第11話 集合、そして……/加奈子
それから数日が経ち、今日は8月11日の日曜日、エキサイトランドに行く日がやって来た。
「マーコ、久しぶりだねぇ? それに三田さんもお久しぶりです」
「ほんと久しぶり~それにしても桜ちゃんのお母さんがチーチュって知った時は驚いたわ!!」
「ハハハ、私もだよ。それと加奈ちゃん、いつも桜と仲良くしてくれてありがとね?」
「え? いえ、そんなことは……」
この元気な女性は桜ちゃんのお母さんで名前は
しかし桜ちゃんのお母さんって『チーチュ』って呼ばれる感じの人じゃないような……化粧は濃い目で茶髪のソバージュロングヘアー
見た感じ、物静かな桜ちゃんとは真逆でとても明るい性格みたいだけど怒るとちょっと怖い感じもするし……
桜ちゃんのお母さんはシングルマザーで桜ちゃんが幼稚園の途中で離婚したらしく、その時に実家のあるこの町に一人暮らしをしている母親と同居する為に戻ってきたそうだ。
そういえば桜ちゃんって幼稚園の二学期に転入してきて寂しそうに一人でポツンとしているところを私が声をかけて、そこから仲良くなったんだよなぁ……
桜ちゃんのお母さんは最初の数年間は一家の大黒柱として必死に仕事を頑張っていたので学校の行事などには一切参加せず、桜ちゃんのお婆ちゃんに任せていたみたい。
だから学校行事などでうちのお母さんと会う機会は全く無くお互いに学生時代の友人だとは気付かなかったそうだ。
それにお母さんはまさか桜ちゃんのお母さんが離婚しているとは思っていなかったので大塚桜ちゃんは同じ大塚でも全然、別人の大塚さんの娘さんだと思っていたから気付くはずもなかったというのが本当のところらしい。
「それと山田さんご家族でしたよね? 今日はお誘いいただきありがとうございます」
「いえいえ、うちも誘っていただいた方ですから。それと最近、うちの翔太と桜ちゃんがとても仲良くしているみたいで……もし翔太が桜ちゃんを泣かす様なことをしたらいつでも言ってくださいね? この子、いつも加奈ちゃんに意地悪をしてよく泣かしていたから心配で心配で」
「へぇ、そうなんですかぁ……加奈ちゃんに意地悪をねぇ……」
桜ちゃんのお母さんはそう言いながら私の方を見てきたのでドキッとした。
でも直ぐに桜ちゃんのお母さんは笑顔になり、何故か私にウインクしてきた。
え? 今のは何かのサインなの?
私が理解に苦しんでいる中、桜ちゃんのお母さんは山田さん達の方に向き直し話し出す。
「ハハハ、それは大丈夫ですよ。翔太君はとても優しくて素敵な息子さんですよ。翔太君、うちの桜と仲良くしてくれてありがとね?」
「は、はい……」
さすがに翔太は元気が無いなぁ。まぁ、これも私のせいだけど……
でも私だって今日は開き直って来てるんだし、年上の翔太だって頑張ってもらわないと……じゃないと翔太のご両親に心配をかけてしまうし、今日をとても楽しみにしていた桜ちゃんにも申し訳が無いし……
「そう言えば山田さんは焼き鳥屋をされているそうですね? 私、焼き鳥大好きなんですよ!! 今度、お店に行かせてもらっていいですか?」
「勿論ですよ。是非いらしてください」
「うんうん、いつでも来てください。思いっきりサービスさせてもらいますよ!!」
「うわぁ、ありがとうございます。桜も一緒に行きましょうね?」
「うん……翔太君もお店に顔は出したりするの?」
「い、いや、俺はあまりお店には行かないなぁ……」
「え、どうして?」
「お店の中、炭火と客のタバコの煙が凄くて服に匂いがついて嫌だからかな……」
「ふーん、そうなんだぁ……」
おお、二人がまともに会話しているところを初めて見たわ。
桜ちゃん、その調子で頑張って!!
「今日は久しぶりに広美ちゃんに会えるからお母さん、とても楽しみだわぁ。きっと素敵な女の子になってるでしょうねぇ……」
お母さんが私にしか聞こえないくらいの声で呟いている。
そう言えば私も小さい頃に広美さんに何度か会っているらしいけど、全然記憶が無いんだよなぁ……お母さんのお気に入りの広美さんってどんな人なんだろう?
ん? でも待って。今、私とても大事な事を思い出したような……
そうだった。広美さんってお母さんが学生時代に好きだった人の娘さんだったよね?
ってことは昔、片思いの人に無理矢理お母さんからキスをしたって前に言っていたけど、もしかしてその相手は広美さんのお父さんじゃ……?
うわぁ、どうしよう。もしそうなら……その事を知っているのはお母さんと私だけだし……何だか逆に広美さんと顔を合わせづらくなってきたじゃない。
それと同じ日にお母さんが『片思いって凄く辛い事だから。それが絶対に叶わないと知っていれば尚更ね……』って言っていたけど、もしかしたらお母さんは今でも広美さんのお父さんの事を……
イヤイヤイヤッ、今はそんな事を考えている場合じゃ無いし、お父さんにも悪い気がするし……
「さぁ!! 皆さん、そろそろ園内に入りましょうか?」
「ヒエッ!?」
「え? 加奈子、何を驚いた顔をしているんだい? もしかしてお父さんの声が大き過ぎたのかな? もし、そうならゴメンよぉ」
お父さんの事を考えた瞬間に私の隣で突然、お父さんが大きな声を出したので凄く驚いてしまったのが少し恥ずかしかった。
「そうですね、入りましょう。私はエキサイトランドに来るの久しぶりなので実は楽しみにしていたんですよぉ。どうされます? まずはジェットコースターから攻めますか!?」
翔太のお父さんが嬉しそうに私のお父さんに言っている。
それに対して翔太のお母さんが少しバカにした顔をしながら「あなた、絶叫系凄く苦手じゃなかった? 無理しないでメリーゴーランドくらいがちょうど良いんじゃない?」と言うと、
「だ、大の大人がメリーゴーランドって何だよぉ!? でも、それもアリかな?」
「 「 「ハッハッハッハ」 」 」
翔太のお父さんの返事が面白いのか大人達は大笑いをしている。
そんな中、桜ちゃんが少し不安そうな表情をしながら私の背中をツンツンしてきた。
「ん? どうしたの、桜ちゃん?」
桜ちゃんは私の耳元に顔を近づけ小声でこう言った。
「あのね、今日はできるだけ翔太君と一緒の座席になるように協力してくれないかなぁ……?」
「オッケー、任せておいて。最初からそのつもりだったし」
「ありがとう、加奈ちゃん」
桜ちゃんは満面の笑みだ。
私はこんな桜ちゃんの幸せそうな表情を絶対に消したくない。
いくら私が仕向けたことだとはいえ、桜ちゃんの恋を踏みにじる訳にはいかない。
何が何でも応援をし続けるんだと心に誓いながらエキサイトランドの入場ゲートへと向かった。
――――――――――――――――――――――――
お読みいただきありがとうございました。
フォロー、☆☆☆評価、レビュー、感想、応援♡などを頂けると励みになりとても嬉しいです。
完結までどうぞお付き合いください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます