第6章 衝撃の事実編

第58話 違う未来の世界/亮二

 カナちゃんにプロポーズをしてから約一ヶ月が経ち、今は8月中旬で夏休みに入っていた。あれから俺とカナちゃんは部活やバイト雄調整を上手くやりながら何度か会って密かにデートを楽しんでいた。


 水族館に行ったり、博物館に行ったり、映画に行ったり、それに根津さんが副所長として働いている遊園地『ひらかわドリームパーク』通称『ひらパー』にも行った。


 俺は今までに経験したことが無いくらいにとても充実した夏休みを過ごしている。


 俺はこの日、商店街にある本屋に一人で来ていた時に店の中で隆おじさんに偶然出会った。おじさんの手には何だか難しそうなファンタジーっぽいタイトルの本があった。


 隆おじさんって、そういった本を読むんだ。意外だよな? と思いながら挨拶をかわした後、前から会ってゆっくり話がしたいとお互いに思っていたので俺達はそのまま同じ商店街にある喫茶店に入り、俺は隆おじさんにここ数ヶ月にあった出来事を順番に話していた。


 先ずはボランティア活動についての話や、七夕祭りの際に起きた大石さんとの出来事、打ち上げの時に知った、立花部長のおばさんの件や根津さんと大塚さんとの結婚、そして最後はカナちゃんにプロポーズをしたのだが……


 隆おじさんは根津さんと大塚さんの結婚は根津さんから報告があって知っていたみたいだけど、立花部長のおばさんの話はとても驚いていた。


「そ、そうなのかぁ……あの立花部長が脚本化にねぇ……いずれにしても元気にされているのが分かって良かったよ。まさか亮二君を通じて立花部長の事を知れるとはねぇ……それに姪っ子さんも部は違うけど同じ部長をしているというのも面白いなぁ。ほんと、亮二君の周りの人達は不思議な縁で繋がっているよなぁ……」


「そ、そうでうね。俺もそう思います」


「でもその話は置いておいて、今日のメインはやっぱり亮二君が加奈子ちゃんにプロポーズをした話だよねぇ……そっかぁ、加奈子ちゃんにプロポーズをしたのかぁ……亮二君、凄いなぁ……」


「は、はい……そういう雰囲気になってしまったというか、俺が我慢できなくなってしまったというか……っていうか隆おじさんだって子供の頃に香織おばさんにプロポーズをしたんですよね?」


「ハハハ、そうだね……俺が最初にプロポーズをしたのは幼稚園を卒園して直ぐだったなぁ……」


「いや、それはいくら何でも早過ぎるでしょ?」


「だよね? ハハハ……でもやはり俺の思った通り、亮二君と加奈子ちゃんはお互いに運命の人だったってことなんだろうねぇ……俺は自分の事のように嬉しいよ」


「ありがとうございます。隆おじさんにそう言ってもらえて嬉しいです。でも、これから本当にカナちゃんが結婚出来る年になるまでの数年間は大変なんだろうなぁとは思っているんですが……」


「まぁ、恋愛を成就する為にはいくつかの障害はつきものだからあまり大変大変と思わない方が良いとは思うけど……ただね、俺としては二人には何があっても幸せになってもらいたいし、その為ならいくらでも協力させてもらから遠慮なく何でも相談してほしいなぁ」


「それは心強いです。隆おじさんが俺達の理解者で本当に助かります。でも何でそんなにも俺達の事を思ってくれるのですか? 俺もカナちゃんも隆おじさんからすれば赤の他人なのに……」


 そうなんだ。俺はそれが凄く気になっていたんだ。隆おじさんは何で俺達の事をそこまで……


「うーん、そうだねぇ……この話をいつか亮二君にできればいいなぁとは思っていたけど、今日がその話をする時なのかもしれないなぁ……」


 話? どんな話なんだろう?


 隆おじさんは少し考える表情をし、そして軽く深呼吸をした後、口を開いた。


「まず俺が今から質問する内容は亮二君からすれば『おじさん、何を訳の分からないことを言ってるんだ!?』って思うかもしれないけど、俺はいたって真剣だから質問に答えて欲しいんだ」


「は、はい、分かりました」


 な、何だろうこの感覚は?

 前にも同じような経験をしたことが……


「亮二君は『タイムリープ』って実際にあると思うかい?」


「えっ!?」


 まさか、隆おじさんの口からタイムリープって言葉が出てくるなんて……

 さっき手に持っていたファンタジー系の本の影響なのかなぁ?


「まぁ、驚くのも無理はないと思うけど申し訳無いが答えて欲しい。『タイムリープ』はあると思うかい?」


 この質問の仕方は広美と同じだ……親子だから質問の仕方が似ているとか?

