第4話 今度の積み荷は手強い
一仕事終えた俺たちは、母星コンフリに向かっていた。
「スコーン、機関の状態はどうだ?」
「うん、全部ご機嫌だよ。超光速でエンジントラブルなんて、シャレにならないよ」
スコーンが笑った。
「よし、それならいい。それより、小腹が空いたな。牛丼でも食おう。ビスコッティ、一番近い牛丼屋は?」
「ここまできて牛丼ですか。一度、通常航行に戻らないと、電波すら傍受出来ませんからね。現在地が分かりません」
ビスコッティが笑った。
「分かった。スコーン、速度を下げるぞ。各機関のお守りを頼む」
「うん、分かってる」
スコーンが真顔でコンソールを叩き、真っ暗だった外の景色が正面のスクリーンに表示れた。
「機関は正常。故障箇所もないいよ」
スコーンが報告してきた。
「ビスコッティ、現在地は?」
「はい、ハリヤー周辺のないもない地点です。航路に戻します」
ビスコッティの操作で船は大きな航路にでた。
「アイリーン、通常航法用の識別コードを出しておいてくれ。警備隊の駆逐艦に追われたらシャレにならないからな」
「あいよ、もうやってある。さっそく、衝突防止装置に大型貨物船が反応したよ。レーダーに出てるでしょ?」
アイリーンが笑った。
「うむ、このデカ物か。デブリ破壊装置でぶっ壊していいか?」
「ダメです。そもそも、こんな大きなものを破壊するようには出来ていません」
ビスコッティがサイクリックスティックを操作し、俺たちの船は大型貨物船の上を通り越した。
「光速スレスレの最高速度でいくぞ。オートの方がいいな」
ビスコッティが近場の牛丼屋を検索し、フライトマネジメントシステムに入力した。
「いきますよ」
ビスコッティがパネルのオートボタンを押した瞬間。船は爆発的に加速し、他の船をガンガン追い抜いていった。
「あとどれくらい掛かる?」
「約三分です。これ以上は早く出来ません」
ビスコッティが小さく笑った。
派手に船が減速し、オレンジ色の看板が出ているステーションがみえてくると、アイリーンが無線でテイクアウトの注文をした。
店内で食べる事も出来るのだが、ドック入港料が取られるし大体混雑しているので、俺はテイクアウトが好みだった。
俺と同じような考えを持つ者が多いようで、無重力対応の光るブイで仕切られた中に船を泊め、ステーションの中から宇宙服姿で飛び出してくる店員が飛び交っていた。
「おーい、次はうちらしいよ。エアロック開けておく」
アイリーンがコンソールのキーを叩くと、エアロックから空気が抜ける音が聞こえた。「ついでに外扉も開けておいてくれ。余計な手間をかけるものじゃない」
「分かってるよ。ちょっと、取ってくる」
アイリーンは席から立ち上がり、コックピットから出ていった。
しばらくして、エアロックの開放アラームが止まり、空気が流れ込む音が聞こえた。
「はいよ、お待たせ!!」
アイリーンが耐圧保温ケースに入れられた牛丼を手にやってきた。
「うむ、食べようか。たまには、なにか食いながら巡航するのも悪くない」
俺は笑って、ビスコッティがサイクリックスティックを操作して船を上昇させ、牛丼屋から離れた。
メインエンジンエンジンの出力を最低の1%に設定したが、それでもかなりの速度が出てしまった。
「スコーン、メインエンジンを切ってサブエンジンだけにして。牛丼屋がぶっ飛んじゃう」
ビスコッティが操縦桿を握りながら、真顔でいった。
「分かった」
スコーンがコンソールをを叩き、メインエンジンを停止して、本来は微調整用のサブエンジンだけで、牛丼屋から離れていった。
しばらくすると牛丼屋からかなり離れ、船はメインエンジンを始動させた。
「うむ、たまにはこういうものがいいだろう」
俺は牛丼の器に顔を突っ込み、ガシガシ食べはじめた。
マナー違反どころではないが、猫用の箸など誰も開発しないので、こうするしかなかった。
船の速力を限界まで上げ、再び速度が超光速域に突入すると、俺は顔中に散った牛丼のケアをはじめた。
「こういう特は、人間が羨ましく思うな」
ばたつく船はお世辞にも乗り心地いいとは思わなかったが、これ以上速い船はないだろうと思った。
アラームが鳴り、ビスコッティが船の速度を落とした。
