最終決戦

 敵は十二万もの軍勢だ。四方へと散らばった理由は、銭形邸を取り囲み、襲い掛かるためだろう。ただ彼らがやって来るのを待ち受けるほど、私たちも馬鹿じゃない。まあ、全てはAIビッドくんとAI銭形クモさんのおかげだけど……。

 彼らがやって来る道中には、もちろん様々なトラップを仕掛けている。さらに、スズメバチマシーンが、その数一万を超える大軍で迎え撃つ。小さくすばしっこいため、いくら動きの速い真っ白ゾンビと言えども、彼らの攻撃は耐えられまい。スズメバチマシーンの針には、リン粒子によって造られた爆弾が仕込んであり、ひとたび刺されると、体内で膨らみ、大爆発を引き起こすそうだ。

 その効果がすでに表れている。あちこちで、爆発が起こり、ゾンビたちが木っ端みじんになっていた。ざまあみろ。

 でも、数は全然減らない。スズメバチマシーンから放たれるのは、一匹につき一発だけなのだ。何度も使用するためには、一度巣に戻ってから、エネルギーを補給しなくてはいけない。

 爆発に巻き込まれて吹き飛んだのも入れると、大体三万体くらいだと、AIビッドくんから連絡が入った。

 まだ全然足りないじゃん。

 このままだと、きっと銭形邸にも、彼らがやって来るに決まってる。銭形邸は一種のサファリパークみたいなもので、この広い広いバリケードの中には、野生の動物たちや昆虫たちも多く棲息しているし、絶対に守らなくてはいけないのだ。

 そんなところへ、AIビッドくんからの通信が入った。

「放電ゾンビ、発火ゾンビも確認」

 映像が、目の前のモニターに現れた。たしかに、前に見た二つのゾンビが樹海の中を走っている。この二体のおかげで、森に火がついて、一気に燃え上がっていた。すぐに、消防ドローンによって火は消すことができたが、発火ゾンビが生きている限り終わらない気がする。しかも、真っ白になってるから、きっとあのボスが配下に置いたんだね。て、ちょっと待って。アイツもいるじゃん。

 映像には、次々に周りのゾンビを巻き込みながら歩いている、でっぷりと太った猛毒ゾンビの姿もあった。

「なんで生きてるのよー。おじさんがひき殺したはずじゃん」

「ゾンビと言うのはじゃな、死んでも生き返るんじゃ。いや、死んでいるから死ぬことはないって言った方がいいのかのう。ウーム……ようするに、ゾンビはゾンビなのじゃ。完全に動きを止めたければ、存在そのものを消滅させないと行かんのじゃ」

「じゃあ、これまで首を跳ねたりしたゾンビたちも生きてるの?」

「恐らく生きておる」

 このままでは、あの三体のせいで、樹海まで消失しかねない。

 戦うしかない。そう思っていると、おじさん、リョウカさん、ハルカさんの三人が、我先にと、エアバイクに乗って、ゾンビたちに向かっていっていた。リョウカさんの後部座席には、カッコいいゴーグルをつけたヤマトくんの姿もある。戦う気満々だ。

「また、乗り遅れちゃった……いつもそうだよ」

「挽回すればいいじゃないか」

「ようし、負けないぞー」

 リンに五百円玉を与えると、ロボットに変身してくれた。リンロボの中は、ロボなのに、なんだか柔らかい。

 下では、おじさんがエアバイクを自動操縦にしてから、地上に降り立ち、光線剣で真っ白ゾンビたちを、霧にしていた。片手には、ライフル光線も持っていて、自在に操っている。

 でも、近くには、放電、発火、猛毒のゾンビが迫って来ている。おじさんは、真っ白ゾンビたちに夢中で気がついていない。じゃあ、私が助けるしかないじゃん。

 私は、リンロボを操縦して、三体に向かって行った。面白いことに、彼らの傍を通っている真っ白ゾンビたちは、泡を吹き、目が飛び出て、みんな苦しそうに倒れていた。中には、彼らから逃げようと反対方向へと走っているゾンビもいて、笑っちゃったよ。ゾンビにも怖いものがあるんだね。

