第584話 ロゼオフルールガーデンカフェ1 カフェ開店と服を着た女性様



「いらっしゃいませ! ロゼオフルールガーデンカフェ、本日オープンとなります!」




 翌日お天気にも恵まれ、快晴の王都フルフローラ。


 お店の前には商売人アンリーナの仕掛けた事前宣伝の効果か、とんでもない人数のお客さんが並んでいる。



 スタッフさんの声が桜咲くガーデンに響き渡り、それを合図にカフェの大きな門が開かれる。



 鉄製の豪華な門。


 商売人アンリーナはここにも力を入れ、ただの鉄格子のような門ではなく、花の国フルフローラで栽培されている綺麗な花が模様や飾りとして取り入れられている。


 アンリーナ曰く、閉店時にお店の顔となるのが閉じている『門』。お店がやっていないときに通りがかった人に「ああ、なんか入ってみたい雰囲気のお店」と思っていただけるようなコンセプトで作ったとか。


 門にはオシャレなデザインで『ロゼオフルールガーデンカフェ』と表記され、そこにはしっかり『ジゼリィ=アゼリィ』の名前も入っていた。



 このカフェはアンリーナの会社であるローズ=ハイドランジェが経営しているのだが、お店で出す食べ物とかのレシピ提供は我らがジゼリィ=アゼリィの神の料理人イケボ兄さんなのだ。


 アンリーナと兄さんが話し合い、誰でも同じ味で作れるようなレシピを開発してくれた。


 昨日の夜開かれた関係者限定プレオープンで食べさせてもらったが、どれも納得の味で美味しかった。



 簡易ではあるが、この異世界にまた一つイケボ兄さんの味が食べられるお店が増えたってことだ。




「オープン記念ガーデンセット四つですね、ありがとうございます!」


 ホールスタッフさんの元気な声が聞こえるが、その記念セットがオープン期間の目玉商品で、紅茶にフルフローラ産のハチミツたっぷりフルーツパンケーキ、さらにはローズ=ハイドランジェ特製のロゼオフルールガーデンをイメージした香水が入った小瓶がもらえるお得なもの。


 香水にはしっかりナンバリングが表記されていて、これがガーデンカフェのオープニング期間しか手に入らないという限定品。


 アンリーナがかなりの数を作ったので、頼んでくれた人全員に行き渡るのでは。


 

「うは~さっき警備に駆り出された騎士に聞いたけど~、この行列、お城まで続いているってさ~。人数はカウントしていないけど~下手したら王都の人口ぐらいいるんじゃない~? あっはは~」


 爆笑しながら俺の側に歩いてきた水着魔女ラビコ、彼女にはカフェ開店イベントの記念として例の魔法花火をお店の前で上げてもらった。


 事前宣伝で『あの世界的大魔法使いラビィコールがオープン記念で来店!』というチラシをアンリーナが配布したからか、ラビコ見たさに来てくれた人が相当いるっぽい。


 さっきから「ラビコ様ー!」とか声援が飛んでいるしなぁ。



 イベントが終わり戻ってきたのだが、まーたこの魔女、フルフローラのことを悪く言いやがって。


 ここからフルフローラのお城までは歩いて十分ちょい。


 確かに相当な人数のお客さんが並ばれていると思うが、人口が減っているとはいえ王都の人口はもっといるでしょ。


「あのなラビコ、王都にはもっと多くの人が住んでいるに決まって……」



「いやぁすごい! まさかフルフローラ王都にこんな行列が出来ようとは……私は嬉しい、とても嬉しいぞ! 本当に王都の住民全員が来てくれたのではないか? あはは!」


 そのフルフローラの王族であられるローベルト様がテンション高く笑うが、王族様が俺のフォローを蹴らないで下さいよ……。


「王都民の参加率百パーセントとかとンでもねぇな! よく飼いならしてンじゃねぇかローベルト、ニャッハハ!」


 猫耳フードをかぶったクロが大爆笑でローベルト様の話に乗っかるが、同じ王族であるあなたが『王都民を飼いならしている』とか言うなよ。問題発言だぞ、それ。


 クロは大国と呼ばれる魔法の国セレスティアのお姫様にあたる立場。今はお忍びで俺のパーティーに入っているのだが、お聞きいただいた通り言動がヤンキーのそれで、たまにクロが高貴な立場の人間って忘れるな……。