正面のスクリーンに再び星空が戻り、コンフリ宇宙港からの誘導波を感知した。
「ギリギリです。これ以上ずれてしまうと、誘導波を検知出来ませんでした」
ビスコッティが笑った。
「うむ、間に合えばいい。エンジンの調子はどうだ?」
「今は停止中でセルフチェックしてるけど、特に問題はないよ」
スコーンがコンソールのキーを叩きながら、小さな笑みを浮かべた。
「ならばいい。アイリーン、着陸の許可は?」
「うん、大型旅客船が着岸体勢に入ってるから、この船は二番目だって」
アイリーンが笑みを浮かべた。
「大型旅客船とは珍しいな。田舎だから、定期旅客船も一日に二度くるだけだからな」
俺はコンソ-ルのキーを叩き、進路の画像を表示した。
すると、この辺りでは滅多に見ない大型旅客船が降下を開始しているのがみえた。
「……まずいな。進入速度が速すぎる。この調子でいったら、重力制御システムがいかれて爆発を起こすぞ」
「はい、危険です。Gキャンセラ最大稼働。距離を開けます」
ビスコッティがサイクリックスティックを精一杯引いたが、大して距離は空かなかった。
「ダメです。着陸はフルオートなので、操作を受け付けません」
「そうか、ダメだったか。シールドは?」
俺はスコーンに問いかけた。
「大丈夫だよ。出力最大で防御『魔法』が作動してる!!」
「ならばいい。防御は要だからな」
俺は笑った。
「アイリーン、港に連絡して、念のために消防隊を待機させておいてくれ」
「もうやった。ついでに前の船と交信したけど、パニック状態で話にならなかったよ」
アイリーンが旨からポケコンを取りだし、なにやら計算をはじめた。
「あっ、脱出がはじまりました。こんな高高度で……」
ビスコッティが声を上げた。
フロントスクリーンをみると、船から四機の脱出ポットが飛び出した。
「よし、出来きた。これを、読み込ませて……」
アイリーンがコンソールを操作して、目の前の大型線の軌道を変えはじめた。
「うむ、どうせこのままだと燃えて爆発してしまう。ナイスワークだ」
乗客がパニック状態でいうことを聞かないのか、後続に続く脱出ポッドはなく、いきなり真っ青な光りを上げて、大型客船は粉々にガス塊に変わった。
「……ああはなりたくないものだな」
俺は軽く黙祷して、飛び出した四機の脱出ポットに誘導信号を送った。
まだ熱圏の上部なのでヒヤヒヤしたが、なんとか熱に耐えきり、電離層を通過して成層圏に出ると、俺は脱出ポッドの制御を港に任せ、指示のあった八十七番スポットに着陸した。
「ふぅ、なんとかなったな。スコーン、ログを見てみろ。第五エンジンが不調だったぞ」
「ええ、マジで!?」
スコーンがログを見直し、ぎゃあと叫んだ。
「牛丼屋の指示が悪くて、変なスポットに泊めさせられたからな。以後気を付けろよ。さて、噂をしなくてもポルコの船がくるだろう。港の利用料くらい払ってやるか」
俺は笑った。
予想通り二分で飛んできたポルコの船が、五番エンジンの修理に取りかかった。
「なに、アイツらに任せておけば、三分で片が付く」
ポルコは笑い、パラソルをつけたキャンピングベッドに寝て、ブルーハワイ・アト・ピーナッツを口にいて笑った。
俺は空間ポケットを開けると、札束を四つ置いた。
「一つでいい。くつろがせてもらうぜ」
俺は札束をポルコに渡し、エンジンにぶら下がって外から整備してるカーテスを見守った。
「一つ相談だが、エンジンをもう二発増やせないか?」
「まあ、これだけのスペースがあれば、まだ増やせるが、エンジンだらけになっちまうぜ。まあ、そういうだろうと思って。コンテナを引いてきたが」
ポルコが笑った。
「よし、頼む」
俺は札束を二十個取り出した。
「俺とお前との仲だ。サービスしておくぜ」
ポルコは笑った。
「まあ、付き合いも長くなったな。いいメンテ屋に出会ったもんだ」
「暇なら全機『LHR-1000』に変えてもいいぞ。こっちの方が、高速度向けだ」
「相変わらず、どこからかエンジンを手に入れるな。いいだろう、また馴らしだな」
俺は笑って札束を十個取り出した。
「エンジン代だけもらっとく。十二発だな」
ポルコは笑った。
俺とポルコが話をしていると、赤いジャケットとよれた黒いスーツ姿の二人がやってきた。
