第22話 仲直り/加奈子

 エキサイトランドからの帰り、私はお父さんが運転する8人乗りのワゴン車の後部座席に座っていた。翔太が真ん中に座り私と桜ちゃんで挟んでいる形だ。


 助手席には翔太のお父さんが座り、お父さんと何か楽しそうに雑談をしている。そして真ん中の座席には右端から静香を膝の上に置いた状態のお母さん、真ん中に桜ちゃんのお母さん、そして左端に翔太のお母さんが座っているけど、どうやら全員寝ているみたい。


 でもお父さんの車って8人乗りじゃなかったっけ?

 9人も乗っているけど大丈夫なのかしら? ん? そう言えば今朝、お父さんが静香は小さいから人数にカウントしなくていいから大丈夫って言っていたような気もするけど、どうだったかな? 


 まぁ今更聞くのも変だし、そうっとしておこう……しかし行きはそんな事なんて全然、思わなかったのに……っていうか翔太の顔を見るのが辛くて凄く気が重たかったし、周りが何も見えて無かった感じだったからなぁ……


 やっぱり、5年ぶりにりょう君に会えたことで今までどこかモヤモヤしていた気持ちが一気に消えてなくなり楽になったからなのかな?


 りょう君と……あ、あんな事もしたし、あんな約束もしちゃったし……って、私、ほんと凄く浮かれちゃってるなぁ……


 二人でのやり取りを思い出し私は一人、ニヤニヤしている。


 一方、同じ後部座席の反対側の端に座っている桜ちゃんはドアの方にもたれかかりながら眠っている。さっきまで私に「翔太君と一緒にこんなアトラクションやあんなアトラクションに乗ったんだよ」と、とても嬉しそうに話していたけど、さすがに疲れちゃったんだね。せっかくなら翔太にもたれかかればいいのにと思ってしまう私。


 そして翔太は二人の女子に挟まれて少しは緊張しているのかと思ったけど、そんなそぶりも無く、無表情で前を見ていた。


 そんな翔太に私は思い切って小声だけど話しかけてみる。


「しょ、翔太……」


「えっ!?」


 無表情だった翔太の顔が一気に驚いた表情に変化した。


「私が話かけただけでそんなに驚かなくてもいいじゃない」


「い、いや……普通は驚くだろ? あれから加奈子は俺に全然、近づかないし、話しかけてもくれなかったしさ……」


 不安そうな表情をしながら翔太も私に小声で話返してくる。


「ゴメン……でも仕方無いじゃない。私も翔太との約束は守らないといけないとは思っていたけど……でも、なかなか気持ちの整理がつかなかったからさ……」


「ふーん、それで今日、気持ちの整理がついたって事なのか? それで俺に話しかける気になったんだな?」


 何よ、翔太のこの生意気な言い方は? ちょっと腹が立つ言い方よね?

 でも、よく考えると翔太は今まで私にはずっとこんな感じだったじゃない。今更って感じだよね。だから気を取り直して……


「まぁ、そんなところかな。今日は今までに無いくらいのとっても嬉しいことがあったから気分が凄くいいの。だから翔太と話す気になれたし……それに……」


「それに?」


「うん、それにあの時の事も許す気にもなれたわ……」


 翔太の顔色が変わる。


「マ、マジで? ほ、本当に許してくれるのか?」


「うん、許すわ……翔太はちゃんとあの時の約束を守ってくれているしさ……それにあの時の翔太の気持ちも少しは分かるようになったんだ……だから翔太にあんな行動をさせてしまうくらいに追い込んでしまった私の方も悪いかなとも思ったわ……だから私からも謝るわね? あの時はゴメンね……思いっきり殴ってしまったし……という事で明日からは今まで通りの幼馴染に戻りましょ? これじゃダメかな?」


「ダ、ダメじゃないけど、本当にいいのか? 本当に俺を許してくれるのか?」


 翔太はまだ信じられないといった表情をしている。


「だから許すって言ったじゃない。何度も言わせないでよ。結構、照れくさいんだからね」


「わ、分かったよ……あ、ありがとう、加奈子……」


 なんか初めて翔太にお礼を言われた気がするなぁ……でもこれで良いよね、りょう君?


