第82話久々のエメット家(1)
王都にあるエメット家の屋敷に帰れば、たった三人ではあるものの使用人一同が出迎えてくれた。
馬車から降りたクリスティーナに、ペギーが感極まったように、涙を浮かべる。
「クリスティーナ様! 大きくなられましたね」
「久しぶりだね、ペギー」
最後に会った日と比べると、皺が増え、髪もほぼ真っ白に変わっていた。経だった年月の永さが感じられた。
「お帰りなさいませ、クリスティーナ様」
「ただいま」
執事のロバートと女中のネイシーも頭を下げる。
「元気そうだね」
「クリスティーナ様も。立派に成長なされました」
クリスティーナは照れくさそうにはにかんだ。
気分は沈んでいたが、長年会っていなかった人々と顔を合わせるのはやはり嬉しかった。
「この格好でも、そう言ってもらえるなんて、嬉しいよ」
クリスティーナは今、従者の格好である。
「さあ、家に入ろう。ここはひと目がある」
続いて馬車を降りてきたバイロンが、皆を誘導するように後ろから手を広げる。
扉が閉まり、中に入ったところで、バイロンが口を開く。
「ペギー、慌ただしいが、今日は一泊ここに泊まって、明日の早朝ここを出る。色々支度があるが頼んだ」
「かしこまりました」
バイロンがクリスティーナに向き直る。
「クリスティーナ、おまえの見合い相手はダナン地方の北を治めるショール家の息子だ。我が南の領地から馬車で行けば、一時間ほどで着く」
「はい」
「見合いの日取りはもう決まっているんだ。明日の午後、伺うことになっているから、明日の朝ここを出れば、間に合うだろう。おまえもそのつもりでいてくれ」
「……わかりました」
クリスティーナからすれば急ではあるが、バイロンは初めからクリスティーナに縁談を持ってきたのだ。最初から話をつけているのは当然だ。
執事のロバートとの手紙のやり取りで、クリスティーナが従者をやっていることは知らずとも、十八になっても結婚どころか、まだ婚約していないことは聞いていたに違いない。
今回のこの縁談は、半分は兄の思いやりからくるものだと、クリスティーナでも理解できた。
あとの半分は家と家との結びつき。貴族の結婚は、個人同士ではなく、家同士の繋がりを保つためにある。
クリスティーナに否やを言うことはできない。
重く沈む心を隠して、クリスティーナは頷いた。
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