「話に聞いた。助けてもらったようだな。物は相談なんだが、お前の船は速いと聞く。ガリイバルディまで運んでくれねぇか?」
「うむ、いいだろう。俺の船は貨客船だからな。快適かどうかは分からんが、三時間もあれば着く。ラーメン屋街道だから、ラーメン屋も多いぞ。
「ラーメンなんていらねぇよ。一刻も早く着きたいんだ」
「分かった。今はエンジン交換中だ。港の休憩所で休んでいてくれ」
俺は笑みを浮かべた。
「助かったぜ。ルパンの野郎がうるさくてな。おい、煙草でも吸いに行こうぜ」
男二人組はターミナルの方に移動していった。
「今度は客だな。船が動くということは、実にいいことだ」
俺は笑った・
「あの、船長。CAの皆さんが乗れないと騒いでいます。早くロックを外して下さい」
ビスコッティが苦笑した。
「おっと、忘れていたな。ポチッとな」
俺は携帯端末を取りだし、船の扉のロックを外した。
「ついでにAPU作動。これで、中は涼しいだろう」
俺はしばらくAPUの状態をみて、駆け寄ってきたスコーンが、猫じゃらしセットをカゴに背負って持ってきた。
「……なんの真似だ?」
俺はスコーンに顔に猫パンチをめり込ました。
「猫といえばこれじゃん!!」
「却下だ。それより、エンジンがよりハイパワーになって十二発だ。スコーンなら問題ないと思うがな」
俺は笑った。
「ああ、また~……。まあ、いいけど。ちょっと見てくる!!」
スコーンが船内に飛び込んでいった。
「大した用事じゃねぇんだが、俺も用事がある。ガリイバルディまでいくんだろ。可能な限り着いていくぜ」
ポルコが笑った。
「なんの用事だかな……。それはお前の自由だ。さてと、あの辺鄙な鉱山惑星になんの用事があるんだか……」
俺は笑った。
「ほじくり返すんだろ。他に用事はないだろ」
ポルコが笑った。
「まぁな。それにしても、遠いな。エンジンの様子を見ながらだから、二日は掛かるか」
俺は時計を見た。
「……次の便でくるな。だから、第二宇宙港だといったのに、やはり間違えたか。ここは、恒星系便も地上便も少ないしな」
ここから見える地上機用の滑走路に、一機の航空機が降りて駐機場に入っていった。
「さて、ジョブ○ーチで呼んだ航海士はどうかな」
俺は近くにいたビスコッティに、ノンアルコールのカクテルを二つ作るように指示して、二人がくるのを待った。
テーブルの上にあった電話が鳴り、ポルコが机の上にあったゴミを足で払って電話に出た。
「……分かった。伝えておく」
ポルコは電話を切り、俺に笑みを向けた・
「おい、多分待ちかねがきたぞ」
ポルコが笑った。
「そうか、出迎えにいくか」
俺は服についていたカブトムシを一生懸命捕ろうとしていたスコーンと手を繋ぎ、カブトムシを取って手渡し、ターミナルに向かって、ゴルフカートに向かって走っていった。
三十分ほど強化コンクリに砂が乗ったスポットエリアを走り、ターミナルに着くと、揃って麦わら帽子にワンピースをきた女性が二人立っていた。
俺はゴルフカートから降りて、簡単な敬礼を送ると、小さく笑みを浮かべた。
「航海士のパステルとラパトです。あなたは?」
「ああ、そっちのカブトムシで遊んでいるのは機関長のスコーンで、俺の事は猫と呼んでくれ」
俺が笑みを浮かべると、二人は軽く礼をした。
「後ろに乗ってくれ。時間が掛かるから、日焼け止めは忘れるな。あとでシミなるぞ」
俺は笑って、ゴルフカートを出した。
「……やるか」
俺はハンドルにある赤いボタンを押した。
バチバチと音が聞こえ、ゴルフカートが破壊的な加速をした。
「遅い車も嫌いだ。一気にいくぞ」
俺が操るゴルフカートは一気に駐機スポットを駆け抜け、船が見えたところで思い切りブレーキを踏んだ。
どうもモーターの強度が足りなかったようで、ケツから火を噴きながら走ったゴルフカートを船の側に止め、ビスコッティが消火器で火を消した。
「なにやってるんですか、もう」
ビスコッティが笑った。
「うむ、ちょっと設計をミスっただけだ」
俺は笑ってカートから降りた。
「……カブトムシ、逃げちゃった」
スコーンが苦笑して、カートから降りた。
「よし、やっと見つけた航海士だ。みんなで仲良くやってくれ」
俺が簡単な紹介をすると、カートから降りたパステルとラパトがカートから降りて麦わら帽子を取り、軽く一礼をした。
