第577話 花の国の花づくしカフェ2 アンリーナのプロデュースと愛犬の敵判定様




「花の国フルフローラ最大の港街ビスブーケに到着となります。ここからは魔晶列車に乗り換え、二時間後には王都フルフローラに入れるかと」



 補給を終え四時間後の夜十九時、アンリーナご自慢の船グラナロトソナスⅡ号が港にゆっくりと入っていく。


 何度も来ている港街ビスブーケ。


 特徴としては建物が赤みがかった石造りで、街中に花が惜しみなく飾られている。広い空に海、赤い建物に綺麗な花、うん、活気もあるし見ているだけでなんかワクワクしてくる街。




「夜でも暑~、いや~しかし何度来ても『花の国フルフローラ』はここだけで満足出来ちゃうね~。王都まで行く人は少ないってのもうなずけるかね~あっはは~」


 船を降り魔晶列車の駅までの道すがら、水着魔女ラビコがニヤニヤと俺の右腕に絡み笑う。


 まぁ……確かになぁ……この港街ビスブーケには観光客が求める『花の国フルフローラ』の要素が全部あるんだよな。


 以前フルフローラの王族であられるローベルト様が、ビスブーケだけで満足して帰ってしまう観光客が多くて王都まで来てくれないんだ、と嘆いていたな。



「ビスブーケから王都フルフローラまで魔晶列車で二時間ほどなのですが、近くにあるペルセフォス王国のティービーチのようなリゾート地を求められると、内陸にある王都フルフローラは弱いかもしれません」


 商売人アンリーナが街のあちこちに貼られているチラシを確認しながら言う。


 お、そのチラシはロゼオフルールガーデンカフェの宣伝のやつか。さすがアンリーナ、事前にあれこれ手を回しているようだぞ。


「遠くにはなりますが、一般的な『王都』のイメージで皆様が求める場所はやはりペルセフォス王都だったり、水の国オーズレイクの王都のような高い建物がたくさん立ち並び人口が多くお店がいっぱいある場所になるでしょうね。その戦いでも王都フルフローラは苦戦となります」


 アンリーナが商売人としての意見を冷静にズバズバ言うが、これをローベルト様が聞いていたら泣いちゃうんじゃ……。


「なので王都フルフローラ観光はそういう戦いには参戦しません。ローベルト様が以前観光客の後をつけていたら王都フルフローラが『田舎王都』と呼ばれ悔しい思いをした、と言っていました」


 そういや……言っていたな。


 つか王族様が観光客の後をつけるなよ、と……。


「しかし『田舎』とは全てが悪いイメージの言葉ではありません。都会から離れ、落ち着いた場所に行きたいと願う人だっているのです。むしろ『田舎王都』と呼ばれている王都フルフローラはチャンスなのです」


 むしろ田舎がチャンス? 


 はてどういうことなのか。


「今から都会的な王都にしようとしても、予算がかかりすぎます。王都フルフローラはどちらかと言うと牧歌的な風景なので、それを最大限活かし、『田舎』を全面に押し出した長期滞在型避暑地、セカンドライフを望む方々にのんびりと流れる時間を楽しんでもらう『癒やし』を提供する方向が強みかと」


 ほう、むしろ田舎と呼ばれている状況を強みに変えていくわけか。さすがアンリーナ。


「さらに各地のローズ=ハイドランジェの取引先の企業とお話させていただき、社員の皆様が休暇を楽しむ施設をフルフローラに作りませんか、と呼びかけてみましたが、他のリゾート地よりかなり安価で豪華な施設が作れると、好印象を持たれる企業が多かったです」


 なるほど、保養所か。


 個人の観光客より、大口の企業系を攻めたのか。


「すでにローベルト様にはご相談を持ちかけ成立、何社かの保養所の建設が始まっています。王都フルフローラは他の国の王都より土地の価格がお手頃なのもあり、話がまとまるのが早かったですわね。のんびりを求める時間は王都フルフローラに、そしてリゾートを求める時間には魔晶列車で二時間のビスブーケへ。使い分けで強みを生かしていければ、と」


 ほえーすげぇな、さすが大企業ローズ=ハイドランジェの娘アンリーナ。


 花の国フルフローラをプロデュース、ですか。



「さらにペルセフォスのサーズ様が支援に乗り出され、王都ペルセフォスから王都フルフローラへの直通魔晶列車を増便、しかも交通費の半分をペルセフォスが負担するというキャンペーンを始めて下さいました」