 いや、そうでは無くて……も、もしかして隆おじさんも……


「あ、あると思います。いや、あると思いたいです」


 そう、俺がここで否定すれば広美を否定する事にもなる。俺はあの時、広美が俺に『真実』を話してくれた時から『タイムリープ』や『転生』を信じるって決めたんだ。


「そっかぁ……亮二君はあると思っているんだね? そう思ってくれて良かったよ。これからする話がしやすくなるし。それじゃぁ、この質問はどうだろうか? 俺が『違う未来の世界』から『この世界』に幼稚園児としてタイムリープして来た人間だと言ったら亮二君は信じてくれるかい?」


「えっ、隆おじさんがタイムリープを……?」


「気を遣わなくていいから正直な気持ちを言って欲しい」


 俺は広美にタイムリープの話をされた時はめちゃくちゃ驚いたし、凄く戸惑ったけど、何故か隆おじさんの発言にあまり驚きを感じない。逆に納得してしまっている俺がいるくらいだ。


 隆おじさんも広美と同じタイムリープ経験者……

 だから広美と同じで子供の頃から大人っぽいところが……


 そして隆おじさんは子供を演じながら香織おばさんと結婚する為に努力をしてきたってことなのか……うん、広美の時と同じで何かと辻褄は合っている。


「し、信じますよ。これは隆おじさんに気を遣っている訳では無くマジで俺は信じます!!」


「そっかぁ……信じてくれてありがとう。それじゃぁ今から俺が話す事も聞いてもらっても構わないかな?」


「はい、是非、聞かせてください。俺は隆おじさんがどういった経緯で『この世界』に来てこれまでどんな気持ちでここまで来られたのかが知りたいです!!」


 俺がそう言うと隆おじさんは微笑み、そしてゆっくりと話し始めた。


 隆おじさんは『違う未来の世界』ではリストラにあったショックで家に引きこもっていた49歳の独身だったそうで、ある時、喪服を着た俺の母さんが家に尋ねて来たそうだ。


 母さんが尋ねて来た理由は60歳半ばの香織おばさんが自宅で孤独死していた事を伝えると共にその香織おばさんは隆おじさんが幼稚園時代の担任の先生ではないか確認する為だったらしい。


 まず、いきなり俺の母さんが登場してきて少し驚いたけど、俺は真剣に隆おじさんの話の続きを聞いていた。


 母さんから話を聞いた隆おじさんは香織おばさんの死をきっかけに子供の頃の記憶がどんどん蘇ってきたそうだ。そう、香織おばさんは隆おじさんにとって初恋の人だったという記憶が……


 その日から隆おじさんは香織おばさんに卒園してから一度も会わなかった事への激しい後悔が沸き上がってきたと同時に少し前から悩まされていた頭痛が更に激しくなっていき身も心も苦しんでいた。


 でも隆おじさんは苦しみと激しい痛みの中ではあったが自分に問いかけていたそうだ。


 何で俺は幼稚園を卒園してから一度も『つねちゃん』に会わなかったんだ?

 会っていれば『つねちゃん』にとって何か違った未来があったのではないか?

 俺だったら『つねちゃん』をもっと幸せにしてあげれたのではないか?

 いや、俺なら大好きな『つねちゃん』の事を絶対に幸せにしている。

 俺はずっと『つねちゃん』の傍にいて孤独死みたいなそんな悲しい死に方は絶対にさせない。


 俺が『つねちゃん』を守りたかった……俺が『つねちゃん』と結婚したかった……と。


 その後、隆おじさんは頭痛が酷くなり、ベッドの中でもがき苦しみ、自分もこのまま死んでしまうのではと思った瞬間、身体中に電気みたいなものが走り死んだと思ったそうだ。そしてあの世に来てしまったのかと思いながらゆっくり目を開けた時、目の前には小さい頃の記憶に残っている光景が写っていた。


 昭和52年3月22日、幼稚園を卒園した日の数時間後、4月から違う幼稚園に移動が決まっていた香織おばさんを見送る為に二度見したくらいに若返っている母親とその母親を見上げなければいけないくらいに小さくなっている自分が駅のプラットフォームに立っていたのだ。


 隆おじさんは何がなんだか理解できなかった。これはきっと夢なんだ。

 俺が後悔し過ぎたからこんな夢を見てしまったんだと思ったそうだ。


 しかし香織おばさんが電車に乗り込みドアが閉まる寸前に隆おじさんは香織おばさんに対する想いが抑えられなくなってしまうと同時にどうせ夢なんだから後悔しない為に想いを伝えるんだと決め『つねちゃん、俺と結婚してくれ!!』とプロポーズをしたのだった。


 ここから隆おじさんにとって香織おばさんと結婚する為の人生をやり直す生活が始まる。


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