「リンは、熱いのとか、痺れるのとか、毒は平気?」

「俺さまにとっちゃ、ぬるま湯みたいなもんだし、静電気みたいなもんだし、プロテインみたいなもんだ」

「頼もしい。じゃあ、ちゃちゃっとやっちゃいましょう」

 リンロボを、飛行機型に変形させた。そして、まさに本家本元リン粒子を青白い炎へと変換し、ゾンビたちに向けて放った。

 炎は、三体を巻き込みつつ、他のゾンビたちにも当たり、次々に蒸発させていく。

 ところが、他の真っ白ゾンビは蒸発しているのに、あの三体は黒焦げにはなっているけど、蒸発していなかった。さらに、三体が近づくと、合体し始めているじゃん。

 もう最悪ったらありゃしない。まるでクマのように巨大化した最悪ゾンビが完成した。すると、背後の方で、大きな爆発音を聞いた。

「なに、なに、なに」

 後ろを振り向いたらビックリ仰天。なんと、あの富士山が小規模だけど噴火してるじゃん。ってか、火山が噴火するところなんて初めて見たよ。暗闇の中に、真っ赤なマグマが稲妻を発しながら暴れてる様子は、めちゃめちゃ綺麗でカッコいい。

「たびたび噴火しよるぞよ」

 と、AI銭形さんが教えてくれた。近いからすごい迫力だけど、大丈夫なのかな。

「おい、ナナセ。見惚れてる場合じゃないぞ。ツルちゃんがやべー」

 リンが大声で言った。

 一瞬だけ、最悪ゾンビから目を離していると、おじさんに迫ってるじゃん。おじさんは、周りにいた真っ白ゾンビのほとんどを倒しきり、スーツを脱いで汗を拭きながら、私と同じように、火山に夢中だった。

「あぶない」

 私はリンロボからリンキャノンを発射した。見事に、最悪ゾンビに命中したけど、なんて頑丈なの。すぐに立ち上がり、なおもおじさんの所へ向かっている。きっと、車に轢かれた怨みを抱えているんだと思う。

 でも……。

「あなたの相手は私よ」

 すぐに、最悪ゾンビの所へ到達し、対峙した。

 怖いし、気持ち悪いけど、戦わないと、おじさんが殺されちゃう。

「いや、戦う必要なんてないぞ」

 リンが、語り掛けてきた。

「戦わないとダメでしょ」

「戦いは、あのボスに取っておけ」

 偉そうに腕を組んで、上空から私たちを睨みつけているあいつのことを言ってる。

「じゃあどうするの」

「少し、俺さまが勝手に動くぜ」

「え、え、え」

 私の意志とは違った動きを、リンロボがしはじめた。巨大な手をアームに変え、最悪ゾンビを掴んだ。

 ひぃいいいと、思わず声をあげてしまった。だって、痺れるし、燃えるし、毒だよ。いくらリンが平気だって言っても、怖いモノは怖いの。いくら密閉された空間とはいえ、変な煙みたいなのが出てて、気持ち悪い顔が迫っていると、臭いがするように感じるよ。

 で、それからどうしたのかと言うと、リンは富士山に向かった。じたばたと抵抗する最悪ゾンビだったけど、リンの力が上回っていたため、どうすることもできなかった。ぽたぽたと毒を地上に落としていたため、一部硫酸がかかったように溶けていて思わず急げーって叫んじゃった。

 富士山の火口に着いた。

 噴火したての噴火口がグツグツと煮えたぎっていた。そこに、最悪ゾンビを放り込んだ。彼らは火口の中でも、放電し発火し猛毒を放っていたけど、次第に小さくなり、最後にはボワッと火が付いたかと思うと、ジュッて言って消えて行った。ゾンビ判定も、真っ赤からLOSTに変わっていた。

「その手があったか」

「頭は生きているうちに使うもんだぜ」

「リンって、もしかしたら自分の意志で動けるんじゃないの?」

「そうみたいだな。俺さまも、気がついたらそうなってた。だが基本はお前ベースでいいぞ。俺さまが動く時は、お前が死にそうになった時とかくらいだな」

「じゃあ、百円玉常備しておかないとね」

「背中あたりに括りつけておいてくれ」

「そうするー」

 私とリンロボが、銭形邸へ戻ると、上空には、多くの真っ白ゾンビが飛んでいた。エアバイクで戦っていたリョウカさんたちも囲まれている。まさか、あんなに空飛ぶゾンビがいたとは思わなかった。

