ホームセンターでの大決戦

 植物に覆われた航空機の数々が目に入った。広大な土地で、空港かと思ったけどどうやら違うみたい。

「あれは、新日本防衛隊と同盟を組んでいた、在日ニューアメロ軍の基地だ。俺も何度か訪れたことがある」

 あ、ニューアメロて言うのは、昔アメリカ合衆国って名乗ってた国が中心となって、カナダ、メキシコと合併してニューアメロと呼ばれるようになってたの。

 てことで寄ってみることになった。

 本来なら厳重な警備で、一般車両なんて入れやしないのだろうけど、現在はゲートも壊れ、柵もあちこち破損していて、どこからでも侵入が可能だ。

 だけど、どれほどすごい軍だったかは知らないけど、ゾンビによる侵略は防げなかったみたいだね。

 侵入した途端、ゾンビに囲まれた。リョウカさんが屋根に上り、機関銃でゾンビを蹴散らし、私は後方でまきびし爆弾を落としてゾンビたちを爆殺して行った。

 外からよりも中の方がその広さを実感した。軍人とその家族の家もあり、一つの街になってたんだって。家以外にも、大きな建物があり、ホームセンターやファストフード店など日本ではあまり見ない建物がいっぱいあって、なんか外国に来たような気分になった。

 その中の一つ、ホームセンターに立ち寄ることにした。色々な物資を調達するにはもってこいだ。もちろん、前みたいに、なにもない可能性の方が高いのだけど……。あと、さすがに死刑囚はいないよね……。

 ホームセンターの窓ガラスは、ほとんどが割れており、板で補修したり、棚や即席で積み上げたブロック塀などのバリケードが目に入った。ここで、しばらく生き残った人たちが籠城してゾンビと戦っていた痕跡だろう。慎重に中を捜索するも、ゾンビの姿はなかったし、人の死体もなかった。あと、死刑囚もいなかったよ。全員逃げ延びたか、はたまたゾンビ化したかのどちらかなのかしら。

 ホームセンター内には、商品がいくらか残っていた。私たちは、ゾンビと戦うために必要なものはないか物色した。

 フライパンなんて盾にはならないかな。釘を撃つことのできるネイルガンがある。これで、マフィアを倒して行く映画があったなー。よし、一つ買って行こう。斧に鎌、草焼きバーナ―なんかをおじさんはカートに乗せていた。

 私は、防塵マスクとゴーグルをカートに乗せた。特殊部隊みたいでカッコいいのだ。あと、虫取り網も乗せておいた。何か役に立つことがあるかもしれないし。

 残念ながら、食料はほとんどなかった。あっても、ドッグフードやキャットフードといった動物の食料だけだった。あとは、車に乗って、ここから立ち去るだけだ。でもこういう時にこそ、落とし穴があるのだ。

「ナナセ、囲まれてるぞ」

 リンが目を開けて言った。

「え、うそ。ゾンビに?」

「ああ、真っ黒だ。この辺りのゾンビは、どうやらけっこう賢いみたいだな。隠密に、お前たちに気づかれないよう行動しているようだ」

「じゃあ、急いで車に乗って逃げないと」

 車は、駐車場に停めてある。一応シートをかぶせており、周りからは隠しているけど。どうかゾンビたちに見つかりませんように。

「やめておいた方がいい。狙い撃ちにされるぞ」

 武器を構えながらおじさんが言った。いつも以上に表情が険しい。

「数はわかる?」

「五十か六十くらいだな」

 リンの答えもあいまいだ。

 戦うためには武器が必要だ。最悪なことに、武器のほとんどが車にある。おじさんもリョウカさんも、ハンドガンとナイフしか持っていない。

 けど、おじさんは、すこしでも相手の戦力をそごうと頭をフル回転させた。まず、急いでワックスを入り口付近の床にぶちまけた。リョウカさんは、裏へまわり出口を確認してきたようだ。

