可能性に身震いしている横で、怪訝な顔でこちらを見つめる人に声をかける。
「アキーエさんや。なんでそんな顔をしているんだい?」
「突然変な声を出して動かなくなったから、ついにおかしくなったのかと‥」
「なんでだよっ!」
アキーエの誤解を解くため、今起こった事を一から説明する。
「それじゃ、本当のダブルスキルになったって事?」
「そうなる。多分だけどダブルどころかトリプルもクアドラプルもありえるかもしれない。」
「ちょ、ちょっと規格外すぎるんじゃない!?」
「俺もそう思う。でも模倣条件がレベルが上がってどうなってるかは確認が必要だし、条件が変わらないのであれば、スキル発現まで長い時間がかかると思う。」
「そっか、じゃあ模倣スキルを試すために、王都行きは変わらずってとこね。」
アキーエと話していると、ミミウの顔が百面相している。
「どうしたのミミウ。さっきから顔が驚いたり安堵したり面白い顔になったりで百面相してるけど。」
「すいません。マルコイさんに凄い事が起きた事はわかったんですが、王都行きがなくなると残念だなと思ったりして。でもよかったですぅ。」
うーむ、ミミウの口の端に涎が‥
じゅるりとかしてるし。食いしん坊キャラなんですね。わかりました。
「それとちょっと待ってくれ。試したい事がある。ミミウギルドカードを見せてもらっていいか?それとスキル【遠視】と言ってスキルを使ってみてくれるか。」
ミミウの【遠視】は統合で無くなった。
再取得できるか試しておきたい。
(ピコーンッ)
『模倣スキルを発現しました。スキル【遠視】は統合しています。スキルを模倣できません。』
やはりと言うべきか、無くなったわけではないから統合したスキルは模倣できないか‥
同じスキルを何度も模倣できるなら、スキルのレベルが上がらなくても能力を高める事ができると思ったが‥
「統合したスキルは無くなったわけじゃないから再取得は無理みたいだな。」
「そんな事出来たらそれこそとんでもないわよ。」
確かに。
でも凄いスキルだってわかっただけで充分だ。
「よし!王都までは20日くらいかかるから、村に戻ってからそれぞれ準備しよう!」
村で保存食やポーションなどを準備して、王都行きをギルドに報告しに行く。
昼過ぎのギルドは閑散としており、受付嬢のナーシャさんも手持ち無沙汰のようで、ギルド内の掃除をしていた。
「ナーシャさんこんにちは。」
「あら?マルコイさんこんにちは。ミミウさんとは仲良くやれてる?」
「はい。おかげさまで。今日はちょっとご報告があって来ました。」
「俺たちそろそろ王都に行って冒険者活動をしてみようと思ってます。ここらのモンスターは粗方1人でも倒せるようになりましたし、冒険者をするからには王都で一旗上げてこようかと。」
「そっか。寂しくなるわね。でもこの村はモンスターもあまり出ないし、冒険者活動するなら王都の方がいいのは確かだもんね。わかった。ちょっとギルドマスターにも伝えてくるわね。」
数分後にガチ‥ギルドマスターのギバスさんがやって来る。
「ナーシャから話は聞いた。ここらのモンスターなら問題はないとは思うが、王都に行けば高ランクのモンスターも出てくる。特にマルコイはスキルが使えないのだから重々気をつけるんだぞ。」
「わかったよ。無理はしない。守る人達もいるからな。」
そんな言葉を聞いて顔を真っ赤にしているアキーエが何かぶつぶつ言っている。
「守る人って‥」
「どうしたアキーエ?」
「な、な、なんでもないわよっ!」
いきなり怒鳴られた。思わず腰を落として衝撃に備えてしまったではないか。
するとアキーエが側に寄って来る。
「スキルの事は言わなくていいの?使えないスキルどころか、ものすごいスキルだって。」
「別にいいよ。まだ可能性があるってだけだから。」
「でもマルコイのスキルが使えないと思われてるのが何か嫌なんだけど。」
「別にいいんじゃない?本当にもっとスキルが成長するのなら、絶対王都で活躍できると思う。そうしたらこの村にも俺たちの名前が広まるだろ。そう考えると楽しみになってこないか?」
「そうね、わかった。この村どころか、この大陸中に知れ渡るくらい頑張ってやりましょ。」
そう言ってとても綺麗な笑顔で笑いかけてくれるアキーエ。
その隣で深く頷くミミウ。
3人でならやれる気がする。高ランク冒険者になって、俺たち3人はこの村出身だと自慢できる冒険者になってやろう。
「すぐに出るのか?」
「準備もしたから明日にでも出るつもりだよ。」
「マージスにはもう伝えたのか?」
「冒険者になると言った後はもう会ってないよ。俺は家を出たから、もうアンバーエスト家の人間じゃないし。」
「そうか‥。王都のギルドはここみたいに緩くないからな。十二分に気をつけるんだぞ。」
マルコイはギバスとナーシャに別れを告げギルドを後にした。
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