「その代わり今までみたいな意地悪はしないでね? もし今までの様な意地悪をしたら今度こそ絶交するから」


「分かった……もう意地悪はしないよ。意地悪なんかしても意味が無くなったしさ……」


 意味が無くなったかぁ……そうだよね。今まで私にしてきた意地悪は私の気を引く為というか、毎日、好きな人の話を聞かされているうちに腹が立ってきての行動だったみたいだし、それがどんどんエスカレートしていったんだもんねぇ……


 すると翔太が違う話をしだした。


「そ、それでさ……今日、ハリケーン・エキスプレスで会ったあの人……あの人が前から加奈子が話ていた『りょう君』なんだよな?」


「うん、そうよ。あの人がりょう君だよ。私がずっと会いたかった大好きなりょう君……まさか今日会えるなんて夢にも思わなかったわ。それで会えなかった5年分をまとめた感じでたくさんお話しができてとても気持ちがスッキリしたの。今、凄く幸せな気分なの」


「なるほどな……で、その『加奈子の大好きなりょう君』のお陰で俺は許してもらえたって事なのか……?」


「そうだね。そうだと思う……りょう君に会えていなかったらまだ翔太とはまともに話はできなかったと思うわ」


「そっか……俺はその『りょう君』に感謝しなくちゃいけないんだな? しかしマズイな……俺、あの人の事を思いっきり睨んでしまったから……もしかしたら気を悪くしてるんじゃないかな? うちの店でバイトをしているらしいから、もしかすればこれから会うこともあるかもしれないしさ……っていうか最近、店には行かないけど何度かはあの人に会っていると思うんだよなぁ……あまり覚えていないけどさぁ……」


 そっか、りょう君は山田さんのお店でアルバイトをしているんだった。ってことはお店に行けばいつでもりょう君に会えるんだわ。でも今はその事を喜んでいる場合じゃないよね? 翔太の不安を取ってあげないと……


「えっ、りょう君を睨んじゃったの? 何て事を……フフフ、でも大丈夫だと思うよ。りょう君はそんな事くらいで怒る人では無いというか、色々な話をしている中でりょう君は翔太が私にした事についても少しは気持ちが分かるって言っていたしさ……あっ!!」


 しまった。翔太のことをりょう君に話した事がバレて……


「ま、まさか、あの時の事をあの人に話したのか?」


「う、うん……ゴメン……じゃないと大事な話に進めなかったから……」


「はぁぁ……まぁいいよ。本当の事だしさ……俺の気持ちも少しは分かってくれているならさ……でも今度、顔を合わせた時は気マズイけど……」


 ふぅぅ……翔太があまり嫌な顔をしなくて良かったわ。


「ただ、りょう君は年上なんだから我慢もしなくちゃいけないって言ってたわよ。だから翔太もそこらへんはちゃんと反省してよね?」


「わ、分かってるよ。ちゃんと反省してるよ。はぁ、何で加奈子は俺に余計な事まで言うかなぁ? 俺の気持ちが分かるってところで話を止めてくれたら、あの人に会っても、もしかしたら少しは会話ができたかもしれないのに……そこまで聞いたら顔も合わせづらくなるじゃないか」


「え、そういうものなの?」


「そういうもんだよ!!」


「ハハハ、それくらいで顔を合わせれないって男らしくないわね?」


「はぁ……俺は加奈子みたいに強くないんだよ……」


「別に私は強くなんかないもん」


「いや、今に始まった事じゃ無いけど加奈子は強いさ。マジで勝てる気がしないよ……」


「私が強いかどうかは置いといて、これからも桜ちゃんの事お願いよ? 絶対に泣かす様な事はしないでよ?」


「だ、大丈夫だよ。俺は加奈子にはいつも酷い事をしていたけど他の女子には優しい男なんだよ。そ、それに桜は思っていた以上に良い子だし……」


 翔太の頬が少し赤くなっている。


「フフフ、そうなんだ。それを聞いて安心したわ」



 私達の会話が途切れしばらくすると寝息が聞こえてきた。どうやら翔太も寝ちゃったみたい。翔太の寝顔を久しぶりに見たけど、とても穏やかな顔をしている。


 きっと翔太は翔太で色々と辛かったんだろうし……それで久しぶりに私と幼馴染らしい会話ができたから少し安心しちゃったのかな?


 まぁ、私も何となく気持ちが楽になったし、これで良かったんだよね?


 さぁ、私も明日から頑張らなくちゃ。


 将来、りょう君のお嫁さんになる為に今からやる事はたくさんあるもんね。






――――――――――――――――――――――――

お読みいただきありがとうございました。

次回は広美の秘密が遂に明かされる!?

どうぞ次回もお楽しみに(^_-)-☆


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