 ソルートンに来てくれたときローベルト様とサーズ姫様が何やら話していたが、それがもう実行されているのか。


「なんか……すごいな、サーズ姫様まで動いているとか、話が大きすぎて……」


「そうですね、ですがここまで大掛かりに動けたのも、全て師匠のおかげなんですよ」


 話に圧倒され俺が呆けた顔で言うと、アンリーナが嬉しそうに俺を見てくる。



「あっはは~それはそうだね~。フルフローラは他の国とあまり上手くやれていなかったイメージだけど、社長が現地に行ってローベルトの信頼を得て、さらに変態姫と引き合わせてペルセフォスと繋がりを持たせた。アンリーナっていう大企業の娘も巻き込んで、フルフローラが一気に広い視野と行動力を得たって感じ~?」


 ラビコがゲラゲラと笑い、通りがかりのお店でお酒を買う。


 おい、たった二時間の列車で酒飲む気かよ。


「師匠がいなければ、我がローズ=ハイドランジェは花の国フルフローラに注目はしなかったでしょう。サーズ様も、師匠がローベルト様と引き合わせたから動いたのだと思います。この試みが成功すれば、王都フルフローラに師匠の像が立つかもしれませんよ」


 アンリーナがニコニコと言うが、俺は何もしていないって。頑張ったのはアンリーナであったりサーズ姫様であったりで……。



「改めてですが、師匠の人を引き寄せる力の強さを感じましたね。本当に今まで見たことのないタイプです。剣や魔法ではない力で人を引き寄せ国を繋げていく、まさにこのアンリーナ=ハイドランジェの夫になるために、商売をするためだけに生まれてきた男性……!」


 突如興奮し始めたアンリーナが右手に白紙、左手に朱肉を装備し俺に襲いかかってきた。


「あ、だ、だめです……! 彼はもう私の宿の若旦那になると決まっているんですから……!」


 宿の娘ロゼリィが俺の前で両手を広げるが、ヌルンとした動きでアンリーナがロゼリィを突破。


「アンリーナってよ、冒険者になっても結構通用すンじゃねぇ? その動き、絶対に被弾率低いだろ……っと、キングはアタシも狙ってるし簡単にはやらせねぇよ!」


 猫耳フードのクロが青い冷気を両手にまとわせ、アンリーナを止めに入るが、蛇みてぇな動きでヌルリと動くアンリーナは止まらない。


 つかクロさん魔法まで使わんでも……。


「おお~? やるねぇアンリーナ、よっし、私もいっちゃうよ~」


 二人突破したアンリーナにラビコがニヤァと笑い、威力ゼロの雷魔法を放つ。


 お、おい! アンリーナは素人なんだぞ!


「ヌフフヒヒヒヒハハハハァァェ!」


 アンリーナが懐から鉄製の高級ペンを取り出し放り投げ、雷を誘導させ無力化。


 ラビコの顔付近に大量の白紙をばらまき、視界を奪う。


 す、すげぇ……アンリーナってただの商売人なんだよな?


「うは~やっられた~ラスト、アプティ頼むよ~」


「…………これは変異型実力者……トリッキータイプは苦手、です……あ、紅茶……」


 ラビコがバニー娘アプティを呼ぶが、アンリーナがポケットから袋詰された何かをダミーのように放り投げ、アプティがそれら全てをキャッチ。


 そのすきにアンリーナが俺の背後に回り込み、右手の親指に朱肉をなすりつけてくる。


 く、この音もなく無駄のない動き……忍者か何かか……!



「……ベッス!」


「ヌゴファアアア! あ、愛……師匠と私の……あい……」


 今までずっとおとなしくしていた愛犬ベスが首をかしげ吼える。


 軽い衝撃波が起き、爬虫類アンリーナが撃沈。



 駅前で組み手みてぇなパフォーマンスをやったもんだから、周囲に人が集まり拍手が起こる。


「はいは~い、劇団アンリーナは以上となりま~す。近日オープン王都フルフローラのロゼオフルールガーデンカフェをよろしく~っと。来てくれたらこの世界的な大魔法使いラビコさんと会えるかもよ~あっはは~」



 すぐに水着魔女ラビコが紫の魔法弾を上空に打ち上げ、誤魔化し宣伝トーク。


 助かるラビコ!


 俺は倒れ込んだアンリーナを抱え、駅にダッシュ。



 くそ、なんで普通に駅に行けないのか……。


 そしてついに俺の愛犬がアンリーナを敵判定したけど、まぁあの動きならしょうがないよね……。


 

 ちょっとキモ怖かったし。













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