「一応出口もあるにはあるけど、ゾンビの気配もあったわ」

「そうか。問題は、どんな武器を使用してくるかだ。ゾンビになったとはいえ、隠密活動ができるほどだ。銃は当たり前のように使用してくるだろうな」

 撃たれれば終わり。まさか、ゾンビに噛まれるのではなく、撃たれるかもしれない状況になるとは思わなかった。

「リン、百円玉」

「おうよ。任せとけや」

「魔法少女の姿なら、撃たれても大丈夫なんでしょ?」

「俺さまの魔力を上回ることがなければな。この時代の武器がどれくらいのものかは知らねーけど、車の上にある機関銃くらいなら平気だぜ」

「よし、じゃあ魔法少女でお願い」

 私は服を全部脱ぎ、変身した。この服が散らばれば、もう着るものが無くなっちゃう。私も学習したのだ。

「おいモモ、お前またそんな格好を」

「細かいことはいいの。来たみたいだよ」

 リンと合体すると、リンが見えているイメージを共有することができるの。やっぱりリンが言った通り、あっちにもこっちにもゾンビの気配がする。でも、本当に朧気で数がわかりにくかった。

 そこへ、一体のゾンビが、ゆっくりと入って来た。別に武装している様子はなく、よく見るゾンビだと思った。すると、おじさんが仕掛けたワックスに足を滑らせ、転んでしまった。そのゾンビにつづけと言わんばかりに、次々とやって来るけど、みんなすっ転んでおかしかった。でも、全てはゾンビたちの計算通りだったみたい。うまい具合に、転んだゾンビたちのおかげで、ワックスが多い部分に橋がかかったようになっているのだ。

 そこへ、巨大な腕をしている鉄仮面を被ったゾンビが現れ、ゾンビの橋を渡った。体重が重いのか、潰れてしまうゾンビもいた。

 あの鉄仮面ゾンビが持っているのは機関銃で、手当たり次第に撃ちはじめた。私たちは、とりあえず後ろへと退いた。その際、おじさんが、いつの間にか作っていた火炎瓶を、鉄仮面ゾンビに向けて投げた。それが、ワックスにも引火し、たちまち大きな火柱が上がった。なおも機関銃の音は響き、棚のものをどんどん破壊している。

「旧式の武器みたいね」

 リョウカさんが言った。

「新型の武器は精密だからだろう。俺だって扱いには困っていたぐらいだから、ゾンビたちの気持ちは理解できるぜ」

 おじさんとリョウカさんは、床に伏せながら進み、銃を構えて撃った。私は伏せたまま動けずにいた。魔法少女の格好だけど、攻撃は打撃しか行えないから、どうしようもない。リンは、銃弾は当たらないって言ってたけど、怖いんだよね。 

 そういえば、ネイルガンを買ったんだった。勝った袋の中から取り出した。

「ねえ、リン。これに魔力込めたりできないの?」

「できなくもないぜ」

「どうやればいいのよ」

「お前が百円玉を食べるんだ」

「えー。私、お金なんて食べたことないよー」

「心配すんな。いまのお前の状態は、悪魔みたいなもんだ。だから、百円玉は胃と腸で吸収されず、魔力として吸収されるんだ」

「信じていいの?」

「ああ。お前、まさかクソと一緒に出ると思ってんだろ?」

「そんな下品な事言わないで」

「俺さまが保証してやる」

「言ったね。もし、うんちと一緒に出てきたら、真っ先にあんたに食べさせてやる」

「おー怖い怖い」

 てことで、私は小銭袋から百円玉を取り出した。カビが生えていたので、綺麗なモノと交換した。

 イヤだけど、おじさんとリョウカさんの手助けをするんだ。

 目をつぶり、口の中へ放りこんだ。あれ、意外と噛めるぞ。ジュースの中に入っている氷みたいに、ぼりぼりと言っている。なんか別の力が沸いて来ている感じがした。

 ネイルガンを手に持ち、私は立ち上がった。

「モモなにやってる。撃たれるぞ」

 おじさんの声が聞こえるけど、なんだか遠くから聞こえているみたいだ。それだけ、ゾンビたちの撃つ銃声が激しいのだ。

 私は飛び上がり、天上から下へ向けてネイルガンを撃った。でも、ただ撃つのではなく、リンが言うイメージを大切にして撃った。一度に、五十本ほどがネイルガンから放出されると、宙で動きを止めるイメージをした。よし、うまく行った。それから、釘たちに念を込めると、それぞれの釘たちが、弧を描き回転しながら勢いをつけてゾンビたちに直撃した。その際に、大きな爆発が起こるイメージを付け加えたため、一度に、十体ほどのゾンビを爆散させることに成功した。

 後ろを振り返ると、おじさんとリョウカさんの口があんぐりと開いていたので、ピースサインをしておいた。

 

 


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