「お疲れ様でした。船内をご案内します。
ビスコッティが笑みを浮かべ、パステルとラパトが船内に入っていった。
「さて、ポルコ。あとは頼んだぞ」
「ああ、任せておけ」
俺は小さく笑い、船に入った。
船に入った俺は、滅多に使わない二階客室に入った。
「あっ、船長」
階段を伝って出入り口にいたチーフパーサが、笑みを浮かべた。
「うむ、どうか?」
「問題ありません」
チーフパーサがすぐさま答えてきた。
「俺は乗客だけなら金は取らん。だからといって、大事な客だからな。抜かるなよ」
「はい、分かっています。貨物室に入れるような荷物がある場合は、いつも通り五十クローネですね」
「うむ。大きかろうが重かろうが、それは関係ない。積めればいい」
俺は笑みを浮かべ、階下に下りると、ロードマスター席に向かった。
ロードマスターとは積み荷の番人ともいえるもので、ロードマスターの許可がないと荷物を積むことが出来ない。
「よし、マンドラ。準備はいいか?」
「はい、まだ荷物がないので」
マンドラは笑みを浮かべた。
「よし、今日は他に定期便はないからな。イミグレートを通れば生き残った連中が来るだろう。他に人を乗せられる船はないからな」
俺は笑った。
「客の案内にいったリナとナーガは無事だろうか。この星はいつも暑いからな」
俺はロードマスター席を出ると、俺は操舵室に向かった。
「まだエンジン取り付け作業中だよ。APUも危ないらしいから、地上から全力をもらってる!!」
「そうか、また空港使用料を取られるな」
俺は笑った。
「アイリーン、外部放送でこちらにお乗り換えをとでも行ってやれ。港でも誘導はしているだろうが、念のためだ」
「あいよ~」
怠そうにコンソールのスイッチを叩き、アイリーンが寝ぼけた声で、外に放送をはじめた。
「ビスコッティ、ガリバルディまでのコースは設定したか?」
「はい、どうせ超光速飛行だと思って、それなりの設定をしています。あとは新しく航海士に就任したパステルとラパトに任せましょう」
俺はさっそく、今まで空席だった席に座り海図と睨めっこしている二人に近寄っていった。
「どうだ、大丈夫か?」
「はい、問題ありません」
コンソールのディスプレイに表示された飛行経路を指さしながら、パステルが笑みを浮かべた。
「超光速飛行は体験した事がありませんし、一般的な航路からは外れていますが、ビスコッティさんがいうなら間違いないでしょう。どころで、この『いったん、ダンキ○ドーナツ』とは?」
ラパトが聞いてきた。
「うむ、超光速飛行は揺れるからな。時々通常空間に出たくなるだろう。ちょうどいいところに、ラーメン屋とダンキンド○ーナツがあってな。気に入らないなら、知る人ぞ知る『牛丼 サ○ボ』宇宙店もあるぞ」
俺は笑った。
「ビスコッティ、搭乗予定人数は」
「はい、十四名です。その他、軽傷者五百名、重症者三百名です」
ビスコッティがトリム調整しながら報告してきた。
「うむ、救急車を呼べ。ルートを変更するぞ。ミスカインだ。あそこにはいい病院があるパステル、航海情報をだせ」
「はい、分かりました」
パステルがコンソールのキーを叩き、俺とビスコッティの前にあるディスプレイに航路が示された。
「うむ、いいだろう。スコーン、各エンジンのモニターを怠るな。なにせ、これが処女航海みたいなものだしな。作業が終わり次第、出港しよう」
コンソールにある『客室』ランプが点灯し、俺はインカムを耳につけた。
「チーフ、どうした?」
『キャビンの準備は整いました。怪我人もいらっしゃるので、なるべく早く出港をお願いします』
「分かった」
俺はスコーンをみた。
「エンジンの調子は?」
「うん、十発ともセルフチェッククリアだよ!!」
スコーンが笑みを浮かべた。
「ビスコッティ、カーゴルーム閉鎖」
「はい」
ビスコッティがコンソールのスイッチを叩き、ここからでは聞こえないが外では待避のアラームが鳴っているはずだった。
「よし、ポルコの船は先にいったな」
俺はレーダー画面をみて、外部装置から船のAPCを起動した。
一瞬全スクリーンが消え再び表示されると、俺とビスコッティで出発前のチェックリストを終えた。
