第574話 セレサの雑誌撮影の裏話とモヒカンレイヤーロック様
「うーむ、これマジでいいアングルで撮っているよなぁ。絶対にカメラマン俺と趣味が合う」
朝七時過ぎ、宿ジゼリィ=アゼリィの一階にある食堂のいつもの席で朝食をいただく。
足元で元気にリンゴに食らいつく愛犬ベスの頭をたまに撫で、俺はこの静かで落ち着いた空間を楽しむ。
昨日の夕食後、ラビコのお酒に付き合っていたら朝三時過ぎまで時間がワープ。
途中まで一緒に付き合ってくれた宿の娘ロゼリィや商売人アンリーナに猫耳フードのクロはさすがにキツかったらしく、まだ起きてこない。
酒宴の当の本人である水着魔女ラビコも疲労したらしく、まだ寝ている様子。
いや、あいつは何も用事がなければ昼まで寝てるやつだからいつもどおりか。
バニー娘アプティは俺を起こしたあと、やはり眠かったのかコテンとベッドに横になって寝てしまった。
なので俺は久しぶりに愛犬との平和で充実した時間を過ごしている。
食後にちょっとお高めの紅茶を頼み、優雅に香りを楽しみつつ雑誌をめくる。
「五人が一番エロく見える角度とポーズを見極め、その一瞬を一枚の写真に収めるとかいう奇跡。特にオリーブさんの大きな……」
「オリーブがどうかしたんですか隊長? あ、この雑誌は宿が特集されたときのやつですね」
──ハッ、しまったつい声に出して感想を言っていた……。
違うぞ、俺は朝の優雅タイムにエロ本を音読していたわけではない。
今俺の横に来た正社員五人娘の一人セレサが言ったように、以前宿が特集された雑誌を見ていたんだ。
そう、オシャレ健全雑誌。
「この雑誌が発売されてから、本当にお店に来てくれるお客さんが増えましたよね。そして隊長お一人ですか? ああ、昨日の宴会、相当遅くまでやっていたから皆さん起きてこないのか……ふふ、やった! 隊長と一緒に朝ごはんだ!」
ポニーテールを揺らし、私服姿のセレサがダッシュでカウンターに行き、モーニングセットを注文。
「今日のお仕事が朝九時からなので、食堂でご飯をゆっくり食べてからにしようとしていたんです。それがまさか隊長と二人っきりでご飯が食べられるなんて、すっごくラッキーです!」
本日の朝セット、海鮮スープパスタと果物たっぷりサラダに紅茶を持ってきたセレサが俺の左横にドカンと元気よく座る。
「ああ、この写真ですか。これは来てくれたカメラマンのかたがすごい指示をしてきて、何度か撮り直したんですよ。このお店を宣伝するうえで、看板娘である五人の写真はとても大事とかなんとか」
セレサが俺がじっくり見ていたページ、正社員五人娘が超エロいポーズを取っている写真を指し言う。
「そうだったのか、俺たちがいない時ですまなかったな。どうやらアンリーナが仕掛けた作戦だったらしくてさ。でもこの写真、すごい良いと思うぞ。さすがに何度も撮り直しただけはあるというか、一人ひとりがとても魅力的なんだ。俺、この雑誌を王都で買ってから頻繁にこの写真を見て夜に……」
……あっぶね! 夜に……って俺は何を言うつもりだったんだ。
ええ、何度かその、一人想像の翼で大空を舞い上がりましたよ。
ほら綺麗な言葉。
「夜に? ……隊長に質問があるのですが、生身と本と……どっちが興奮するのでしょうか……」
セレサがすっと俺に近付き、首元にふぅっと息を吹きかけてくる。
ホアァァ! な、なにをするんだ!
生身と本? そんなん生身に決まってんでしょーが! でも実際にはそれが出来ないから本で頑張っているんですよ!
……つか俺、エロ本持っているけど見たことないな。ロゼリィの封印がどうしても外せないから。
うん、言われて気が付いたが、俺大体全部想像で頑張っている。おお、なんと経済的な少年なのか。
星に優しい少年。
うむ、なんかのタイトルに使ってもいいぞ。
「そのカメラマンさんに、君は足が長くて綺麗だから、好きな人に見せつける感じでポーズを、って言われたんです。他のみんなも同じ、すごく恥ずかしかったけど……好きな人、そう、隊長に見てもらいたいって思ってポーズを取ったんです。ほら隊長、私の足です……写真と、どっちがいいです……か?」
俺がクレヨンで書いた雑な流れ星にまたがって夜空を飛んでいる絵本の表紙を想像していたら、セレサが火照った顔でスカートをめくり、その綺麗な太ももを見せてくる。
え、この想像の絵本、表紙めくったら急にエロくなったけど何があったの。
「ちょ、セレサ……!」
「ロゼリィさんとかが必死に隊長からエッチな本を取り上げるのは、本で満足してもらったら困るから、ですよね……?」
いやその、本で満足して女性に欲のままに手を出さないのはとても健全男子で紳士じゃないですか。
つか手を出したら犯罪だし、俺って想像で超満足出来る一人上手系男子みたいです!