 自由な感じで俺は好きだけども。



「……マスター、ここで結婚でもいいです……」


 俺たちはガーデンカフェ内の端っこに用意してもらった関係者席にいるのだが、バニー娘アプティさんがサービスで出してもらった全種類の紅茶ポットを飲み干しご満悦顔。


 ここで結婚ってワードは意味が分からんが、多分おかわりが欲しいってことだろう。追加注文っと。



「ふふ、見てください! アンリーナさんにガーデンカフェ限定商品をいただいちゃいました!」


 宿の娘ロゼリィが両手いっぱいに綺麗な容器に入った化粧水やらシャンプーやらを抱え、ニッコニコ笑顔で俺に見せてくる。



 ああ、カフェの併設ショップでは商売人アンリーナの会社ローズ=ハイドランジェが作った、ここでしか買えない商品が売っているぞ。


 ロゼオフルールガーデンをイメージして作られた特別製で、香水や口紅ボディソープなど初期ロットは全てにナンバリングが表記され、0001~9999まであるらしい。


 開店直後から飛ぶように売れているが、とりあえず今日来ていただければなんとかナンバリング商品が手に入るのでは。



「しかも番号が全部一番なんです! やりました、関係者特典ってやつですね!」


 ロゼリィが抱えている化粧水を見ると、確かに『0001』と書かれている。


 まあロゼリィはこのガーデンにレシピを提供した『宿ジゼリィ=アゼリィ』のオーナー夫妻の娘さんだしな、0001を受け取る権利はあるだろう。


 アンリーナがここに来る前にロゼリィに用意してあるって言っていたしな。



「喜んでいただけてなによりです。ロゼオフルールガーデンをイメージした香りのシャンプーの売れ行きが特に多く、もうすぐ『1000』番台に入りそうです」


 商売人アンリーナがロゼリィに向かって大きな身振りで頭を下げ、現在の売上推移の紙を見せてくれた。


 すご、まだ開店してすぐだってのに、もう千個近く売れてんのかよ。


「昨日師匠がご提案下さったカードのおかげもあり複数買われていくお客様、また来ますと言ってくれるお客様が多く、本当に師匠のあの手この手の発想には毎回驚かされます」



 そう、昨日アンリーナが書類と朱肉を装備し蒸気をまとった獣になったとき、ふと思いついたんだ。


 カフェや商売の成功には絶対に欠かせないリピーターの存在。それをどうにか作り出さなくてはならない。


 商品や食べ物が良い物であれば、それを気に入ってくれた人がまたあれが欲しい、あれが食べたいと来てくれるかもしれない。


 だがこれでは再度来店してくれるというアクションを起こすのにひと押し足りない。


 そこで俺はそのあとひと押しになるであろう物、ポイントカードを提案した。


 異世界に来る前の日本では当たり前のような物であるが、こっちの世界ではあまり見たことがない。



 細かなことを言うと、十Gでポイント一つ。まぁ日本感覚千円でハンコを一個押してもらえ、五個貯まるごとに四・五杯は飲める紅茶ポットが無料になり、さらに特別なアイテムと交換できる。


 そのアイテムとは、アンリーナの会社で今後発売予定で現在開発中の化粧品やシャンプーなどが入った小瓶。


 ローズ=ハイドランジェ製の商品は世界的に人気で、新商品が出るたびに話題になりお店に行列が出来るほど。


 その新商品をこの『ロゼオフルールガーデンカフェ』内でポイントを貯めて貰えれば、発売前に試作段階の物ではあるが先行で手に入るという。



「ローズ=ハイドランジェとしましても発売前の商品の宣伝が出来、評判、感想という情報が事前に手に入ることで実際に売り出す完成品の精度を数段階上げることが可能になります。お客様には発売前の商品が先行で手に入るという満足感、もしかしたら優越感をご提供できるかもしれません。そしてそれらのアクションの収束先、ポイントカードの本当の目的は……」



「そう、リピーターの確保によるお店の売上安定化、っというわけね」



 アンリーナの後ろから見るからに質の良いスーツを身にまとった女性が現れセリフをつなげる。


 

「ハァイ英雄ボーイ。ソルートンの商業施設以来、数日ぶりね。私の名前、もちろん覚えているわよね?」


 え、あれ、ソルートンの商業施設? そこでこんな美人さんと出会ったっけ?



 しかしこの顔見覚えが……


 ああ、なんかすぐに記憶と一致しないと思ったら、この女性が『服を着ている』からだ。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る