 おじさんが、上半身裸のまま、刀一本で立っていた。その視線の先には、あのサムライゾンビが真っ白になって立っていた。銭形さんが言った通り、首を切っただけではダメだったみたい。真っ白ってことは、強化されているはず。でも、おじさんったら、スーツを着ないであのまま挑むようだ。男と男の戦い。邪魔をしようとした真っ白ゾンビ五体をサムライゾンビがあっという間に真っ二つにした。きっとボスに支配されたのはわざとだ。おじさんともう一度真剣に戦うために。おじさんだって、あの日以来ずっと修行の日々だった。富士山を登る時だって、百キロくらいの重りを背負って登ってたもん。絶対に負けないはず。だから、邪魔はしたくない。おじさんは覚悟を決めている。だったら私だって……。

「リン、相談があるんだけど……」

「なんだ」

「十万円金貨、食べてもいい?」

「あれだけの数相手なら、それくらいの覚悟は必要かもな。飛んでてすばしっこいからな」

「うん。みんなを助けないといけない」

「まあ大丈夫だろ。疲れて、また一月ほど寝てりゃーいいじゃねーか。最悪、あの尻尾と翼を取り返せば、あのちびっ子悪魔がどうにかしてくれるかもしれん」

「そうだね。じゃあ、食べるよ」

「おうよ」

 私は、十万円金貨をぼりぼりと氷を砕くようにして食べた。もちろん初めてのことだ。一万円硬貨で、あれほどの力だったのだから、十万円硬貨は計り知れない。

 ドクン、ドクンと、心臓の鼓動が早くなり、今までにないような力を感じた。光が散乱し、周囲を明るくした。そのためか、一瞬だけ真っ白ゾンビの動きが鈍っているように見えた。それから、光が収縮し、私の体に納まった。ロボよりもコンパクトに、むしろ元の私と同じ姿に思えた。

「あれ? 普通の私じゃん。しかもセーラー服……高校の制服じゃん。久しぶりだなーって、呑気な事言ってられないよ」

「俺さまだってそうだよ。お前の胸に納まってやがる」

「これってまずいんじゃない?」

「まさか、十万円金貨は、元の姿に戻るためのモノなのか?」

「どうしよう。このままじゃ、みんなゾンビになっちゃう」

「落ち着けナナセ。今の状態を確認してみろ」

「今の状態って……あれ、空飛んでる」

「そうだ。それに、光の粒子が、お前の頭の先から、まるで雪のように降り注いでやがる」

「ホントだ。綺麗」

「だから、元に戻ったってことがおかしいんだ」

「そだね。よし、ちょっと試しに蹴ってみよう」

 私は、空間をひと蹴りした。するご、漫画やアニメで見るような、鋭い鎌のような刃が放たれ、十体ほどの真っ白ゾンビに直撃し、真っ二つにすると、そのまま蒸発した。

「す、すごい」

「俺さまだって驚いてるさ。まさか、こんな小娘に、俺さまと同等の力を扱えるとは思わねーよ」

「ようし、じゃあ、思いっきり走るイメージでアイツらを追いかけてみるよ」

「俺さまは、アイツらを焼き尽くすイメージを持ってやる」

「うん。おじさん、リョウカさん、ハルカさん、ヤマトくん、待っててね」

 そう言って、私は空飛ぶゾンビの集団へと突っ込んだ。

 体が軽くて、あっという間に先頭のゾンビのところへたどり着くと、思いっきり殴ってやった。すると、水風船が壁にぶつかり割れるように、白いゾンビがパンという音とともに、破裂した。

 最初にリンに力をもらった時に、大きな木を殴った時と同じ感覚だ。でも、あの時よりも、手ごたえがあった。

 へへへ、ここからは、私の番だ。

 最強の力を手に入れたセーラー服魔法少女、ナナセちゃんの逆襲がはじまるのだ。

 

 

 

 

 

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