「隊長、まだお仕事まで一時間ぐらいあります……その、私が一人暮らしを始めたことは覚えていますか? 歩いてすぐに家があります、どうですか……お部屋に来てくれたら私を触り放題に、自由に出来ますよ……」
そういやセレサは宿の近くに家を借りていたな。
以前正社員五人娘全員と行った記憶がある。そしてそこで私ってドジっ子だから合鍵を預かってもらえませんか、とか言われて鍵をもらったな。
あの鍵は部屋に大事に置いてあるが……
「合鍵も渡しましたよね……どうして来てくれないんですか……私が夜に一人で寂しくて怖くて怯えているのに、どうして隊長は来てくれないんですか……。雑誌に載ってから、私たち何人もの男性に誘われたりしました。後を付けられたこともあります……怖かったです……」
な、マジかよ……!
誰だよ俺のかわいいセレサを怖い目に合わせやがった野郎は!
許さねぇぞ……!
「あ、それ俺たちっす兄貴。ジゼリィ姉さんに頼まれて、スタッフさんの護衛役やっていたっす」
セレサが超エロい顔で座っている俺の足にまたがってきたところで、パンをモッシモシ立ち食いしていたトゲ付き肩パット装備のモヒカン男が真横に立った。
「き、きゃああああああ!」
「え、あ俺っすよ、ほら常連の! あ、兄貴助けてっす!」
背景にバラなんかが飛んでいた空間に急に世紀末から来たような男が現れセレサが驚き悲鳴を上げる。
悲鳴を上げられセレサ以上に驚いた顔をした宿の常連客、世紀末覇者軍団のモヒカンが俺に泣き顔で抱きついてくる。
くそ……なんだよこの状況……さっきまでエロかったのに、急に世紀末になったぞ……!
あとモヒカン、俺に抱きつくな。
お前等この宿の温泉施設に備え付けのローズ=ハイドランジェ特製花の香りのボディソープを使っているからか、見た目と真逆のすっげぇ甘ーい香りするんだよ!
「す、すいませんでした! まさか護衛を付けてくれていたとは……」
事情を聞き、セレサが必死にモヒカンに謝る。
どうにも世界的な雑誌に載ったから、とオーナーであられるローエンさんの奥様ジゼリィさんが、しばらくスタッフさんの周辺に護衛役として食堂で暇そうにしていた世紀末覇者軍団を雇ったそう。
大ごとにしたくなかったらしく、ジゼリィさんはスタッフの誰にも言わずに護衛をつけたんだと。
……まぁそれはジゼリィさんの英断なのだが、急にどこぞの世紀末的な漫画から飛び出してきたような見た目の彼らに夜に後をつけられたら怖いわな……。
マジでビジュアルは怖いからなこいつら。
心は子猫的に可愛いんだけど。
「誤解が解けてよかったっす。セレサちゃんとかみんな可愛いっすからね、変な男から守らないと。あと俺はジゼリィ姉さん派閥だから兄貴とロゼリィちゃんがくっついて欲しいっすけど、個人的にはセレサちゃんと兄貴って結構お似合いだと思うっすよ」
なぜか俺とセレサの朝食の席に同席してきたモヒカン。
なんだろうこの不思議な組み合わせのスリーショット。
ズリズリと俺のおごりの海鮮パスタをすすり、カメラのファインダーを合わせるような仕草で俺とセレサを見てくる。
「え……え!? ほ、本当ですか!? やっぱり周りからみたら私たちってお似合いの夫婦なんですか!?」
モヒカンのセリフにセレサが大興奮で立ち上がり叫ぶ。
「ふうふ? いや単にお似合いだなって。だって兄貴って五人揃っていたときには必ずセレサちゃんを一番最初に目で追って探すんすよ」
……よく見てんなモヒカン。
セレサは正社員五人娘のリーダー的な存在で、仕事も一番安定的に頼りになるので、全員いたらまずセレサに指示を出すんだよな、俺。
「私を最初に……!? 世界の女性で私を最初に探す……! た、隊長! 短時間でもいいので私の部屋に……!」
モヒカンが言っていない索敵範囲をセレサが言い、食堂の時計を見て俺を外に引っ張り出そうとしてくる。
や、やめろ、もう十分後からお仕事だろセレサ!
あと今気付いたが、セレサもこの宿の温泉施設を毎日使っているので、ローズ=ハイドランジェ製のボディソープの良い香りがする。
そう、この二人、同じ香りがする。
目を閉じれば、世紀末覇者軍団のモヒカンという強烈なビジュアルさえ脳内編集でカット出来れば、二人のセレサに囲まれて迫られるという妄想が完成する。
俺って天才だな。
……あ、いややっぱ無理、モヒカンのビジュアルってレイヤーロックで保護されているらしく、どうやっても消えねぇわ。
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