俺はトグルスイッチを操作して、係留してあるワイヤーを強制切断した。
「よし、急ぐぞ。アイリーン、やさぐれて酒飲んでないで、管制に連絡。出すぞ」
「はーい、飲み過ぎた」
アイリーンが無線で交信をはじめた。
「離陸許可出たよ……吐きそう」
アイリーンが顔を真っ青にしていった。
「離陸する。ビスコッティ、頼む」
「はい、分かりました」
ビスコッティがサイクリックスティックを操作し、俺の船はゆっくりと地面を離れた。
重力制御システムが一瞬唸ったが、それ以外は快適に上昇を続け、成層圏上辺まで到着した。
「スコーン、エンジンテスト。モード変更を間違うな」
「うん、分かってる」
エンジンを十二発搭載したため、これは重要な試験だった。
「メインエンジン、ちょい噴射」
スコーンはコンソールのキーを叩き、船のメインエンジンが起動した。
「問題ないよ。いこう!!」
スコーンが手酌でいわゆるポン酢をグラスに注ぎ、一気に煽った。
「……イエス、ポン酢」
スコーンがポーズを決めて、白い歯を見せた。
「よし、行くぞ。Gキャンセラを最大出力にしないと、下りる船が間近にいる。邪魔どころではない」
ビスコッティはサイクリックスティックを全開で開き、サイドスラスタで進路を可能な限り変えた。
「管制から入電。ヒヤシンス満載の大型貨物船が接近中。繰り返す、ヒヤシンス満載の大型貨物船が接近中。留意されたしだって」
アイリーンがもう復活して、満足そうな笑みを浮かべた。
「うむ、こちらでも探知している。ビスコッティ、可能な限り船首を右に回せ。接近警報は俺が出す」
俺はコンソールのスイッチをいれ、トグルスイッチを弾いた。
警報音が鳴り、衝突警報を発信すると、向こうも警報を発信してきた。
レーダー画面でお互いの進路と距離を測り、問題ないと判断して、俺はビスコッティに頷いた。
「では、行きますよ」
ビスコッティが操縦桿握る手を気持ち力を入れた事が分かった。
『こちら、ヒヤシンスエクスプレス。貴船の安全な航行祈る』
俺の船のすぐ脇を通り抜けていった大型貨物船から、無線が入った。
「こちら、キャツリミテッドエクスプレス。貴船の無事を祈る」
お決まりの挨拶を交わし、俺たちの船は熱圏を飛び出て、宇宙の闇に飛びでた。
「サブエンジン作動。メインエンジン可動域まで百二十分」
コンソールのキーを叩きながら、スコーンが声を上げた。
「左回頭、三度。そのあと、感覚で上方向四十度で」
パステルが進路を伝えてきた。
ディスプレイの表示が変わり、予定進路が表示された。
「どれ、ビスコッティ。ご苦労さん」
俺は操縦を代わり、俺は好んで小惑星帯に飛び込んだ。
デブリ除去装置がバリバリ作動し、俺はマニュアル操縦で小惑星の合間をすり抜け、背面航行をし、エンジン出力を100%にした。
「ちょっと暴れやがるが、いい船になったぜ。あの野郎」
俺はニヤッと笑みを浮かべ、スロットルを一気に全開に叩き込んだ。
多少の揺れはあったが、飛び回るには十分対応出来る程度のものだった。
「よし、いくぞ。超光速」
スロットルレバーのストッパーを外し、俺はスロットルレバーを一気に限界まで引いた。
一気にエンジン音が激しくなり、マッハバフェット効果で機体が激しく揺れはじめた。 しばらくして、正面スクリーンが真っ暗になり、派手な衝撃が一回きた。
「超光速。二倍」
スコーンが短く報告してきた。
「分かった。なかなかやる気がある船だな。嫌いではない」
俺はスロットルレバーを引きながら、小さく笑みを浮かべた・
「四倍。そろそろエンジンのリミッタが作動するよ」
スコーンが報告してきた。
「なら、リミッタに当ててみよう」
ある程度そのままにしておくと、自動的に操縦桿がクルーズモードに入った。
「スコーン、スコアは?」
「うん、光速の五倍だよ。半端ないね」
スコーンが笑みを浮かべた。
「ああ、さすがポルコとカーテスだな。さて、まずは牛丼でも食うか」
俺は笑った。
「あっ、カブトムシ死んじゃった!!」
スコーンの目に涙が浮かんだ。
「いつかは生まれ、いつかは消えていく。それが摂理だ」
俺は小さく笑みを浮かべたのだった。
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